第38話 精霊族ということを言った
僕が人間じゃないということを明かすとフェリーさん、ルティアさんがしばらく戸惑っていたが。
「人間にしか見えませんよ」
エリアナは僕の顔を覗き込む。
「見た目は人間と変わらないだけです」
「ハーフエルフとかかしら?」
斜め向かいに座っているフェリーさんはキョトンとした顔でこちらを見てきた。
「えっと……僕は精霊族です」
精霊族を知っているかは分からないがはっきりと僕の正体を言った。
エルネスは小首を傾げる。一方、向かいに座っているフェリーさんとルティアさんは怪訝そうな顔をしていた。
「冗談ではないのです?」
「はい」
僕がハッキリと返事するとフェリーさんはルティアさんと顔を見合わせる。
「フェリー、どう思う?」
「カシューさんとはさっき出会ったばっかりですが、こんな下手な嘘をつく方ではないです」
「証明……できる?」
ルティアさんは涼し気な顔で僕に精霊族であることを示してほしいようだ。
「待ってお姉様! 精霊族を説明してくださる?」
エリアナは手を上げて口を挟む。
「精霊族というのは見た目は人間と変わらないのだけれどもエルフ並みに長寿で生まれながらにして莫大な魔力を持つ生命体。羽の生えたものや角が生えたものもいたと伝承で聞くわ。簡単に言うと伝説上の種族よ」
「わぁ、カシュー様すごいですね」
「エリアナ、鵜呑みにするのは早いわ」
「少し難しいですが魔力量で証明してみせます」
僕はソファーから立ち上がって皆から三歩後ろに下がる。
この前、レリアから貰った呪文書で魔法を練習した際、リルから基本的なことを教えて貰った。
それは身に纏う魔力量の調整だ。精霊族はエルフ以上に魔法の扱いに長けている種族だ。そのおかげか魔力を調整する技術をあっという間に習得することができた。今の僕は身に纏う魔力をゼロから最大までコントロールすることができる。
「待って魔力量計測器を出します」
フェリーさんはその場から離れて壁際にあるチェストから水晶玉を取り出す。
それをテーブルの前に置く。
「これに魔力を注ぎ込むと魔力量が水晶玉の上に表示されます」
「へぇ……そんなものがあるんですね。初めて見ました」
僕は屈んでマジマジと水晶玉を見る。
視界の端から腕を組んだエルネスさんが近づいてくるのが見えた。
「私の国にいる宮廷魔術師の平均魔力量は三〇〇〇よ」
「なるほど」
つまり三〇〇〇あれば一握りの人材ということだろう。
「カシュー様頑張って」
「うん見ててよ」
エリアナに応援されながら水晶玉に手を当てる。
そして魔力を流し込もうとすると。
「「っ⁉」」
フェリーさんとルティアさんが息を呑んでいた。また、ソファーに座っているエリアナは目を輝かせていた。
僕は体に燦々とした虹色の魔力が身に纏っている。
「見たことない魔力の色、神聖な力を感じる」
ルティアさんは思案顔で呟いていた。
そして、虹色の魔力は腕から水晶玉に伝っていく。
表示される魔力量は一から上昇し続けた。
一〇〇〇……二〇〇〇……三〇〇〇。
「三〇〇〇を越えた!?」
瞠目するフェリーさん。
「まだ上がります」
エリアナはテーブルに身を乗り出して変化していく数字を見ていた。
五〇〇〇……八〇〇〇……一〇〇〇〇。
「一万!?」
「こ、これ以上は水晶玉が壊れます」
口を空けるルティアさんと焦るフェリーさんがいた。
水晶玉からはバチバチという電気が迸るような音が聞こえてきた。本当に壊れるかもしれない。
「じゃあ止めます」
水晶玉を破壊して弁償したくないので僕は水晶玉からスッと手を離した。
「お姉様一万五〇〇〇までいきましたね」
「人間というより生物が出せる数字じゃない」
姉妹が話している中、フェリーさんは水晶玉を片付けながら口を開く。
「基本的にこの水晶玉は一万五〇〇〇まで測れるようになっているのですが、歴史上、魔力量を計測した者の中で出せた最高の数値は八〇〇〇です。伝承に聞く死霊王ならば一万五〇〇〇を優に超えるかもしれません」
「死霊王ですか」
久々にその名前を聞いた。
死霊王を伝説級の魔法使いと再認識してしまう。僕が倒したけど。
「えっと僕が精霊族であることは証明できたのでしょうか」
「「…………」」
皆、口を噤んでいたがルティアさんが話しを切り出す。
「証明とはいえないけど、少なくとも理解の範疇を越えた魔力量の持ち主だわ。それにエルネスと同い年と聞いたから、生まれながらにして莫大な魔力量がないとこの結果にはならないわ。信じることにするわ」
「ありがとうございます」
礼をし、二の句を継ぐ。
「つまり僕という精霊族を秘匿する場所でもあるので村の場所は明かせないのです。村の人々は精霊族に対して信仰心が高いので、彼らを裏切るような真似はできません」
「なるほど、納得です」
フェリーさんは僕の言葉に得心した。
「それなら仕方ないわ」
「では、カシュー様。いつか、私の国に遊びに来てくださいね」
「うん、分かった」
こうして、僕はフェリーさんとの交渉を終えてフィンフィン大市場の一日目をようやく終えたのであった。
明日は買い物だ。色々、見て楽しむぞ。
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