第17話 死霊王と戦った②

 僕は【元素操作】で死霊王を這いつくばらせた。


「ぐぐぐっ……!」


 死霊王は現れた僕に対して恨めし気な声を出していた。


 僕の【元素操作】には不便な点がある。


 一つの対象に二つ以上の操作が行えないということだ。例えばだ。死霊王の体を地面に這いつくばらせたまま、『元素分解』で死霊王そのものを消滅させることはできないというわけだ。


 僕は死霊王に対する操作を止めた。


 死霊王はゆらりと立ち上がった。


「ほう精霊族とな」


「分かるんだ」


 人と変わらない僕の姿を精霊族と見抜いてきた。


「珍しい種族だ。伝説とも言える存在だ。幼く見えるが魔力を感じさせない高度な重力魔法を我に食らわすとは……数百年は生きているな」


 びっくりするぐらい検討外れなこと言ってきた。


「八歳です」


「クックック! 精霊族が冗談を言えるとは聞いたことがなかったぞ!」


 本当なんだけど。


 前世の記憶もあるから精神年齢は遙かに上かもしれないけど。


「お返ししてやろう! 引力よ! 敵を這いつくばらせよ!」


 死霊王は手のひらを僕とシウに向けて魔法を唱えた。


 シウは女の子座りでぺたんと座ってしまった。


 僕も尻餅をつくように座ってしまった。


 体が重くて動かない。これが重力魔法というやつだろ。


「黒雷よ!」


 さらに死霊王は腕を振って僕に雷を放った。


「カシュー様!」


 シウは心配そうに僕の声を呼んでいた。


 黒い雷は目にも留まらぬ速さで飛んできた。


 雷は僕の体を覆って衝突した……かのように周りには見えただろう。


「クックックック! 跡形も残さず消えおったな!」


「そ、そんな……! よくもやったわね!」


 シウは憤りながら重力魔法で重くなった体を無理やり起こす。


 森の民達は「う、うあああああ! カシュー様ああああ!」と阿鼻叫喚だった。


 僕は今、皆の傍にいるが皆の目に入らない状態だ。死霊王が魔法を放つ前に僕は自分自身に【元素操作】させて体そのものを粒子化させていた。相手が呪文を言い終わると同時に体を粒子にして撒布させてたのだ。


 シウは険しい顔を見せ、右手の人差し指と中指を死霊王に向ける。


「晴天の星よ! 敵を打て!」


 光の玉を放った。


「小癪な! 黒雷よ!」


 死霊王は光の玉を黒い雷で明後日の方向に吹き飛ばした。


「中々の威力、そしてこの神聖な魔力の気配……貴様、神獣の類か!」


「…………」


 シウは無言だった。


「ふ、どちらにせよ殺して操ればいい! 先程殺した精霊族を蘇らせて貴様と戦わせよう」


「くっ……鬼畜があ!」


 シウは言葉を吐き捨てたあと、「ガルルルル」と唸っていた。


「精霊族の少年よ! 我の手元に……ん?」


 死霊王は呪文を唱えるのを止めて辺りをキョロキョロと見渡す。


「やつの魂が寄ってこない? なぜだ。これは生きているということか?」


 僕は粒子化させた体を一か所に集めて元の状態に戻した。


「僕ならここだよ」


 僕は死霊王の背後に移動した。

 

 その瞬間、森の民は歓喜していた。


「おお! 生きていたか!」


「さすがカシュ―様!」


 シウもほっと胸を撫で下ろしていた。


「はぁ……良かったわ。カシュー様になんかあったらリルやエステルになんて伝えれば……」


「ごめんね。心配かけたよ」


「貴様なぜ生きている!」


 死霊王は僕に指をさした。


「もう攻撃を食らう前にやるよ。『元素分解』」


「か、体がああああああああああ!」


 死霊王の体は霧散し、フードだけ残して消えていった。


 死霊王が消えたことで皆の表情が緩みそうになるが。


「ぐぅ! まさか我に通用する即死魔法がこの世にあったとはな! だが我はこのときに備えて復活する魔法を自分自身にかけてある」


 フードがある場所の上から塵が集まり、骸骨が形成される。


 死霊王は復活してしまった。


「だが、今のような強力な魔法を連発できるはずがない! 舐めるなよ!」


 死霊王は僕に怒鳴っていた。


「できるよ」


「え」


 死霊王は素っ頓狂な声を出す。


「僕の力は魔力を使わない特殊な力なんだ。それに君の話を聞く限り、復活するためには魔法をかけないと駄目みたいだね。つまり、今一度、体を消せば蘇れないということだね」


「ま、待て! 何が欲しい!」


「強いていうならこの森の安息。そのために君はいなくなるんだ」


 僕の言葉に森の民達はうれし涙を流していた。


「あ、ありがたき言葉」


「我々を思ってくれてありがとうございます」


 少し大げさ過ぎる。


 とりあえず、そろそろ死霊王にお別れを告げよう。


「じゃあね」


「ま、待つのだああああああああああ」


「『元素分解』」


 死霊王は声も出す間もなく消えた。


「「「おおおおおおおおおおおお!」」」


 今度こそ森の民達は歓喜した。


「ほんとなんでもありだわ」


 シウは呆れ気味だった。


「でも僕にも弱点があるからね。相手が攻撃するって分かったから避けることができたんだ。相手の攻撃を察知することができなかったら危なかったよ」


「どちらにせよお主はあの死霊王に勝った。この大陸に君臨した王をな」


 シウは自分のことのように誇らしげだった。


 ワイルドボア狩りがまさか死霊王狩りになるとは思わなかった。


 でもこれで一件落着かな。

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