第13話 魔物狩りが始まった②

 湖の近くにて。 


 グスタさん達は森の民を先導して、頭のない豚の肉を魔法で焼き始めた。


 丸焼きになった豚は食欲をそそる匂いを辺り一帯に広げる。


 ワイルドボアは鼻が利くし、雑食だ。この匂いにおびき寄せられるのは時間の問題だ。


 カサカサと茂みが動く。それも一匹や二匹しかいなさそうな雰囲気ではない。何十匹もいそうだ。


「来た! 下がるぞ!」


 大人達は茂みから距離を取って魔法を唱える準備をする。


 僕とシウは大人達の後ろにいる。丁重に扱われているというわけだ。


 今の地形は説明するならば。左側に湖、前方にワイルドボアが出てきた茂み、そして右側には土道がある。土道に従って歩けば村に戻ることができる。それ以外の方向には木々が生い茂っている。


 僕たちは湖の傍でワイルドボアと戦うことになるというわけだ。


「飛び出してきおったぞ!」


 グスタさんは茂みから現れたワイルドボアに皆を注視させた。


『ブモオオオオオオ』


 肉に釣られたワイルドボアだが前方にいる森の民へと突撃しようとしていた。


 日本にいる猪より一回り大きく、灰色の毛並みをしている。特徴的なのは湾曲した五〇センチ程ある牙が口から生えていた。 


 現れた数は十数匹だ。


「煌めく虹よ!」


 グスタさんは両手を前に突き出し虹色の光線を放つ。


 虹の光線を横に振るいワイルドボアを一層する。


「「「おおお!」」」


 森の民は歓喜の声を上げるが、次々とワイルドボアが声を上げながら茂みから出現する。


「この魔法は連発はできないから皆の者頼んだぞ」


 グスタさんは一歩後ろに下がると森の民達は前に出る。


「炎の矢!」


「雷の裁き!」


「氷の刃!」


 多種多様な魔法は森の民の手から飛び出す。丁寧に一体ずつワイルドボアを駆逐していた。


 僕の出番は必要ないかなと思ったが。


「なんだこの数の多さは⁉」


 森の民の一人が声を上げる。


 次々とワイルドボアを討っているのは確かだ。でも、一〇匹倒せばまた一〇匹現れるというキリのなさだ。


 グスタさんは再び虹の光線を放つ。


「横に回り込みおったぞ!」


 ワイルドボアの一団は僕達の横に回り込んでいた。


「俺達の出番だ」


 オリエントさんはやる気満々だ。そして彼の周りには近接武器を持っている森の民がいた。


「鉄球よ来い!」


 オリエントさんは宙に魔法陣を展開し、そこから鎖の付いた鉄球を取り出した。


 オリエントさんの鉄球は普通の鉄球じゃない。目標に当たった瞬間に重くなる魔法の鉄球で、普段は羽のように軽いらしい。


「ほらよっと!」


『ブモオオオオォ!』


 オリエントさんは鎖の付いた鉄球を振り回し近づいて来るワイルドボアを一撃で絶命させた。


 それに続き近接武器を持った者達はワイルドボアに斬り込んでいった。


「「…………」」


 しばらく戦闘をシウと無言で見ていた。


 でも我慢できずに疑問を投げた。


「数が異常じゃない?」


「異常だわ。すでに五〇匹以上は倒しているはず。大量に繁殖したとはいえ度を超えてるわ」


「だよね」


「後ろからも来ている」


 シウは背後を振り向く。僕も振り向く。


 さらにワイルドボアの一団が背後へと回り込もうとしていた。


「統率取れてる動きだね」


「そうね」


 シウは僕に同意した。


「さて……一掃してあげるわ」


 シウは白色の魔力で出来た羽衣を身に纏った。


 そして走ってくるワイルドボアに対して羽衣から白色の魔力の塊を放ち続けた。


 その勢いはまるでマシンガンだった。


 ワイルドボア達は出来上がったポップコーンのように弾け飛んで深手を負い、立ち上がれなくなっていた。

 

 実際にマシンガンが放たれてるところは見たことないけどね。


「これって肉体残した方がいいのかな?」


 ワイルドボアを駆逐しているシウに聞いてみた。


「ワイルドボアは食べれるけど、この森の民は魔物を食らわない傾向にあるわ」


「確かに」


 でも一応、肉体は残しつつ食べれる状態にするか。つまり、なるべく鮮度を保たせたまま狩るということだ。


「カシュー様! もう一団きたわ!」


「そうみたいだね」


 ワイルドボアの一団が再び現れる。


 僕は右手を前にかざす。

 

 【元素操作】で地中の鉄原子を僕の周りに集める。


 ワイルドボアはすぐそこまで迫ってくる。


 僕は右手を開いた瞬間に、集めた鉄原子で鎖を形成させる。鎖の数はワイルドボアの数に合わせた。


「はっ!」


 幾重もの鎖が僕の周りから飛び出しワイルドボアを一体ずつ捉える。


『ブモオオオオオオオオオオ‼』


 ワイルドボア達は締め付けられて断末魔を上げる。


『ォォォォォォ…………』


 それから絶命した。


「えぐい殺し方するわ」


「これが一番、綺麗に肉体が残ると思ったんだ」


 その瞬間。


「「!?」」


 会話を終えた僕達は目を見開き驚愕する。


 また、ワイルドボア達が出現したからだ。


「まだ来るわ」


「周りはどうなっているんだろう」


 僕は戦っている大人を見渡す。


 善戦していた。怪我人も出ていない。


 ただ皆、体力を消耗しているようだ。


 ワイルドボア達を圧倒できるとはいえ、無尽蔵に湧いて来る敵を相手にしてしまえば、いずれ体力が尽きてしまうだろう。


 一体何が起きているんだ。

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