第39話 ぶらぶら歩いてみた

 フィンフィン大市場だいいちば二日目。


 僕は街の大通りを歩いて、露店や屋台を見渡しながら歩く。


 僕は肩に掛けた革鞄に抱えきれないほどの銅貨を入れていた。というか鞄には銅貨しか入ってない。もはや、でかい財布だ。


「なんだい坊主!」


「ここで珍しいペンキを売っていると聞いたのですが」


 僕はペンキが入った缶を並べてある屋台へと向かい、店主に話しかけていた。


「これのことか!」


 男はしゃがむと赤いペンキが入った缶を僕に差し出す。


 一見すると普通のペンキに見える。


「このペンキは魔力が込められた材料でできていてな」


 店主は説明しながらペンキに手を突っ込んだ。僕はその様子に面食らったが。


「ほらこの通り手が汚れないんだ!」


 店主はペンキに入れた手を見せつけてきた。綺麗な手をしていた。


「すごいですね。普通のペンキと比べて値は張るのですか?」


「……まぁ……そうだな」


 店主は急に歯切れが悪くなった。


「いくらですか」


「普通のペンキの一〇倍ぐらいはするかなと……」


「手が汚れない以外の利点はあるのですか?」


「ない……」


「…………」


 僕達は口を噤んでしまった。少し気まずい時間をなんとなくやり過ごしたあと、僕はその場を離れていく。


「揚げた鶏はいるかい?」


 小腹が空いたので食べ物を売ってそうな屋台に近づくと鉢巻を巻いた店主に話しかけられた。


 一見すると普通のから揚げに見える。一つの串にから揚げが五個刺さっている。


「どういう味付けをしているんですか?」


「塩とうちの特製のソースに浸けてあるんだ。口から火が出るほど美味いぞ」


「へぇ……一つ買います」


「毎度あり!」


 僕は銅貨を五枚出して串に刺さったから揚げを受け取る。


 路地裏に入りながらから揚げを一個丸ごと、豪快に頬張る。


「!? か、からっ!?!?」


 口の中から鼻先に広がる辛味で思わず涙が出てくる。


「な、なんだ……!?」


 それと同時に口の中から魔力を感じる。僕の魔力じゃない、これはから揚げに込められた魔力だ。


「ぶあああああああ!」


 僕は口から比喩表現ではなく本当に火を吐いてしまった。


 路地裏の街路が焦げ付いてしまった。


 なんだこの奇怪な食べ物は。


「はっはっはっ!」


 後ろから豪快な笑い声が聞こえてきた。振り向くと先程の店主がいた。


「こ、こにょ、から揚げは一体なんでしょうか……」


 僕はヒリヒリと痺れる舌を出しながら言葉を絞り出す。


「炎を吐きだす魔法が込められたトウガラシを使ってるんだ! これがうちの名物さ! はっはっは!」


 店主は言いたいことだけを言って身を翻した。


 炎を吐く意味があるのかは分からないけどこのから揚げは美味しい。口の中に辛味とジューシーな肉汁が広がり、思わず微笑んでしまうほど美味しかった。


 僕は曲がり角を歩きながらから揚げを頬張る。


「あむあむ……!?」


 辛さで喉と舌がヒリついたその瞬間。


「ふああああああああ!」


「ぎゃああああああああああああ!」


「!?」


 僕が口から火を吹くと曲がり角の向こうから人が歩いてきており、相手の服を焦がしてしまった。


「お気にいりの服が!!」


「す、すみませんでした! すぐに治します!」


 僕は焦げた服に手を当てて【元素操作】で焦げた跡を消した。


「ふ、服がも、戻った!?」


「申し訳ありませんでした!」


 僕は驚いている男をよそに路地裏を駆け抜けた。


 このから揚げを食べるときは周りが人がいないことをちゃんと確認しよう。


 僕は残りのから揚げを食べながら火を吐きまくった。そして串は【元素操作】で分解し跡形も残さずに消した。本当に便利な能力だ。


 にしても裏路地が入り組んでる町だ。今、僕の目の前には上下に階段、左右に道があった。なんとなく階段を下りた。すると、幅が狭い川が流れていた。恐らく、町の排水を集めて下水道へと流しているのだろう。心なしか少し臭いかもしれない。


 レガリアの森の文明レベルは安定しているが今後、村から町の形態になるかもしれないので下水道の仕組みを見ておくのもいいかもしれない。


 僕は川に沿って歩くと、下水へと繋がる洞窟が見えてくる。


「人がいる?」


 黒ローブを頭から被った人たちが数人、洞窟に入っていく姿が見えた。


 あまりにも怪しすぎる。僕は黒ローブの人達を追跡することにした。

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