第10話 魔物狩りの時期になった
スローライフを送っていると自負している。
でも森の中で生きる以上、血生臭いこともやらないと駄目だ。
狩猟、獲物の解体も血生臭いことに該当する。ただ、ここは異世界だ。凶暴な魔物を退治することだってある。
レガリアの森の中心にある神樹から結界が発せられている。結界の範囲内に魔物が立ち入ることはないけど、結界外は話は別だ。無害な魔物ならばいい。だが、攻撃的で凶暴な魔物が繁殖しすぎると森の生態系が破壊されたり、結界の外で歩く者に危害を及ぼしてしまう。そこで、定期的に魔物狩りを行うというわけだ。
今、レガリアの森は夏の時期になった。この夏に魔物の活動が活発になるので魔物狩りが始まる。
そして魔物狩りの無事を祝うための
神樹内にある祭壇前に僕は立っていた。
僕と向かい合うようにラッカー長老を含む村の重役達がいた。歳を召された方達だ。
皆、膝をついて祈るように手を組んでいる。
「どうか今年も無事に魔物狩りが終わりますように」
ラッカー長老は喋り続ける。
「女神ルナティック様どうか我らを見守りたまえ。神樹に眠る精霊女王レガリア様よ、そして貴方の子であるカシュ―様よ、どうが我らに加護を与えたまえ」
ラッカー長老達は僕の眼前で頭を下げる。ただ、今は彼らの風習を尊重し見守ろう。
ラッカー長老的には僕の親が精霊女王さんということになっているらしい。
その辺のことはなんでもいいけどね。
「今年は僕も狩りに付いて行っていい? 僕の力があれば助かると思うんだ」
僕の発言で皆、ざわめきだす。
「カシュ―様に万が一のことがあれば」
「カシュ―様が魔物に遅れをとるはずがないだろ」」
「しかし、これはどうすればいいのか」
皆が困っているとラッカー長老が口を開く。
「カシュ―様の意思に反することはレガリア様そしてルナティック様の意思に逆らうのと一緒じゃ!」
ラッカー長老は一喝した。
「「「カシュ―様! 申し訳ありませんでした!」」」
「あ、うん。いいよ全然」
皆、頭を九〇度にして頭を下げていた。
その日の晩。
夕食時、家の住人と歓談した。
今日の夕食は玉ねぎ、きのこ、鶏肉、マカロニが入ったグラタンだ。チーズたっぷりで旨みが口の中に広がる。
「えぇ! カシュ―も魔物狩りに行くの⁉」
「うん」
リルは口を開けて驚いていた。
「あたしも」
「駄目じゃ」
ロッカー長老に一蹴されるリル。
「ママ! パパ! 魔物狩りあたしも行きたい!」
「ちょっと心配だわぁ……」
「せめて一二歳ぐらいになってからだなあ」
「四年も待てないわ」
オレシャさんとスロさんにも魔物狩りに行くのを反対されていた。
「そんなに行きたいの?」
「だって、カシュ―だけずるい」
口を尖らせるリル。
スロさんは口を挟む。
「まあ、そうだなあ。リルがカシューと戦って勝てたらいいけどな」
「あっ」
この人言ってはいけないことを言った。
リルは父親の言葉で目を輝かせる。
「勝負よ! カシュー!」
「いいよ」
こうなった以上、一試合するしかない。
「話が早くて助かるわ」
リルはグラタンを急いで食べて戦いに備えようとしていた。
一方、オレシャさんはスロさんを叱っていた。
「もうっ、あなたったら」
「す、すまねぇカシュ―様」
スロさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえ、いいですよ」
僕はグラタンを食べるのを再開した。
◆◇◆◇◆
家の裏にて。
ラッカー長老、スロさん、オレシャさんが見守る中。僕はリルと対峙した。
「カシュー……カシュ―様」
急に様付けしたリル。
「急にどうした」
「いいでしょ別に! あんたは精霊女王様の使いだし、こういう場では畏まるわよ」
「そうか」
彼女の意思を尊重して何も言わないでおこう。
「カシュー様、胸を借りる思いで戦わせていただきます」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
一礼する僕達。
リルは詠唱を始める。
「炎の精霊よ。我が身に顕現し、鎧となれ」
リルの体から炎が吹き荒れる。赤い魔力で形成された外套をはためかせ、炎の渦が体のあちらこちらに纏わりついていた。これがリル特有の【炎魔法】だ。
「いつ見てもかっこいい魔法だよね」
「でしょ!」
リルは褒められて嬉しそうだった。
「ってそうじゃなくて真剣勝負よ」
「分かってるよ」
「あんたの力は凄いけど、身体能力は全然だわ、そこを突いてやるわ」
「なるほどね」
確かに僕のスキルこそはチートだ。はっきりいって無敵だ。
でも僕自身の体力や筋力はこの村の同年代達に劣る。人間並みだ。
これは僕――精霊族の特徴でもあるらしい。
気は進まないけどリルを落ち着かせるためにも彼女と戦ってみよう。
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