第45話 一方、商館では③

 膨大な魔力をぶつけあったラファエルとカエサルだったが決着は付かなかった。


「強いな、少しまずいっての」


 ラファエルは飄々とした態度だったがカエサルの実力に驚いていた。


「本気で斬りかかったんだがな」


 対するカエサルもラファエルの強さに戸惑っていたが気を取り直して口を開く。


「まあ、馬鹿正直に王国最強と渡り合うつもりは鼻からないけどな」


「……意味深なこと言うね、なんか考えごとでもある感じ? 教えてよ」


 ラファエルは首を傾げたあと、上空を見て眉根を寄せる。


「新手か!」


 ラファエルは上空から迫ってくる黒い影を見据えて大剣を構える。


 そして現れたのは茶髪赤眼の青年だった。金の刺繍が施された赤い革鎧を着ており、赤い刀身の剣を振るおうとしていた。


「ぬんっ!」


 ラファエルは青年の攻撃を受け止めると数歩後ろによろめく。


(なんという力だ。若いのに常軌を逸した膂力を誇っている……赤い刀身に赤い眼……この男はまさか!)


 さすがのラファエルも驚愕しつつも、相手の容貌で青年が誰か分かった。それはその場にいるルティアも同様だった。


「久々だなぁ! ラファエルのおっさん! そんでもってルティアとか言ったけお前? そのガキはエリアナとかいうやつだなぁ!」


 青年は両手を大仰に広げて辺りを見渡す。


「お姉様知り合いですか?」


「ここ北方諸国最大の国はカルディ帝国なのは知っているわね」


「ええ」


「カルディ帝国は代々、帝国最強の剣士を『剣帝』と呼んでいるわ。そして彼は帝国の第二王子でありながら『剣帝』と呼ばれていたわ。エリーが小さい頃だったから覚えてないのかもしれないけど何度か国同士の舞踏会や交流会で出会っているわ」


 ルティアは青年を軽蔑した目で見ていた。


「懐かしいな、あのときは全てが退屈でつまらなかったなあ!」


 青年はニヤケた顔でルティアに顔を向けた。


「相変わらずウザいやつね。あいつの名はカーディ・カルディ。今は『堕ちた剣帝』と呼ばれてるわ、先代の『剣帝』を殺害して国を出奔した男よ」


「酷い人……」


 ルティアからカーディの話を聞いたエリアナは唇を嚙み締めた。


「俺様は強い奴と戦いたいだけだ。そのためにこの傭兵団に身を置いた」


「おいカーディ、一対一でやらせないからな。こいつは手強い」


「しょうがねぇな」


 カーディはカエサルに対してやれやれと首を振った。


「こりゃあまずいな」


 ラファエルは苦笑しながら左右から迫りくるカーディとカエサルの様子を窺っていた。


 カーディは生まれながらにして人外の域に達した膂力と反射神経を誇っていた。剣技はラファエルとカエサルの方が数段上でも天賦の才によって力と速さはカーディの方が上手だった。


「ぐっ!」


 二人の強者を相手にするラファエルは防戦一方だった。攻撃を受け止めて後退し続けていた。そして次第に全身に切り傷を追っていた。


「逃げろ!」

 

 壁際までに追い詰められたラファエルは戦いを見守っている三人の少女に逃走すること進めた。


「させるわけないだろ! カーディ頼む! とりあえず目的の二人を連れていく! 戻ってきたら商会の娘を拷問するぞ!」


 カエサルは黒い稲妻となって一瞬でルティアとエリアナに迫る。


「ルティア姫! エリアナ姫!」


「よそ見すんなぁ!」


 焦るラファエルに対してカーディは斬り込む、


「こりゃまずいって!」


 二人は得物同士をぶつけて火花を周囲に散らした。


「「きゃっ!」」


 他方、カエサルはあっという間にルティアとエリアナをそれぞれ片手に抱えて青空が見える天井へと向かってしまった。カエサルは商会の屋上へと移動した。


「離せ」


「離せって言われて離すやつがいるわけ……っ!?」


 ルティアの反抗的な態度に応じるカエサルは前方から迫ってくる水のレーザーを横跳びで避けるようとするがレーザーは頬を掠めていた。


 カエサルは頬から流れる血を指で拭う。


「なんだ水属性の魔法か!? にしても魔力は感じなかった。避けにくい攻撃だな」


「あっ!」


 カエサルが状況を分析しようとすると、エリアナは上空を見て声を上げる。


 カエサルはその視線につられて空を見ると宙で佇んでいる少年――カシューがいた。

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