第3話 大豆食べれるようにした①
今日は畑にいる。
大人達に混ざってリルとエステルと共に穀物を採りにきていた。
レガリアの村周辺は自然豊かで様々な植物が生息している。そのため、村人たちは森で植物の種を採って畑に植えているというわけだ。
僕は片手で抱えて持てる大きさの木製のカゴに色んな種類の豆を入れていた。豆はもちろん、さやの中に入った状態だ。
「こんなもんかな」
カゴ一杯に豆を詰めた。
僕はカゴを狐の耳と尻尾が付いている獣人――狐族のグスタさんに渡した。このグスタさんは祭壇で転生した僕を見つけて腰を抜かした人物でもある。
「カシュー様助かりますぞ」
グスタさんはカゴに入った色んな豆を筒状の大型のカゴに入れた。
「カシュー見てこれ」
リルが猫耳をピクピクと動かしてカゴ山盛りに入った豆を見せつけてきた。いまにも容器から溢れんばかりだ。
ドヤ顔だ。
「結構採ったね」
「凄いでしょ」
たくさん採ったことを誇りたいようだ。
「スゴイスゴイ」
棒読みで褒めた。
「感情がこもってないわよ」
リルは片頬を膨らませながらグスタさんにカゴを渡した。
彼女は褒められたがりでもある。ちょっとツンケンしてるところもあるが基本的にはデレ要素が強い。
今度はエステルがやってきた。
「茶色の豆見つけたー」
エステルのカゴには畑にない豆が入っていた。
「「なにこれ」」
リルとグスタさんは豆を見て困惑していた。
「エステルどこに行ってたの?」
「村の外」
「なんで」
「蝶々追いかけてたもん」
可愛らしい。
神樹が発する結界のおかげで村から異常に離れすぎなければ魔物や森の外にいる人間と鉢合わせることもないので子供でも一人で行動させてもらえる。そもそも、森に住む者達は年齢問わず魔法に長けているので手強い。
「エステル、一人で行動すると危ないよ」
「蝶が飛んでたもん」
「じゃあ、仕方ないか」
しょうがないことにした。
「仕方なくないわよ。魔物は出ないけど倒木とかの事故に合うかもしれないんだから」
リルは両腰に手を当てていた。
「その豆はたしか……ニガチャイロ豆ですな」
顎に手を当てたグスタさんが喋り続ける。
「その豆は森の奥に稀に生えていますが苦味と毒がありましてな。誰も食べないので栽培しないのですぞ」
グスタさんはこの豆は食べれたものではないというがそんなことはない。
前世の僕はこの豆を知っている。大豆だ。
大豆には苦味があり、有害なタンパク質もある。有害なタンパク質を毒と見なしているのだろう。だがそれは加熱すれば取り除ける。おそらく、村人達は大豆を食べる努力をしないのではなくする必要がないのだろう。森にはたくさん食べ物があるのだから。
「その豆食べれるようにできるよ」
僕の【元素操作】ならば、あらゆる物体を分子運動させて物体の温度を上げることができる。
「本当ですか。さすがカシュ―様」
グスタさんに次いでリルとエステルが反応する。
「へぇ、やってみせてよ」
「食べたい食べたい!」
「ちょっと待っててよ」
僕は大豆が入ったカゴをエステルから受け取る。
「まずは乾燥させる」
まずは【元素操作】で大豆を構成している分子を分子運動させる。分子運動が激しくなると物質の温度は高くなるというわけだ。
大豆は一気に乾燥状態となった。
「あと、水が欲しいね」
有害なタンパク質は加熱すればなくなるけど、苦味は水の中で豆を煮て、灰汁として取り除かなければならない。
「なら私の出番でしょっ」
エステルは自信満々に右手のひらを構える。
彼女は魔法を使おうとしていた。エステルは【水魔法】を扱える。
「まあ空気中の水分子と酸素分子を結合させたら水は作れるんだけどね」
「カシュ―君意味わかんない。ここは私がやるっ」
やる気満々だ。
僕達が会話している間、グスタさんは走って行った。
「グスタさんは?」
「新品のバケツ取ってくるって」
リルが応じてくれた。
その後、グスタさんは木製バケツをエステルの前に置いてくれた。
エルテルは呪文を唱える。
「神聖なる水よ!」
エステルの右手からドバーッと水が溢れ出る。
そしてバケツが一杯になって……ドバドバ地面に溢れた。
「多いよ」
「えへへっ」
悪びれもなく笑うエステル。
まあいいや。
余分な水は地面に流す。
「とりあえず、しばらく水に漬けないとだめだよ」
僕はカゴに入ったニガチャイロ豆をバケツに入れた。
リルが口を開く。
「どれくらい待つの?」
「んー、一晩かな」
「長いわね」
リルは口を尖らせる。
「待てないわよ」
「我儘言わないでよ。時間がかかるから、一旦、家に帰ろう」
「はーい」
リルは間延びした返事をする。
「俺も食べたいですぞ」
「もちろん出来たらグスタさんにも渡しますよ」
とにかく僕は一旦、家に帰ることにしたのであった。
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