第49話 『堕ちた剣帝』と戦った②

 僕は『堕ちた剣帝』と呼ばれるカーディと戦闘を繰り広げていたわけだが、


「おいおい……なんだこの珍妙な戦いは」


 全裸で戦いを観戦しているカエサルは困惑していた。でも全裸で棒立ちしている君も珍妙だ。僕がスキルで全裸にしたんだけどね。


 でも僕達の戦闘は確かに傍から見れば戦闘といえるような代物ではない。


 僕は屋上の空いた穴から、まるで鯉の滝登りかのように飛び出してくるカーディを『元素分解』で消し続けた。もう二〇体ぐらい消している気がする。


「小童! いい加減にしやがれ!」


「君が出てくるのをやめたら諦めますよ」


 怒鳴ってきたカーディに応じると、今度はカーディが一〇体ぐらい一気に飛び出してきた。


「『元素分解』」


 いつも通り、対象の体を一瞬にして消し続けるが、また一〇体出てきた……かと思えばもう一〇体出てきた。


「スキルの発動が間に合わない」


 今回は対象の動きが速すぎるわけではない。スキルをかける対象が多すぎて認識しきれなかった。


 僕は出てきた二〇体中四体を逃してしまい、屋上への着地を許してしまった。


「ようやくだなぁ」「小童が手間かけさせやがって!」「やってやるよ」「行くぞお前ら!」


 なんだこの分身達は……自我が独立しているのか。やたらとうるさいぞ。


 四体の分身はそれぞれ対角になるように僕を囲んで剣を床に叩きつけた。鈍い音を立てたあと剣先からは斬撃が飛び出してくるが。


「『粒子化』」


 四方向からの斬撃は僕の粒子化した体をすり抜ける。


「「「「ぐああああああああああああああああ!」」」」


 対角線上になるように位置していた分身達は真向かいにいる分身が放った斬撃を受けて雄叫びを上げた。肩から腹部まで斬れて痛そうだ。


「『元素分解』」


 僕は倒れている分身を消しさった。


「く、クソっ、なっ、なんなんだよ、てめぇはよ! ほんと、なんなんだよぉ! はぁはぁ……」


 息切れしたカーディが穴から飛び出し、四つん這いになって息切れを起こしていた。


「君が本体のカーディですね」


「お前の魔力どうなってんだ!」


「僕の力は魔力由来ではありません」


「んだと!?」


「僕は際限なくこの力を使い続けることができます。いやでも、眠たくなったら寝るかもしれません」


「舐めやがって」


 カーディは立ち上がって得物を肩に担ぐ。相手は相当、魔力を消費しているようだ。それはカーディの仲間であるカエサルも一緒だ。


「このままやれば勝てる」


 僕はそう呟いた瞬間、目眩がした。


「くっ」


 僕が悔し気に膝をつくとエリアナ、ルティアさん、ラファエルさんが駆け寄ってくれた。


「カシュー様! 大丈夫ですか?」


 エリアナは僕の背中を擦ってくれた。


「あいつらになんかされたの?」


「あの連中は毒を使うこともあるしな」


 ルティアさんとラファエルさんは僕の体調不良を敵のせいだと思っているらしい。


「あんたらさ、この子になにかしたわけ?」


 ラファエルは敵に問いかけるが、


「は、はぁ!? 何もしてねぇよ。毒を盛る暇なんてなかっただろ!」


 カーディは汗を掻きながら反論していた。


「敵には何もされてません。僕が勝手に参っているだけです」


「どうしてですか!?」


 エリアナは心配そうな顔で僕の様子を窺っていた。


「僕は長い間……モフモフの尻尾とケモ耳に触れていない……! 禁断症状がきた……!」


 僕は胸を右手で押さえて声を振り絞った。


「か、カシュー様!? 何言ってるのですか?」


 エリアナは戸惑っていた。


 どうして戸惑っているんだろうか?


 モフモフに触れないと誰しもが苦しむはずだ。あれに触れることによって体調、肌と髪の艶も良くなる。なんなら便秘だって治る気がする。


 とにかく今すぐにモフモフに触れないと体調が良くならない気がする。とてもじゃないがスキルを発動させることなんてできない。

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