第43話 一方、商館では①
時刻は一時間程前に遡る。
カシューが下水道で南海傭兵団と戦闘を行ったとき、コパー商会の商館では会長の娘であるフェリーとフエンジャーナー王国の王女二人が談話室でお茶会をしていた。
コパー商会は三〇年間、フレンジャーナー王国の商人達に生活用品や武具を仕入れており、王国の人々や軍備を支えているという実績がある。そのため、現国王と商会の会長が懇意にしていることもあり、彼らの娘達も交流している。
フィンフィン
「相変わらずこの商会が出すハーブティーは美味いわね」
ルティアはティーカップを口に運んだあと、満足気にしていた。
「厳選に厳選を重ねた茶葉を使ってますので」
「その茶葉、王国に持って帰るわ。売れるだけ売って」
「相変わらず決断が速いですね」
フェリーは友人の歯に衣着せぬ物言いに慣れており、動じることはなかった。
「にしてもあの子不思議な子だったわ」
「カシュー様のことですか?」
ルティアが視線を宙に漂わせながらぽつりと呟くと、横でクッキーを食べていたエリアナが反応した。
「ええ、見た目は完全に普通の人間なのに……異常な魔力量が精霊であることを物語っているわ」
「あの方、魔力を使わずに魔法みたいなこともできるんですよ」
「へぇ……」
ルティアが興味深そうに唸るとフェリーが口を開く。
「知識量も八歳児とは思えません。洗剤を一人で開発したと聞いたときは正直耳を疑ったのですが……彼が羊皮紙に書いた洗剤の製造方法は私達が考案したものより効率的です」
「とにかく人間離れしているということね。大きくなったら王国の魔術師として雇えないかしら」
「それいいですね」
エリアナは姉の何気ない提案に反応する。
そのとき、談話室の扉の外から騒ぎ声が聞こえてくる。
そして金属音が鳴り響く。
「戦いが行われているのですか」
フェリーの言葉で室内にいる者達は険しい顔をした。
その瞬間。
「ぐああっ!」
「「「!?」」」
甲冑を着た騎士が扉ごと吹っ飛ばされて、談話室に入ってきた。
「何者!」
ルティアは友人と妹の前に立ち騎士を吹っ飛ばしたであろうフードの男の前に立つ。
「…………大人しくすれば痛い目に合わずに済む」
フードの男は静かに佇んでいた。
「ルティア様は下がってください、私達がなんとかします」
吹っ飛ばされた騎士は剣を杖代わりにしてなんとか立つ。
依然、廊下側からは得物同士がかち合う音が鳴っており、激しい戦闘が行われていることが分かる。
「二人でやるわ」
「分かりました」
ルティアは騎士に指示し、片腕を前に構える。
「雷撃!」
球状の雷を放つ。フードの男は横へと跳ぶが、騎士が回り込んで斬り込む。
フードの男は難無く騎士の攻撃を弾くが、ルティアは球状の雷による追撃を加える。
「ぐああっ!」
フードの男はまともにルティアの魔法を受けて壁に背中を打ちつけた。
「お姉様、外の様子がおかしいです」
「ほんとね」
先程まで騒がしかった廊下は静まり返っていた。
「クックッ……あの方が来た……」
フードの男は尻餅をついたまま首をガクッと落としたあと、ルティア達の視界が明滅し――
「っかは!」
――騎士が突如、うつ伏せに倒れてしまう。腹部から血を流し床を赤く汚していた。
「!? ……今の攻撃見えました!?」
フェリーは緊張した面持ちでルティアに尋ねる。
「見えなかったわ……」
ルティアは額から冷や汗を流しながら倒れた騎士に治癒魔法をかけている妹を見つめる。
「フエンジャーナー王国の王女どもにコパー商会の娘だな」
無くなった扉から癖毛のある黒髪ロン毛で、褐色肌の男がやってきた。黒い革鎧を着ており剣を二丁携えていた。何より特徴的なのは頬に刻まれた切り傷だ。彼こそが街の衛兵達が話していた『黒い雷』という異名を持つ男だ。
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