第16話 死霊王と戦った①

 森の民達や僕を煽る死霊王。


「死人にして操ってやろう! 感謝するがよい!」


 死霊王はふわっと宙に浮いて、森の民達の頭上へと移動した。


 死霊王は両腕を上げる。


「無数の風の刃よ! 乱舞せよ!」


 死霊王は両腕を振り下ろすと数えきれないほどの風の刃が森の民達へ降り注ぐ。


 それと同時に。


「防御系の魔法を発動させるのですぞ!」


 グスタさんは皆に指示を出す。


 皆は多種多様な壁を展開する。蔦や木で出来た壁や透明なバリア型の壁など様々な防御系の呪文が発動した。


 死霊王が出した風の刃は木々を巻き込んで展開された壁へと衝突する。


 木々は折れ、地面は抉れ、舞い上がった土埃によってグスタさん達の姿は見えなくなっていた。


「ほう! 誰一人死んでいないとな! ますます気に入った」


 死霊王は唸り声を上げていた。


 土埃が晴れると展開された壁は粉砕されていた。しかし、森の民達は怪我を負っていなかった。ただ、尻餅をついたり、片膝をつきながら苦々しい表情をしていた。


「煌めく虹よ!」


 立ち上がったグスタさんはすぐさま虹色の光線を死霊王に向けて放つが。


「クハハ! 煌めく虹よ」


「なに!」


 死霊王が同じ呪文を唱えるとグスタさんは面食らっていた。


 死霊王が放った光線はグスタさんのものより二回りも大きい。


「まずい! 逃げるのですぞ!」


 グスタさんの光線は押し負けてしまう。もう手元まで相手の光線が迫っていた。


「「「ぐああああああああ!」」」


 グスタさん含む数名は虹の光線によって吹き飛ばされてしまった。


 僕は思わず立ち上がろうとしたが、シウに背中を押さえられて止められた。


「強力な一撃だけど、あれぐらいで死ぬわけないわ」


 僕はその言葉に安心して立ち上がるのをやめた。


「うぐぐっ……」


 グスタさん達は仰向けになっていたがよろよろと立ち上がった。


「クックック! 我の逸話を知っているだろうに。我は幾千もの魔法を扱う死霊王なり! 貴様らの使う魔法は全て使えるわい! そして魔法の威力も貴様らより遙かに上だ!」


 死霊王は勝ち誇る。


 同じ魔法を使っても勝てないことを言いたいらしい。


 すると、オリエントさんが鎖付きの鉄球を頭上で振り回す。


「これならどうだ!」


 その姿に死霊王はニヤリと笑っていた。


「おうりゃ!」


 オリエントさんは鉄球を死霊王にぶつけるが。


「なっ⁉」


 オリエントさんの鉄球は死霊王の体をすり抜けてしまった。


「物理攻撃など効かぬわ。貴様らに万に一つも勝ち目はない、その証拠に……」


 死霊王は言葉を溜める。


「さっきの風の魔法は何百発でも放てるわ!」


「「「「!?」」」


 森の民達は目を見開き、動揺を見せた。


「そ、そんな」


「あんなのが何百発!?」


 皆、青ざめた顔をしていた。


 しかし中には。


「俺達は最後まで抵抗するぞ!」


「そうよ!」


 死霊王との決戦に臨む者もいた。


「そうか、抵抗せずに死んだほうが楽なのが分からぬ阿呆共め! 無数の風の刃――」


 死霊王は呪文を唱えて再び風の刃を飛ばそうとしていた。


 その瞬間。


「カシュー様!」


「分かってるよ」


 シウが僕の名を呼ぶ。


 僕は茂みから飛び出して【元素操作】を行使する。


 この力は理不尽な圧倒的なこの状況を覆すためにあるものだと思う。


「なんだ体が急に!?」


 宙に浮いていた死霊王は勢いよく地面に叩きつけらた。


 死霊王は地面にめり込む。


 僕は【元素操作】で文字通り死霊王の体そのものを操作したわけだ。


 死んでから蘇った未知の生命体とはいえ骸骨姿なので骨そのものであることには変わりない。


 骨の主成分はカルシウムとタンパク質だ。死霊王の体そのものをスキルで操作することは造作もない。


「これをやったのは貴様か!」


 うつ伏せになって必死に立ち上がろうとしている死霊王は顔を見上げて僕を見据えていた。


 森の民は僕を見て驚く。


「「「カ、カシュ―様!?」」」


 きっと僕とシウが付いてきているとは思わなかったんだ。


「悪いけどカシュ―様の意向で尾行させてもらったわ」


 僕の後ろからシウが出てくる。今回、彼女は僕の警護を任されている身なので事情を説明していた。


 とりあえず僕は死霊王と一戦を交えることにした。

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