第12話 魔物狩りが始まった①
魔物狩りの日になった。
この行事は基本的には一日で終わる。
この森で生まれる者達は物心ついた頃に自分がどういう魔法を扱えるのか把握することができる。これは精霊女王さんの加護らしい。
つまり生まれながらにして魔法を扱えるのも同然だ。だから、住人達の魔法の熟練度は高い。魔法の出力、連射速度、射程距離、魔力量どれをとっても森の外にいる者と比べて段違いにレベルが高い。
ちなみに僕も魔力を持っている。精霊族の特徴は人知を越えた膨大な魔力を生まれながらにして持っていることだ。しかし、僕は魔法を使った試しがない。【元素操作】でこと足りるからだ。そもそも他の住人と違って何故か僕自身どういう魔法を扱えるかが分からない。【元素操作】が強すぎるせいで加護を受けていないのかもしれない。
そんなことを考えながら僕は結界の外に出て行こうとする大人達に付いて行く。
今日は普段着の上に革鎧を着ていた。
レガリアの村は獣人族とエルフ中心の村だが、森の中にある他の村には筋肉質でずんぐりむっくりしているドワーフ、手のひらサイズで背中に羽が付いている妖精族もおり、この魔物狩りに参加していた。
ちなみに子供はいない。
唯一、年齢が近いといったらフェンリルのシウだろうか。彼女は一二年生きている。今、僕の横を歩いている。
「カシュー様大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ」
「お主が緊張するとは思えぬが肩の力を抜いていいわ」
「うん」
シウは僕をリラックスさせようとしているらしい。
「フェンリル吸いしたら緊張しないと思うんだ」
「フェンリル吸い!?」
シウは口をあんぐりと空ける。
「僕がシウのお腹に顔を埋めて息を吸うんだ」
「な、な、な、な」
シウは口をわなわなと震わせた。
「あっしはフェンリルよ!」
「知っている」
「そんな冒涜許されるわけない!」
「そこまで怒ると思わなかった、ごめん」
「やれやれ」
シウはかぶりを振った。
「そろそろ人の形態になるわ」
シウの体は眩く光り出す。
すると四足歩行生物の形をしていた光は二足歩行生物に変化する。
光が治まるとスノーホワイト色のストレートロングヘアで黒目の女の子が隣を歩いていた。白い服を纏っていることもあり、神聖さすら感じられた。背丈は僕より頭一つ分高い。
ちなみにフェンリル特有の耳と尻尾は残っている。
「全く、精霊女王の化身ともあろう方が嘆かわしいわ。こんな幼気なあっしのお腹を吸おうなんて」
シウはジト目を向けてくる。
「はぁ……モフモフ成分が減っちゃた」
「溜息を吐きたいのはこっちだわ」
シウは宣言通り溜息を吐いた。
「愚問かもしれないけど倒す魔物は頭に入ってるかしら?」
「もちろん」
僕は頷いた。
見るもの全てに突撃する癖を持つ猪型の魔物――ワイルドボア。群れを成すので厄介だ。
満腹になるまであらゆる生命を食らう食人鬼――オーガ。生態系に悪影響を及ぼすので厄介だ。
体力が無くなるまで暴れる牛頭を持つ巨人――ミノタウロス。自然に悪影響を及ぼすので厄介だ。
以上の三体が討伐対象だ。
毎年、討伐対象は変わる。結界の外は常に森に住む者が監視している。
その監視者によって魔物ごとに危険度を決め、極めて危険度が高いとされた魔物を討伐することになっている。
「どれも例年より厄介な魔物だわ」
「死傷者でないといいけどね。それだけが心配だよ」
「大怪我する人は稀にいるわ。でも死人は出たことはないわ。あっしが知る限りは」
「皆、強いからね」
そろそろ目的地につく頃だ。僕達が向かうのはワイルドボアの生息地だ。森の中にある湖付近の茂みにワイルドボアが大量に繁殖しているらしい。
僕がいる隊には犬族のシャノの父であるオリエントさんと転生した僕を最初に見つけたグスタさんがいる。
ちなみにグスタさんがこの隊を率いている。彼も村の重役なので度々、行事の度にまとめ役を任されている。
「皆! カシュー様に怪我をさせるんじゃないぞ!」
オリエントさんが目的地に着くと拳を振り上げる。
目的が違うような気もする。
「「「うおおおおおおお!」」」
大人達は盛り上がっていた。
士気が上がるならなんてもいいか。
オリエントさんから入れ替わるようにグスタさんが前に立つ。
「まずは肉を焼いてワイルドボアを誘い出すのですぞ。そこから遠距離魔法を叩き込む! そして今年のワイルドボアは近年稀にみる大量発生ですぞ。故に近接戦闘に持ち込まれる可能性があるので各自、油断なさらぬように!」
グスタさんの言葉に一同は頷く。
皆の装備は軽装備だ。革鎧が主だ。チラホラと上半身のみ鉄製の鎧を着ているものもいる。
武器は多種多様だ。剣、槍、弓、杖だったりするが森の民は魔法主体なので素手の者が多い。
これからワイルドボア狩りが始まるわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます