第27話 神をもてなしてみた②
僕はルナとレリアを連れて村の宴会会場へとやってきた。
村の宴会会場は洞窟の中にある。人工的に作られた洞窟で五〇〇人ほど収容できる広さだ。
中は洞窟とは思えないほど明るい。魔力で火が点くタイプのランタンが幾つも天井に掲げられており、洞窟内を明るく照らしていた。
洞窟の奥から入口近くまで届く長さの長机が五列置かれており、一列に一〇〇人座れる。某魔法学校ファンタジー系の映画を彷彿とさせる構図だ。
長机には今にも涎がでそうなほど美味そうな七面鳥、食欲を誘う魚入りポタージュ(汁物)、甘い風味を漂わせるアップルパイ、モモ、サクランボ、葡萄等の果物が置かれていた。
僕達は村人達が拍手で出迎えてくれる中、長机の脇を通り、奥へと向かう。
そしてルナとレリアが口を開く。
「私達のために、催して頂きありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人は顔を上げて礼を言った。
「そのようなお言葉、私達にはもったいないです! うっ……うっ……ぐすっ」「そうです! 来てくれてありがとうございます!」「今日のことはきっと森の歴史に残ります」
村人達は各々、感謝の言葉を告げていた。
僕は三人を連れて空いている席に着く。
僕、ルナ、レリアの順に座ると目の前にリル、エステル、シャノが座っていた。
話を弾ませるために同年代同士かつ僕が仲良い人を集めてくれたのだろう。実際のところルナとレリアは子供の姿になっているだけで何千年も生きているに違いない。
そして皆、食事前の祈りの言葉を言い始める
必ずしも食事前に言う風習はないのだが、祭りや式典等、改まった場では言う必要があるわけだ。
「「「私達の母なる神である精霊女王レガリア様に感謝します。そして、世界を創造した女神ルナティック様よ、この世界の力と栄えは永遠に貴方の恩恵によるものであり、我らを崇めさせたまえ」」」
僕も、もちろん祈りの言葉を言った。
するとルナは気恥ずかしそうに後頭部を掻いていた。
「あははは……実際に聞くと照れますね」
「ふふふっ、私もです」
レリアは両手を口に当てて照れていた。
そして、かしましい食事が始まった。村の人達は普段、大人しいのだが今日は場の雰囲気に酔って立ちながらお酒を飲んだり、肩を組んで踊っている一団もいた。
中には逆立ちしながらさくらんぼのヘタを舌で結んでるものもいた。
「あら美味しい」
ルナはアップルパイをフォークで口に運んだあと、口を押えて感嘆する。
「それはお母さまの料亭で作ったアップルパイです。リンゴを厳選しているのでとっても美味しいですよ」
シャノは小首を傾げて口元を緩めた。
「まぁ、手が込んでますね。心がこもっている料理だということが分かります。本当にこの村は素晴らしい場所ですね」
ルナの言葉にレリアがふふっと笑う。故郷を褒められて嬉しいようだ。
「ルナ様とレリア様ってなんだか女神と精霊女王の子供の頃の姿みたいだね」
エステルは何気ない顔で思ったことを言っていた。
それは確信を突いた言葉だった。
「そ、そ、そ、そんなことです。いやあ、たまたまじゃないですかね、アハハ……」
ルナは動揺しまくっていた。
僕は彼女を肘で小突いて小声で囁く。
(演技下手ですね)
(あんまりこういう経験はないんです! 神ですから人を欺くなんて慣れてませんよ)
(え? 女神像のバストは詐称してますよね)
ルナは肘で小突き返してきた。
「うっ!?」
彼女は肘で横腹を深く抉るような鋭い攻撃をしていた。
「ルナ様と仲良いわね」
リルはポタージュを啜ったあと、口を開いた。
正直、ルナとの付き合いは皆無だ。そもそも、これで会うのは二度目だ。
しかし、不思議と気軽に話せた。
「まあ、でも、気が合うというか、不思議と話が弾みますね。ルナが明るいおかげですよ」
「ふふんっ。よく分かってますね」
ルナは上機嫌で葡萄を一粒口に入れていた。
「……む」
リルは口を尖らせる。
「リルさんは妬いていらっしゃるのですか?」
レリアはリルの様子を気にしていた。
「え、いや、ち、違いますけど」
見るからに動揺していた。
こんな風にとりとめもない会話が続き、宴会開始から数時間後、場は閑散とした。
騒がしい夜から静かな夜へと変化した。
僕とルナとレリアは神樹の前にいた。僕は寝ていたのだが自室の窓を外からルナに叩かれて目を覚ました。
今頃、二人は用意された家で寝ていたはずだが、どうやら、僕に話があるらしい。
「なんでしょうか」
僕は二人の神を目の前にする。
「ここに来た目的について話しますわ」
レリアは気になっていることについて教えてくれるらしい。
「是非、お聞かせください」
「ここは知っての通り私の故郷です。気にかけていたからここに訪れたい気持ちはありましたが、一番の目的はカシューさんです」
「僕ですか?」
要領を得ない。どういうことだろう。
「私達は貴方に力を与えてここに送り出しましたわ。そこでこの村で何を成したか、この村の皆にどう思われてるか、そしてカシューさん自身が今の生活に満足しているか知りたかったのですわ」
「つまり私達が信じて送り出したカシューがどうなっているかを知りたかったってことです」
「そうだったんですね」
神としての責任感もあるのかもしれないが、言葉の節々から僕を気にかけているのを感じられた。
「僕をこの村に送り出して良かったでしょうか?」
ルナとレリアは互いに顔を見合わせたあと、こちらを見る。
「ええ、とっても」
「貴方をこの村に送り出してよかったですわ……ぐすっ、み、皆、幸せそうで」
「え、だ、大丈夫ですか⁉」
レリアは泣き出した。
「つい……嬉しくて、泣いてしまいましたわ……」
「故郷だから色々思うところがあったんでしょう」
レリアはルナを慰めるように抱き着く。二人は向かい合って体を寄せ合っていた。
僕に感謝しているようだが感謝したいのは僕の方だ。
「ルナ、レリア、僕の方こそ、こんな素敵な場所に送ってもらってくださって、ありがとうございます。感謝してもしきれません」
僕は頭を勢いよく下げる。
「そう言ってもらえると転生させたかいがありました」
「ええ、本当ですわ」
ルナ、レリアは僕の顔を見て微笑む
「良かったら、これからも私達のことをルナ、レリアと呼んでください」
「それは少し不躾なような」
「せめてもの感謝の気持ちですわ」
神様相手に大それたことをしているような気もするが、彼女達が気軽に呼んでいいと思ってくれるなら呼ぼう。
「分かりました、ルナ、レリア、これからもまた色々と聞くことがあるかもしれませんがよろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします、カシュー」
「よろしくお願いしますわ、カシュー」
こうして、夜が明けてルナとレリアは昼になった頃には元の世界へと帰った。
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