第50話 近年稀に見るモフモフ不足だ

 僕は深刻なモフモフ不足によって戦闘ができる状態じゃなくなった。困惑しながら僕を介抱してくれるエリアナとは対照的にルティアさんは何言ってんだこいつみたいな顔をしていた。


「えっと、どういうことか説明してくれる……?」


 ルティアさんは僕が急に具合が悪くなった理由を把握しかねているようだった。


「僕は……生きてる動物の体や獣人達の耳と尻尾をしばらく触らないと体調が悪くなるんです……」


「ふざけてる?」


「僕は真剣です。はぁ……はぁ……」


「……息切れまで起こしている」


 ルティアさんはジト目を僕に向けていた。


「カシュー様可哀想に」


「どこが」


 エリアナは僕の背中を擦る。ルティアさんは僕に冷たい言葉を投げかけてた。


 ラファエルさんは思案顔を浮かべながら口を開く。


「なるほど、君はモフモフ愛好家ってことか」


「だとしてもこんな風に胸を押さえて急に体調悪くなるのはどうかしているわ。この子に助けれっぱなしだから、こんな文句言うのもおかしいけど……」


「おいおい、なんだが知らねぇけど馬鹿な理由で随分と辛そうだな」


 皆、男の声を聞いて顔を上げる。声の主は先ほどまで僕と戦っていたカーディだ。


「これはチャンスかもな、はぁはぁ……」


 強気だったカーディは急に四つん這いになって疲労感を露わにしていた。


「随分とお疲れじゃないか。あとこの子は戦えなくても俺がいるしな」


 ラファエルさんは大剣を敵に向けた。


「へっ、だが俺様達は二人いるぜ」


 カーディは両膝に手をついて立ち上がり、仲間のカエサルの方を見る。


「…………だいぶ、消耗したが魔法は多少使える。でも武器と防具はないからな」


 カエサルは全裸で棒立ちだった。


「……後ろから援護してくれ俺様がラファエルと剣を交える」


 カーディは赤い刀身の剣を半身で、ラファエルさんは大剣を体の正面で構えた。


「ラファエル、いける?」


 ルティアさんはラファエルさんの身を案じる。


「あいつの分身が厄介だったけど、カシューのおかげで魔力を消費して、もう分身は使えないようだし、なんとかなるって」


「貴方がそういうなら信じるわ」


「も……モフモフが欲しい……」


 僕の一言にラファエルさんは苦笑し、ルティアさんは呆れながらも僕の肩を支えて立たせてくれた。


「私の魔法で屋上から降りるわ。エリーも一緒にきて」


「分かりました」


 ルティアとエリアナに介抱されながら屋上のふちへと近づいていく。


「風の導きよ、私達に浮力を!」


 ルティアが呪文を唱えると僕達の体がふわりと浮き、地上へとゆっくり落ちていった。そのさい、僕は肩越しに屋上で繰り広げられる戦闘を胡乱とした顔で確認した。


 ラファエルさんはカーディの袈裟斬りを受け止める。そのあと、ラファエルさんはカエサルが前に突き出した右手から飛ばしてくる黒い稲妻を身を翻して避けつつ、カーディに突きを繰り出していた。


「くっ! 魔力がないせいでっ!」


 カーディは突きを剣で受け止めて宙に吹き飛ばされるが、なんとか床に足をついて着地する。ラファエルはカーディを追撃しようとするが、


「ぬんっ!」


 カエサルが飛ばしてきた黒い稲妻を魔力を纏わせた剣で吹き飛ばすために立ち止まった。


 ラファエルさんが多少、有利な局面だが、何が起こるか分からない。僕は不安を覚えつつ地上に足をつけた。


「ルティア! エリアナ! カシューさん! 大丈夫ですか?」


 商館の中からフェリーさんが兵士を連れてやってきた。


「大丈夫よ! それよりモフモフの子を連れてきてちょうだい!」


「ルティア? 何を言っているの?」


 切羽詰まったように喋るルティアさんの様子を怪訝そうに見るフェリーさん。


「ええっと、ごめん、少し焦って喋ったわ。カシューが重度なモフモフ愛好家でモフモフ不足で体調悪くて戦えないのよ」


「????」


 フェリーさんは首を傾げながら僕の方を見る。


「犬や猫……獣人とか……ちかくにいませんか……」


 僕は消え入りそうな声で喋った。


「よく分からないですけど、連れてきます。確か、一階のエントランスにメイドの猫族がいます」


 フェリーさんは急いで商館の方へと戻っていった。


 よし、早くモフってラファエルさんを助けよう。

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