第25話 村を案内してみた②

 僕はルナとレリアを連れて村の広場へと行く。


 村の広場というのは円状の噴水が置かれており、その周りに石造りの地面が敷き詰められている場所だ。


 そしてスピーチ用の台も置かれており、村の皆はスピーチ用の台の前に集まっていた。


 僕達はスピーチ用の台に上がる。


「「「おおおおおおおおおお‼」」」


 あらかじめ神の使いという設定のルナ(女神さん)とレリア(精霊女王)が来ていることはラッカー長老とグスタさんが皆に伝えてくれていた。そのため、ルナとレリアの姿を見た村人達は盛り上がっていた。


 両手をすりすりと合わせて頭を下げる者。


 口に手を当てて驚く者。


 目を丸くする者。


 中には感涙する人もいた。


 僕は二人のことをあらためて紹介することにした。


「この灰色の髪の方が女神ルナティックの使いのルナといいます」


「皆、よろしくお願いしますね!」


 ルナは皆に向かって手を振っていた。


「で、こちらの紫色の髪の方が精霊女王レガリアの使いのレリアといいます」


「初めまして、短い間ですが村の様子を見させていただきますわ」


 レリアは優雅にカーテシーをした。


「二人共美しい」


「まさに生きた神と会った気分だ」


 村の男性達の声は震えていた。


「神秘的だわ」


「こんなことあの方達に言ったら失礼かもしれないけれど可憐な方達ですね」


 村の女性達は二人に目を奪われていた。


「こんなにたくさんの人の前に出たことないから凄く気分がいいですね」


 世俗的なことを言うルナ。


「村が発展してなによりですわ」


 一方、レリアは自身の聖地と呼ばれる場所を見て満足気だった。


 ここで精霊女王レガリアの逸話を軽く思いだそう。


 精霊女王さんは数千年前にこの地で生まれた精霊族だった。今でこそ珍しい精霊族ではあるがその時代は珍しくない存在だったらしい。森全体には様々な種族がいるが元々、種族ごとになわばり争いをしてたらしい。それを治めたのが大人になったレガリアさんらしい。強大な力を有しつつ、持ち合わせた優しさでこの森に調和をもたらした伝説がある。それ以来、この森で縄張り争いをすることはなくなったらしい。


 その後、数百年、森に治世をもたらした精霊女王さんは女神さんに神にしてもらったらしいが。


「ねぇ、レリア。早く村の中を歩きませんか」


「そう急ぐと転びますわよ」


 急いで台を下りるルナとゆっくり歩くレリア。


 何故か精霊女王さんの方が神としての貫禄があるような気もしなくもない。


 僕は二人に付いていき村を案内することにした。まずは牧場に行こう。


 村の牧場には木の柵ごとに様々な動物が飼われている。


『コケコッコー!』


 今、僕達の周りには鶏がいる。


「元気な生き物ですね」


「目覚まし代わりにもなるのでとっても便利な子達ですよ」


 二人は鶏を見下ろしていた。


 次は放牧されている羊を見に行った。


「ふわふわですね」


 ルナは羊を撫でていた。


「この毛から服や紙を作りますわ」


「それぐらい知ってますよ」


「分かってて言いましたわ」


「もうっ」


 ルナとレリアは何気ない会話をしていた。


 少し思ったのだがレリアは大昔とはいえ、ここで生まれ育った人間なのだから僕が案内人になる必要があるのだろうか。とはいえ部外者が村を勝手に歩き回るのは不自然だから僕がいなきゃならないか。


「…………」


 無言でいるとルナは羊を撫でるのをやめてこちらを見てきた。


「なんでしょう」


「漆原さ……じゃなくてカシューさんには場を盛り上げで欲しいです」


 ルナは僕の前世の名前を言いかけて訂正した。


「我儘ですね」


「め、女神ですよ私!?」


 ルナは僕の態度に呆気に取られていた。


 正直、場を盛り上げるような会話は得意じゃない。


「そうだ、次は僕が住んでいる家に行きますか?」


 あそこならリル達がいるので僕が場を盛り上げる必要はない。


「ええ、行きます」


 ルナは二つ返事をし、僕は二人の神を連れて住んでいる家へとやってきた。


「――なっ、なっ、なっ、カシュー! なんでいきなり知らせもなく連れて来てるのよ! 何も用意してないのに」


 家のリビングの食卓でリルはクッキーを食べていたが僕達の姿をみて椅子から飛び降りて大慌てだった。


「あ、あなたどうしましょう!」


「お、お、お、お茶を用意でもしないと!」


 オレシャさんやスロさんもあたふたしていた。


「そもそも神の使いってお茶を飲むのか⁉」


「あなたが言い出したんでしょう!」


 二人はそんなことを言いながら台所へと向かって行った。


 リルは食卓の椅子を引く。


「ど、どうぞお座りください」


 いつになくしおらしい態度だった。


「「ありがとうございます」」


 二人の神は椅子に座る。


「僕も椅子に座っていい?」


「あんたは勝手に座りなさいよ」


 僕の発言にリルは呆れ気味だった。


 とりあえず僕とリルは二人の神と向かい合うように座った。

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