第44話 一方、商館では②
ルティアとエリアナはお忍びでフィンフィンの町に来るさい、選りすぐりの騎士を同行させていた。また、ルティア自身も王宮魔術師に匹敵する魔力量の持ち主ではある。しかし、騎士を一瞬にして倒し、突如として目の前に現れた黒い革鎧の男から放たれる威圧感にルティアは圧倒されていた。
(まるで蛇に睨まれた蛙ね。私じゃこいつに勝てない)
ルティアはこの場からどう逃げるかを考えていた。
「諦めろお姫さん達よ。俺からは逃げられない」
男は口端を吊り上げると、ルティアの視界は一瞬だけ明滅した。
「いない!」
ルティアの前方にいた男はその場から消えていた。
「う、後ろ!」
フェリーの言葉でルティアは背後を振り向く。
「なっ! エリー‼」
「おっと動くなよ。お前の妹が怪我しちまうよ」
「お、お姉様……」
男はエリアナの首筋に剣先を当てていた。一方、エリアナは声を震わせて顔を青ざめさせた。
「フエンジャーナーのお姫さんは大人しく俺についてこい、コパー商会の娘には聞きたいことがある、口を割らなければ拷問するだけだ」
男は冷たい視線をルティアとフェリーに向けた。
「あと戦おうなんて考えるなよ。俺の異名ぐらい聞いたことあるだろ『黒い雷』って名前のな」
「『黒い雷』……南海傭兵団の副団長ね。名前は確かカエサル・バーハだったかしら」
「なんで大陸の南方で活動している貴方様達が大陸の北方にいるのですか!?」
ルティアは冷静に相手の正体を語る。対照的にフェリーは焦りながら相手に質問を投げかけた。
「そりゃ欲しいものがあるからだな……さてお話はここまでだ」
カエサルは剣を揺らしてエリアナを怯えさせる。
「うぅ……」
「エリー! カエサルやめろ!」
「やめろと言われてやめるわけが……っ!?」
カエサルは突然、剣を引っ込めて跳び退く。
するとカエサルが立っていた場所の床がひび割れたかと思えば人が飛び出してきた。
飛び出してきた男は金髪金眼で赤い刺繍が入った黒いコート身に纏った中年男性だった。彼は背中に背負った大剣を抜いて談話室に降り立った。
「「ラファエル‼」」
ルティアとエリアナは現れた男の名を叫ぶ。
彼こそがフエンジャーナー王国の騎士を束ねる騎士団長ラファエル・ファンクスである。
「わっり! 遅れた! 会長と話していてさ」
ラファエルはバツの悪そうな顔を三人に向けた。
ラファエルはフランクでノリが軽い男だが王国最強の戦士だ。近隣諸国の中でも五本の指に入る実力者だ。だが、相対するカエサルも相応の強さを誇る。
「やはりいたな! ラファエル・ファンクス! 俺はカエサル・ハーバだ!」
「『黒い雷』か……つまりさっきの爆破騒ぎも南海傭兵団の仕業かよ、面倒なことしてくれさ。目的なんなの?」
「言うわけないだろ」
「じゃあ実力で吐かせようかな」
「やってみろよ」
カエサルが言葉を吐き捨てたあと、二人は魔力を解放した。
ラファエルの周りには白色の魔力が渦巻き、カエサルの周りには黒色の雷が迸っていた。
「はっ!」
カエサルは気合を吐くと同時に姿を消し、漆黒の稲妻となってラファエルに迫る。
「見えた!」
ラファエルは稲妻に向かって大剣を振るうとカエサルは姿を現して二振りの剣で受け止める。
「その程度で図に乗るなよ」
カエサルは再び漆黒の稲妻となってラファエルの周囲を跳び回りがら迫っていく。
対するラファエルは幾度も迫りくるカエサルを大剣で弾く。
「速いが……速いだけだ!」
ラファエルは剣に白色の魔力を纏わせて一回り大きくし、それを振るう。カエサルは半笑いで二振りの剣を頭上から振り下ろすと漆黒の稲妻が周囲に弾ける。
二人は鍔迫り合いをしたあと、後方に飛び退く。
「埒が明かないな、もう決めるか」
痺れを切らしたカエサルは半身で二振りの剣を引く。すると、全身に漆黒の稲妻を纏い、髪の毛が逆立つ。剣は黒色になり異様な圧迫感を周囲に放っていた。
ラファエルは敵から必殺の一撃がくるのを感じとり、真剣な面持ちになる。彼は剣を頭上に立てて、魔力で剣をさらに一回り大きくする。
「死ね!」「死ぬ気はないっての!」
大剣と二振りの剣がかち合う。膨大な魔力のぶつかり合いによって辺り一帯の床、壁、天井はひび割れる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
建物どころか地面そのものが振動を起こしていた。
「防御魔法を展開するわ! 二人も一緒に!」
ルティアは危険を感じ取り、妹と友人に魔法の発動を急かしていた。
「ちっ」
カエサルは舌打ちをしながら相手の得物を上方へと引き剥がす。
すると、天井に向かって、二人の魔力が放たれて天井が吹っ飛んでしまい、青々とした空が見えた。
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