第18話 ご馳走してもらった

 今年の魔物狩りは無事に終わった。


 オーガやトロールを討伐しに行った者達も誰一人欠けることなく無事に帰ってきた。


 怪我した人はいるが僕の【元素操作】で『肉体再生』を行うことで身体を完全に復元させた。


 それから数日経った後。


 僕はシャノさんの母親――ネオンさんが営む料亭にいた。


 なんでも死霊王と僕が居合わせたおかげで夫のオリエントが助かったからネオンさんがお礼に料理を振る舞ってくれるらしい。断る理由もないので僕はその好意をありがたく受け取った。


 料亭とはいえ基本的には金銭のやり取りは行わない。僕達の生活は森の中で完結しているからだ。何を提供するかというと食料だったり布や絹だったりする。また銅、銀、金を提供すれば料理を作ってもらえる。


 僕はシャノさんと共に料亭にある同じ食卓に着く。


「カシュー様、ありがとう。お父様を助けてくれて」


「こちらこそありがとう」


「どうしてカシュー様がお礼を言うのよ、ふふっ」


 シャノさんは手を口に当てて慎ましやかに笑った。


 トレイを持ったネオンさんがやってきた。ネオンさんもシャノさんとオリエントさん同様犬族だ。


「ありがとうな~カシュ―様」


 ネオンさんはトレイに載った料理とカテラリーを食卓に置く。


 ロールパン、コーンスープ、サラダとポテトが添えられたケチャップ付きのハンバーグが僕の目の前に置かれた。


 シャノさんの前にも同じメニューが置かれた。


「美味しそうです」


「ありがと」


 僕の言葉に微笑むネオンさん。


「このハンバーグはカシュー様のおかげで出来たメニューだ」


「どういうことですか?」


 僕は不思議に思った。


「食べてみたら分かりますよっ」


「じゃあ食べてみよう」


 シャノさんの言う通り僕はハンバーグをフォークとナイフを使って切り分けて、口に運んだ。


 僕はモグモグと肉を頬張った。ジューシーさを感じられるが普通のハンバーグとは風味が違う。


 これは……大豆と牛肉を混ぜたハンバーグ!


「ニガチャイロ豆と牛の肉を混ぜましたね」


「正解!」


 ドロシーさんは親指をグッと立てる。この方は陽気で男勝りな性格だ。


「最近、オリエントのやつが太ってな。ヘルシーなメニューを考えたんだ。カシュー様が見つけてくれたニガチャイロ豆を使ったらオリエントだけじゃなくて女性連中にも人気になってな。まっ、食べ盛りの男の子に食べさせる物じゃないかもしれないがカシュー様に食べてもらいたくてね」


「美味しいですよ」


 僕はパクパクと食事を進めた。同じようにシャノさんも食事を進めていた。


 大豆さえあれば醤油が作れると思うけど僕は作り方を知っているが化学者であって料理人ではない。


 でも素材の重さを測って、それを加熱して変化させたりと、実験と料理には通ずるものがあると思う。


 僕は多少、自炊経験もある。ドロシーさんの力を借りれば味噌ができるかもしれない。


「カシュー様どうしたの?」


 考え込む僕の顔を見つめるシャノさん。


「この大豆から調味料が作れるんだ。でも僕はその方法を知っているだけで上手く作れないかもしれないんだ。ドロシーさん達が手伝ってくれるなら挑戦しようと思うんだけど」


「へぇ~おもしろそうじゃん」


 ドロシーさんは調味料に興味津々だ。


「でもじっくりと寝かす必要があって自然の成り行きに任せると一年以上寝かせないと駄目なんだ」


「カシュー様時間操れたりしない?」


「さすがに時間は操れないです……なんかいい方法ないでしょうか……」


 僕は悩んでいるとシャノさんはおもむろに手を両手で握ってくれた。


「でも、やってみましょうよカシュ―様」


「分かった。とりあえず尻尾触らせて」


「もうっ、そればっか」


「あははははっ」


 いじけるシャノと楽しそうなドロシーさんがいた。


「あたいの尻尾ならいくらでも触っていいぞ」


「あ、お母様、駄目です」


「じゃあシャノの尻尾触らせたらいいじゃないか」


「それは……あぅ」


 困った顔をするシャノは僕を見つめてきた。


「僕の力があればいつでも飲み水を作れるよ。毎日美味しい水を家に届けよう」


「カ、カシュー様……なにもそこまでしなくても」


 シャノは呆れていた。


「カシュー様は相変わらずだね。飄々としているのにおかしなこというから面白いね」


 ドロシーさんはずっとあはははと笑っていた。


 兎にも角にも僕はシャノとドロシーさんと共に醤油作りを始めたのであった。

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