第7話 防腐剤見つけた

 僕は樹液を持ち帰った後、磁器製の壺に樹液を入れて部屋の隅に置いた。


 放っておくと固まってしまうがスキルで分子運動させて温めれば問題ない。


 水のりを開発したところで何の役に立つのかは分からない。


 だが手軽に開発できるものなので作ってしまおう。企業の研究員だと開発品の案を出し、その案が上司や他部署に採用されたうえで使用する原材料の値段を鑑みながら製品の開発を進めないと駄目な環境だ。会社勤めな以上、当たり前のことだ。ただ、ここの環境は多種多様な原材料が溢れているうえに僕のスキルさえあれば自由自在に開発ができる。


 これほど素晴らしい環境は他にはないとさえ思えた。住んでいるだけで知的探求心が満たされるのを感じる。


 僕はベッドに座って考え込む。


「あと必要なのは水と作った物を腐らないようにするための防腐剤」


 水はすぐに調達できる。問題は防腐剤だ。


 僕が物質に触れれば、成分を把握することができる。成分さえ把握することさえできれば、それが防腐剤になり得るのかが分かるはず。


 僕は昼飯を摂り終えたあと遠出することを家の住人に伝えた。


「あたしも付いていっていいかしら」


 僕の隣で食事を摂っていたリルが期待を込めた目で尋ねた。


「いいよ、さすがに神樹の結界の範囲外までには出ないからね」


「じゃあママ、パパ行ってくるわ」


 オレシャさんとスロさんに声をかけたリルはさっさと外に出てしまった。


「相変わらずお転婆ねぇ……」


「俺に似たんだろうなぁ!」


 リルの両親は照れくさそうにしていた。


 僕はとりあえずリルに付いて行った。


「――ぼーふざい?」


 村の外を出て森が生い茂る獣道を歩く僕達。


 僕は探している物について喋るとリルは不思議そうな顔をしていた。


 防腐剤が分からないらしい。


「胡椒は肉を長持ちさせる効果があるのは知っている?」


「知っているわ」


「それと同じ。つまり、防腐剤っていうのは物を腐らせないようにするために使うんだ」


「ふ~ん」


 それから僕は様々な植物に触れて構造を把握していった。


 僕が探しているのは植物からできる防腐剤だ。自然のものならば安全性が高くて、他の物を開発するときにだって使えるはず。


 僕達は森の茂みを掻きわけて道なき道を進む。


 すると開けた場所に出た。赤、青、緑等の実を生やしてる様々な植物があり、色鮮やかだった。


 いわゆる群生地だ。


「綺麗ね」


「こんな場所があったんだ」


 リルはしゃがんで植物の匂いをクンクンと嗅ぐ。猫族だから鼻が利きやすいのだろう。


 僕の方は植物の成分を把握するために手当たり次第に植物に触れた。


「いい匂い」


 リルは猫耳をピクピクとさせながら鮮やかな赤色の花を匂っていた。


 今ならリルの背後をとって尻尾に触れることができるかもしれない。


 僕は植物に触れるのをやめてリルの尻尾を目指した。癒しはそこにある。


「にゃうん!」


 屈んでたリルは僕に尻尾を掴まれると直立する。


「へ、変態!」


「あと一〇秒、一〇秒待って」


 僕はリルの尻尾を両手で擦った。


「ひゃあああ!」


 リルは跳躍してその場から離れた。


「くっ……」


「なんで悔しそうなのよ!」


 僕が歯軋りを立てるとリルは赤面しながらツッコム。


「本来の目的忘れてるわよ」


「忘れてない。ただ僕は自分の心に従っただけだよ」


「変態行為をかっこよくいわないで」


 リルはジト目を向けてきたので防腐剤探しに戻ることにした。


「ん……これは」


 僕は赤い実に触れた。


「目当てのもの見つかったかしら?」


「見つかったと思う」


 横にはいるリルは両腰に手を当てていた。


「それアカモドキだっけ?」


 リルは不思議そうに僕が赤い実に爪を食い込ませているのを見ていた。僕の爪は果汁で濡れる。


「そうだよ。食べたことあるよね」


 僕が触れているのは背の低い草木から生る赤い実。名前はアカモドキ


 稀に食卓に出てくる甘酸っぱい実だ。


 物質の成分を把握するということを意識しなければこの力を発揮できないので今まで気づかなかった。これは地球でいうグレープフルーツと似た成分であることが分かった。そしてグレープフルーツのエキスは防腐剤として使われている。


 アカモドキのエキスなら防腐剤になるはずだ。


 僕はアカモドキを二つ取った。


「あたしも取ろうっと」


 リルはそこら中にあるアカモドキを二〇個以上取った。両手で持って落ちないようにお腹でアカモドキを支えていた。


「今なら尻尾と猫耳触り放題だ」


「こ、怖いこと言わないでよ」


 横を歩くリルは身を引いた。


「触られるの嫌なら、これから触るの止めるよ」


「…………」


 リルは口を噤んだあと。


「ふん!」


 そっぽを向いた。


 さすがに今触れたら持っているアカモドキを地面に落としそうなので触れない。だが前々から思っていたが、無言ということは嫌でも好きでもないということかもしれない。


 そんな都合のいい解釈をしながら僕達は家に帰った。

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