第41話 怪しい人達がいた②

 下水道にてフードの男五人と交戦し、全員戦闘不能にした。


 男達は僕の足元で呻いている。ついでに息をするように『元素分解』で服を消し去って全裸にした。


 戦い慣れた集団とはいえ全裸が恥ずかしいらしく顔を赤らめていた。これで外は歩けないはずだ。


「ついでに拘束もしよう」


「うぐっ!?」


 僕は横手の壁に目を向ける。壁の一部は剥がれ落ちて変形していく。男達を拘束するために壁だったものは両手両足をきっちりと縛るように輪っかになっていた。


「もう一度、お尋ねします。この町を爆破させる理由を教えてください」


「…………」


「君達は何者ですか?」


「…………」


 男達は痛みに耐えて顔を顰めたまま、僕に応じることはなかった。


 自白剤、拷問、脅迫等で話を訊きだせるかもしれないが自白剤は持ってないし、拷問も脅迫もしたことない。

 

 僕が考えを巡らしていると男達はさらに苦しみ悶えだす。


「なんだろう」


「ウ、グッグッ……かはっ!」


 男達はおびただしい量の血を吐きだしていた。吐血させるような攻撃を加えた覚えはない。


「ぐうぇ……」


 そして彼らは力なく横たわったまま動くことはなかった。


「これは一体」


 不思議に思った僕は一人の男の遺体を確認する。僕が加えた外傷以外に傷は見当たらない。次に男の口の中を確認した。


 口の中は血にまみれている。ここで【元素操作】の副次的な効果を使う。対象に触れることで成分を分析しよう。


 僕は唇を濡らしている血に触れてみた。


「これは……毒か……しかも魔力を感じる」


 血の中に致死性の毒の成分が入っていることが分かった。


 少し嫌だが僕は舌を引っ張って口の中を確認する。


「舌に模様が入っている。これは術式だ」


 予め魔法を発動させるために術式を体や物体に書き込むことがある。魔法を使うとき、詠唱が必要だが術式さえ刻めば任意のタイミングで術をノータイムで発動させることができる。メリットは魔法の発動スピード、デメリットは一回発動させてしまえばその術式は二度と使えないということだ。


 基本的に術式は巻物に書かれており、使い捨てで巻物を使用する。簡単にいえば魔法のスクロールだ。


 加えて魔法の知識がある僕が判断するに、これは本人の意思で発動させる術式ではなく他者の意思で発動させるタイプの術式だ。


「誰かが、この人達の状態を知って術式を通して魔法で毒殺したんだ。つまり、この人達が戦えない状態になったことを知って、口封じのために殺したということになる」


 僕は辺りを警戒する。


 誰もいない、この人達の止めを刺した人物はすぐにこないようだ。


 一安心しながら僕は木箱に入った火晶石かしょうせきを消し去って下水道の洞窟から出る。この町の衛兵に今の出来事を伝えた方がいいかもしれない。


 元来た道を戻りながら裏路地から大通りに出ようとする。さっきまで物騒なことがあったとは思えないぐらい空は晴れ晴れとしている。このまま何もなければいいが、


 ――――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼


 耳をつんざくような爆発音が鳴る。


「今のどでかい音はなんどろう」


 僕はスキルで体を浮かして空高く飛ぶ。


 眼下には路地裏沿いにある民家が広がる。僕は近くの大通りに目を移す。人々が悲鳴を上げながら右往左往していた。爆発した形跡はない。


「煙だ」


 顔を上げると煙が舞い上がっている場所が目に入る。きっとあそこが爆発した場所だ。僕は宙を飛んだままその場所へと向かう。


「…………煙たくて見えない」


 家が数軒とその周りにあったであろう屋台や露店が吹き飛んでいた。阿鼻叫喚の光景だった。


 即座に対処しよう。状況を一瞬で判断して、最適な行動をしつつ、これ以上、犠牲者を出さない方法をとる。


「『元素分解』」


 僕は煙そのものを消し去る。


 逃げ去って行くフードの男達とそれを追いかける衛兵。そして倒れて動かない人達があちらこちらにいた。


「『粒子化』」


 僕は体を粒子にして地上へと降り立つ。


 重症、軽傷問わず怪我している人の下へと向かいながら、一瞬だけ体の粒子化を解き、怪我人に手を当てて肉体を一瞬で復元させよう。


 すでに死んでいる場合は助からないがそんなこと確認をする暇はない。


「あれ怪我したところが痛くない!」


「なっ⁉ 吹き飛んだ腕が元に戻ってる!?」


「おいどうなってんだ、さっきまで体が動かなかったのになんにも痛くねぇ!」


「奇跡だ! 女神ルナティック様の思し召しに違いない!」

 

 僕は風のように移動して怪我人を全回復させた。


 歓喜する人々の声を背にして僕は粒子化を解いて大通りに立つ。そこではフードの男達と衛兵らが交戦していた。

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