第37話 商館に招待された③

 フェリーさんにコパー商会の談話室に案内してもらったわけだが、そこには少女が二人いた。


 一人はフエンジャーナ王国の第二王女のエリアナ。そして、もう一人はエリアナと同じ髪色と瞳の色を有しており、ロングヘアで前髪を編み込んで掻きわけていた。氷のような冷たい目つきをしており、冷静沈着さを醸し出し、青を基調とした落ち着いた色のドレスを着ていた。


「この子はカシューさんと言います。先程、話した洗剤の技術を提供してくれる方です」


 フェリーさんはロングヘアの少女に僕のことを紹介してくれていた。何故なら、さっき少女が僕のことを「誰この子」と言って気にしていたからだ。


 フェリーさんと少女が話している間、エリアナが笑顔でとてとてと駆け寄ってきた。


「カシュー様、また会えましたね」


「そうだね」


 僕はエリアナに微笑み返した。すると、少女がエリアナの肩に手を置く。


「エリアナ知り合い?」


「はい! お姉様! お友達です! フォーカスの宿場町で出会った人です」


「そう、この子のことだったのね」


 少女は真剣な面持ちをする。


「私はフエンジャーナ王国の第一王女。ルティア・エリーサ・フエンジャーナと申します」


 ルティアさんさんはカーテシーで挨拶をしてくれた。


「僕はカシューと言います」


 僕はお辞儀をする。


「立ち話もなんですし、座りません?」

 

 フェリーさんは僕達をソファーに座らせるように誘う。


 僕達は談話室の中央にある白を基調としたテーブルを挟んであるソファーに座った。


 僕の横にはエリアナが座り、真正面にはフェリーさん、その横にはエルネスさんが座っている。


「では交渉を始めましょうか」


「はい」


 フェリーさんの言葉で僕達は交渉を始めた。


 フェリーさんが僕の技術を購入するために提示した金額には驚愕した。金貨二五〇〇枚と言っていた。金貨一枚を日本円にすると二〇万円だ。つまり彼女は五〇〇〇万円払ってくれるらしい。


「値段は言い値で構いませんが技術を提供するのに条件があります」


「なんです?」


「洗剤の原材料は全部、住んでいる村で採れたものなので、村から原材料を集めることを考えるかもしれませんが、どうか村についてお話できないことをお許しください」


「訳を聞いてもいいです?」


「村の方針です。世俗から離れて過ごしたい者が多く、部外者の存在を疎ましく思う節があるのです」


 僕は当たり障りのないことを言ったが、あながち間違ったことは言ってないと思う。実際にレガリアの森の民の存在は誰にも伝えることができないのだから。


「その原材料は他の場所でも集めれるのでしょうか?」


「その点なら問題ありません」


 僕は肩に掛けていた革鞄から羊皮紙を取り出し、テーブルの上に置く。


「ここには原材料を箇条書きにして書いてありますが、原材料が見つからないときに備えて代用できるものも記載してあります」


 フェリーさんは僕が差し出した羊皮紙を静かに受け取る。


 村で見つけた原材料は村の人や僕が独自に名付けたものが多いので外の世界の人間が分かるように名前を書き換えている。


「かなり原材料の数が多いです。ですが、商会の力をもってすれば不可能ではありません」


「こちらは製造方法となります」


 僕は羊皮紙をもう一つ取り出す。製造方法について書いてあるレシピだ。


 フェリーさんは持っていた羊皮紙をテーブルの上に置き、製造方法について書いてある羊皮紙を手に取って読み始める。


「目を通したところ、製造方法は商会で扱ってる洗剤と一緒で撹拌と空気を抜く作業を行えばいいみたいですね。問題ないです。懸念点は原材料を集めるのに手間がかかりそうというところです」


 そのあと、各原材料の特徴を事細かに説明した。フェリーさんは翌日には金貨を二五〇〇枚用意してくれるらしい。


「いずれ、カシュー様の村に遊びにいきたのですが、駄目なんでしょうか?」


 横にいるエリアナはソファーに両手を付いて僕に詰め寄ってきた。


「うーん……少し厳しいかと」


「そんなぁ……」


 エリアナは眉をへの字に曲げてしまった。


「ねぇ」


 ルティアさんが足を組んで僕に声をかける。


「ここは他国だからいいけれども王族の頼みを安易に断ると争いごとが起こるわ」


「すみません」


 彼女の言うことはもっともだ。国によっては王族の頼みごとを断れば死罪になる可能性だってある。


「後、私の可愛い妹を困らせないでくれる?」


 彼女は少しシスコンだった。


 にしても少し困った状況になった。僕は珍しく、口に手を押さえて考え込んだ。


「その感じ、ただの世俗離れしたい人々の村じゃないようね」


 エルネスさんは僕の心を見透かしたようなことを言った。


 下手に誤魔化すと追及されそうだ。村の人々を巻き込まないようにしつつ、王族を村に来させない方法を考えなければ。


 …………そうだ自分自身を使おう。


「実は……僕は人間ではありません」


「「「!?」」」


 僕の言葉に三人は目を見開く。


 僕は自分自身のことについて真実を語ることにした。

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