第11話 幼馴染と手合わせした
突っ立っている僕は炎を纏うリルと対峙する。
今から手合わせするわけだ。
夜ということもあり、傍にはリルの親族。ラッカー長老、スロさん、オレシャさんがいた。
「遠慮はしないわ」
「どうぞ」
リルは右腕を振り上げた。
そこから炎の斬撃が飛び出してくる。今の状態のリルは炎を自由自在に放出できる。とはいえ、まだ幼いので炎の出力に限界がある。
炎の斬撃は僕の目の前まで到達すると消える。
正確には僕が消すようにした。
「どうやったのよ……でもまだまだ行くわよ!」
斬撃が飛び出し続けるが斬撃は僕の前で掻き消される。
幾度も飛び出してくる斬撃によってリルの姿が見えにくくなったとき。
「はっ」
リルは猫族特有の跳躍力を生かして一瞬で横に移動し、宙に向かって蹴りを放つ。すると、炎の塊が飛び出してきた。
「っ!」
面食らったが炎の塊は僕の側頭部で消える。
それと同時にリルは姿を消す。
「これでどう!?」
背後からリルの声が聞こえてきた。背後から熱を感じる。炎を放ったようだが。
「完全に後ろに回り込んだのにっ」
悔しそうなリルの声。炎は僕の背中に到達する前に消えたようだ。
「おお、カシュ―様、神如きの力じゃ」
「いやあ、敵わないなカシュ様には」
ラッカー長老とスロさんは僕を称えていた。
僕はくるりと後ろを振り向く。
「どうなっているのよ……」
リルは怪訝そうな顔をしていた。
「【元素操作】で大気中の窒素を僕の周りに固めたんだ」
「ちっそ?」
首を傾げるリル。
「窒素っていうのは物を燃やさない性質を持つからね。僕の周囲に火が点くことはないよ」
「意味分からないけど、そういうことなら、やることは一つよ」
リルは自信満々に人差し指を立てたあとに前傾姿勢をとる。
走ってくるきだ。
後ろに下がろう。
「逃がさないわ」
「逃げれるとは思ってないけど、ね!」
僕は語尾を強めながら腕を上に振り上げる。
【元素操作】でリルの前方にある土を何度も隆起させた。土の高さと横幅は成人男性ぐらいある。
リルは身のこなしが軽く、跳び箱のように土を飛び越えたり、宙でくるりと回って土を回避したりしていた。
炎の飛び道具が駄目なので僕に近づいて肉弾戦に持ち込もうということだろう。
「させないよ」
僕は再び土を隆起させた。
「わっ、でかっ!」
リルの目の前には家と同じ高さの隆起した土がある。
正面突破もしくは迂回するはずだ。
きっと俊敏なリルなら――
「――やっぱり、迂回してきたね」
リルは土を迂回し突っ込んできた。
まるで炎を纏った弾丸だ。
だが弾丸は途中で止まる。
「うわっ」
リルは足を止めて体勢を崩す。
「迂回するだろうと思って周りにある土を軟化させたよ」
リルは柔らかくなった地面の上でバランスを崩したというわけだ。
「相変わらずなんでもありね、ってきゃあ!」
突如、リルは逆さまにひっくり返る。リルは反射的にスカートを両手で押さえた。
僕は最後に隆起させた土の中に鎖を仕込んでいた。地中の鉄分を使って鎖を形成させたわけだ。そしてその鎖に足を絡めとられたリルはひっくり返って宙吊りになっていた。
「「…………」」
僕は顔が逆さまになったリルと目を合わせる。
リルは下唇を噛んでいた。
「僕の勝ちだね」
「こんなの戦いじゃないわよ」
「戦いだよ」
リルは両頬を膨らますが、すぐに止めた。
「……そうね。狩猟だって罠を仕掛けて得物を狩るわ。あれを戦いって言わないのは狩人に失礼だわ」
リルは頭が冷えたのが自分の考えを述べていた。
「あたしの負けよ。ということで降ろして」
「罰ゲームを受けてもらいます」
「は?」
リルは僕に対して目を細めていた。
僕は屈む。両手を伸ばす。リルの両耳を掴む。
「にゃぁああ!」
リルは艶やかな声を上げた。
僕は指先でふにふにと両耳を揉み続けた。
「ひゃああ! 動けないのに! 鬼畜! 鬼! 変態!」
「幸せだ」
僕の言葉でリルは体を捩らせながら顔を赤くする。
「ほんとおぬし達は仲がいいのう、ほっほっほ」
ラッカー長老は愉快そうだ。
「お爺ちゃん! 助けてよ、にゃ、にゃああ」
耳を揉み続ける。
リルは体を左右に振って大暴れだ。そろそろ離してあげよう。
僕は鎖を消し、隆起させた土や軟化させた地面を元に戻した。
リルは鎖がなくなると、地面に向かってくるりと回って降り立つ。
「はぁはぁ……」
リルは顔を上気させて地面に座り込んだ。
「あらあら……ずいぶんとカシュ―様に遊ばれましたねぇ……」
「分かってるなら助けてよ」
オレシャさんも愉快そうだ。
「あたしもうお嫁に行けない」
リルはチラッとこちらの方を見る。
「はっはっ、じゃあカシュ―様の奥さんにでもなるか、いてっ!」
リルは立ち上がってスロさんの脛を蹴っていた。
そのあと、リルは後ろ向きで歩く。
「べーっ」
僕に向けて悪戯っぽく舌を出したあと。
「また手合わせしてくれる?」
心配そうな面持ちで聞いてきた。
「もちろん」
「でも次はあたしが負けても耳触るの無しだからね!」
それはとてもともて残念だと思った僕だった。
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