第2話 転生した②
女神さんと精霊女王さんの力によって僕は異世界に転生した。
転生した後は大変だった。村人達が僕を精霊女王さんの生まれ変わりや化身、子供などと様々な噂をする人達がいた。中には僕を生きる神として崇めてくる人もいる。おかけで不自由はしてないが恩返しをしたいと思っていた。
なので女神さんから授かったチートスキル【元素操作】を駆使して村人達の生活を助けてあげた。
森の中心地は神樹から発する結界で魔物や森の外にいる人間が立ち入れないようになっているのだ。しかし広大な森の中には魔物がいる場所もある。村人達が育てている農作物を魔物の被害から守るために【元素操作】を使い、凶暴な魔物達を駆除してきた。
方法は簡単だ。魔物を構成している元素を分解して存在そのものを跡形もなく消したわけだ。これを僕は『元素分解』と呼んでいる。また、元素操作できるということは肉体を操作することも可能だ。狩猟等で怪我した村人達の傷を癒すこともしてきたわけだ。これを『肉体再生』と呼んでいる。
ちなみに今世での僕の名前はカシューだ。
最初は村人たちの前で前世の名前、
名字は持ってない。それは村人達、全員に言えることだ。人間が住む国でも名字は貴族しか持っていないらしい。
このレガリアの村は人口は一〇〇〇人。世帯は三〇〇だ。そもそも名字がなくても村人達の名前が混同することないのだろう。人口が今の一〇倍にもなれば話は別になるだろうが。
この世界の言葉も文化も地理も全て、転生した瞬間に頭の中に流れ込んできたおかげで不自由はなかった。また、そのときに僕は人間として生まれ変わったというわけではないことを知った。見た目は黒髪黒目の人間だが精霊族という存在らしい。寿命がないわけではないがエルフ相応に長寿らしい。後は膨大な魔力を生まれつき持っているとのこと。
◆◇◆◇◆
転生してから八年の歳月が経った。もちろん僕は八歳だ。
今、僕は起床したのが。
「誰か潜り込んでいる」
被っている布団がもぞもぞと動いていた。誰かがいるというわけだ。
僕は布団をめくる。そこには僕の横でにこやかに笑う女の子がいた。
「カシュー君おはよ~」
女の子は小麦色のセミロングヘアーでエメラルドグリーン色の瞳だった。何より特徴なのはエルフ特有の少し尖った耳だ。それと僕の二歳年下だ。薄青色の肩出しワンピースを着ていた。
「なんで布団に潜り込んだの??」
「カシュー君が布団に潜り込んでいいよって言ってたもん」
「そんなこと言ってたのか」
全く記憶にない。
「ううん、嘘だよ」
「なんだ嘘か」
このようにエステルは少しお茶目なところがある。ただ懐っこくてとても可愛いと思う。いや、懐っこいというより僕に懐いているのかもしれない。これが自惚れだったら少し恥ずかしいが。
ただ、問題が一つある。エステルは僕がいる家には住んでいない人物ということだ。
「なんでここにいるの?」
「今日はね、リルに呼ばれてきたんだよ。でね、カシュー君が寝てるって言うから、こっそり布団に潜り込んじゃった」
「そういうことね。ちなみにリルはエステルが僕の布団に潜り込むことを知ってるの?」
「リルにはばれないようにきたもん」
すると、いきなりバタン! と自室のドアが開かれる。
「あ、いたエステル! ……って、二人共何してんの⁉」
ドアの向こうから口をあんぐりと開ける猫の耳と尻尾が付いている猫族の女の子がいた。いわゆる獣人だ。彼女の名前はリル。ウェーブがかかった赤髪ロングヘアでサファイア色の瞳。赤いブラウスを着ており、胸の前で黒いリボンを携え、黒いフレアスカートを着ていた。このレガリアの村で一番偉いラッカー長老の孫娘で僕と同い年だ。
悪気のなさそうなエステルは上体を起こす。
「カシュ―君にいたずらだよ」
「ふーん」
リルは鼻を鳴らしジト目で見てきた。
リルは気分屋で少しツンとした性格だ。でもそのツン要素は親しい相手にこそ出している気がする。これも自惚れだったら少し恥ずかしいが。
ちなみに僕はリルの祖父であるラッカー長老の家に住まわせてもらっている。つまりリルと一緒に住んでいるわけだ。
「リル」
僕はおもむろにベッドから立ち上がって、リルの背後に回る。
「させないわよ」
しかし、リルは体正面をこちらに向ける。
「尻尾触らしてくれないか」
「尻尾触られたら、こしょばいのよ! 毎朝毎朝やめてよね変態!」
リルは尻尾を立てて頬を赤く染めていた。
僕は真剣な顔をした。
そして壁を背にして腕を組んだ。
「癒しをくれないか」
「かっこつけても駄目っ!」
リルは後退りした。すると再び僕の部屋に来訪者が現れる。
エルフでも猫族でもない。巨大な白色の狼。フェンリルと呼ばれる獣がいた。
フェンリルは高い戦闘力を誇り、人間たちの間では伝説上の幻獣呼ばれているがこの村ではチラホラと生息していた。
「騒がしいわ」
フェンリルは喋れる。性別はメスだ。彼女の名前はシウという。
「シウおはよう」
挨拶しながら僕はシウの頭を撫でた。
「いきなり撫でないでくれるかしら」
「ごめん」
僕は謝りながらシウの顎を擦る。
「謝る前に手を止めてよ」
「勝手に手が動いたんだ」
「そんなことあるか、たわけ」
仕方なく手を離した。
このようにシウは誇り高い性格だ。
「シウ、おはよ~」
エステルはシウに近寄り頭を撫でる。
「こ、こら!」
「じゃあ僕も」
「お主はさっき撫でてた!」
僕はエステルと一緒にシウの頭を撫でた。
「じゃあ、あたしも」
「リル殿まで悪ノリしないでくれるかしら」
この瞬間、僕はシウを撫でようとしたリルの猫耳を擦る。
「あう」
リルは面映ゆそうにしてたが。
「変態!」
猫族特有の跳躍力で後ろに跳んだ。部屋の端の方まで行ってしまった。
「目標が獲物を狙っているときが一番、隙だらけだからね。触らせてもらったよ」
「なに狩人っぽいこと言ってるのよ……」
リルは呆れるように肩を落としていた。
「リル、シウ」
「なに」「なにかしら」
名を呼んだあと僕はキリッと目を細める。
「僕は君達をモフれて幸せだ」
「いい顔で言うことじゃないわよ」
「全くよ」
怪訝な顔をするリルとシウ。
「触られるの嫌ならやめるよ」
「「…………」」
なぜか二人は無言で顔を見合わせていた。
とにかく、こうして僕は当初の望み通り、ケモミミとモフモフに囲まれて長閑な生活を送っていたのだった。
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