第20話 将来のことを考えた
昼下がり。僕は村の外をほっつき歩いていた。
目的は目新しい物を見つけるためだ。レガリアの森は広大で複雑だ。入り組んだ洞窟もあり、村の近場でさえ全貌が分からない。僕の知的探求心が新しい物探しへと駆り立てていた。
日常的によくやっていることだ。オリエントさんの塗料の材料もこうして見つけてきた。
でも今日は一人じゃなかった。
僕以外に三人もいた。同居人であり猫族のリル、エルフのエステル、犬族のシャノだ。部屋から出たらリルに捕まって、家から出ればエステルに捕まって、村から出ようとすればシャノに捕まった。
結界の外に出れば魔物が出る可能性があるので、もちろん結界の外には出ない。
道なき道を歩いて僕達は日差しを浴びていた。太陽の位置からして今は昼の二時ぐらいだ。
「大人になったらお母さまの食堂で一緒に働きませんか?」
「カシューは長老になって、ずっとあたしの家にいるんでしょ?」
「またその話してるね」
二人は僕の将来について勝手に語っていた。
すると、エステルが口を挟む。
「将来、カシュー君はエステルの家で暮らすって言ってたよ」
「「え?」」
リルとシャノは口を止めて固まっていた。
「そんなこと言ったんだ」
全然、記憶ない。
「言ったもんっ!」
膨れ面をするエステル。
「それっていつの話?」
「一年と三五日前だよ。時刻は昼過ぎ」
「かなり正確に覚えてるね」
たまに思うがエステルは記憶力がいい。
「エステルがカシュー君の部屋に遊びに行ったときだよっ」
「どの日だろう。エステルはよく家にくるからね」
僕はなんとか古い記憶を思い出す。
一年と三五日前。
エステルは机で作業している僕に話しかけていた。
『カシュ―君なにしてるの?』
『計算だよ。この森の結界の外には侵入者対策として幾つか砲台が置くことになったからね、方角による着弾の位置を明確に計算で導き出せば命中率が上がるはずだ』
『?????』
エステルは体を九〇度、横に傾けていた。
『よくわかんないけどカシュ―君凄いね』
『勉強したらエステルも分かるよ。そのうち、この森の中に学校を建てて皆に勉強を教えるのもいいかもしれない』
僕は頭の後ろで手を組んで将来のことを考えていた。
知恵が付けば皆の生活水準も上がるだろうし身を守る力だって身に付く。
『学校?』
『勉強する場所だよ。人間の国にはそういう場所があるんだよ。何も学校っていうのは勉強だけする場所じゃないけどね、何を目的にして過ごすかは人それぞれだよ。役割としては勉強を教える先生がいて、勉強を教えてもらう生徒がいるんだ」
『楽しそっ、エステルと一緒に学校で先生なろ』
『エステルは物覚えがいいからね合ってるかもね』
『それで一緒に暮らそっ』
『ははっ、エステルと暮らしたら賑やかそうで楽しそうだね。それもいいかもね』
僕は優しく微笑んでみせた。
回想終了だ。
「ああ、思いだしたよ。確かにそんなこと言ったような気がした」
「聞いてないんだけど、長老になるんじゃないの?」
リルは僕に詰めよってきた。
「長老になるのもいいと思ってる」
僕は後ろに数歩下がる。長老として村を運営するのも楽しそうだ。
「私と一緒に料亭で働くの嫌なんですか?」
今度はシャノがうるうるとした目で詰め寄ってきた。
僕は後ろに数歩下がる。
「それもいいかもね。楽しそうだ」
人々に食の喜びを与えて生きるのも良さそうだ。
リルとシャノは同時に口を開く。
「「どっち!?」」
正直、詰め寄ってくる彼女達の逆立っている尻尾に注目してしまった。
「エステルと一緒に暮らそっ」
エステルは僕の服の裾を掴んでヒラヒラと動かす。
可愛らしい動作だ。
「うーん」
僕は顎に手を当てて悩んだ。
「全部やるってのは? 先生と料理人と長老を兼務するんだ」
無理くり結論を出した。
「どっちつかず」
リルは尻尾をうねらせながら、そっぽを向いた。
「うん……カシュー様ならできるかもしれませんね」
シャノは尻尾も耳もしおれていた。
「やっぱカシュ―君すごいねっ」
エステルは目を輝かせていた。
生きてる限り時間はまだまだある。きっとやりたいことも増えるだろう。
色んな可能性を模索していこうと思う。
そんなこんなで騒ぎつつも楽しい珍道中を終えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます