第5話 食べられる豆が増えた
ニガチャイロ豆を食べれるようにしたあと。
ニガチャイロ豆を木製バケツ(新品)から平べったい木製の皿に移して、リル達にニガチャイロ豆を披露した、フェンリルであるシウの顎を撫でながら。
「よしよし」
「ほぅ……ってやめて」
シウは一瞬、気持ちよさそうにしていたが頭を振って暴れた。
「今日もありがとうございます」
「なんの礼かしら……」
シウは一歩後ろに下がった。恐怖しているのだろう。
リルが口を開く。
「これもう食べていいかしら」
「いいよ。皆も食べて下さい」
「頂くわよ」
リルがニガチャイロ豆を口に運ぶ。
それに続いて、スロさん、オレシャさん、ラッカー長老が続いて豆を食べ始める。
「ほほう、こんな味だったか」
ラッカー長老は唸る。
「これは癖になるなぁ」
スロさんはパクパク大豆を口に運ぶ。
「素朴ですけれども、おつまみにはいいですねぇ」
オレシャさんは豆を二つ食べて手を止めた。
「いやぁ! 癖になるなぁ」
スロさんはずっと同じことを言いながら豆をパクパク。
かなり気に入ったように思える。
「しかし、オレシャの言う通り、あまりにも素っ気ない味じゃ」
ラッカー長老は不満そうだ。
なんにも味付けしてないからしょうがない。
「リルはこの豆、気に入った?」
「私、味感じないんだけど」
リルは文句を言いつつ、シウに豆を食べさせていた。
「あっしも、味付けが欲しいと思ってたわ」
「なら私がどうにかします」
シウにオレシャさんが応じた。
僕はオレシャさんに手伝いを申し出て台所に行った。
リルも付いてきてくれた。
やることは単純だ。この家にある調味料で豆に味付けする。この家には砂糖、塩、胡椒、オリーブオイルがある。
ここは森の中だが多種多様な調味料も取れる。なぜか海にしかできないはずの岩塩や暖かい地域にあるはずの砂糖が採れる植物がある。さすがファンタジー世界だ。どうやらレガリアの森の真ん中にある神樹の根から発する魔力の影響らしい。つまり神樹が森の生態系を特殊な環境にしているというわけだ。
「ママ! 一緒に味付けしようよ!」
「じゃあ砂糖と塩で味付けするわね」
オレシャさんが顎に手を当てて悩むとリルは率先して調味料を取って各々に配る。
「僕はオリーブオイルと胡椒で味付けするね」
僕は【元素操作】で豆の水分を抜いたあとフライパンにオリーブオイルと一緒に豆を入れた。
「カシュー様、申し訳ないですけど……私達のニガチャイロ豆の水分も抜いてくれないかしら」
「もちろんです」
僕は同じようにオレシャさんが持っている豆の水分を抜いた。
そのあとオレシャさんは豆を炒めて、リルが砂糖と塩を小さじずつ加える。
僕も彼女らの横で豆を炒めはじめる。前世で生涯、独り身だったこともあり、少しだけ自炊経験もあったりする。
僕は上手いこと豆をフライパンの上で転がして全体に焼き色を付けたあとに胡椒で味付けをした。
調理を終えた僕たちは食卓で待っている皆の元へと戻る。
食卓に僕達が調理した豆が載った皿を一つずつ置いた。
「ほほう! ちょっとした味付けで見違えるように美味そうじゃ」
ラッカー長老はにこやかに笑った。
「どれどれ、って
「行儀が悪いわねぇ」
早速、スロさんが素手で豆を取ろうとするとオレシャさんに手を叩かれていた。
「早く早く」
シウは前足を食卓に置いて、はぁはぁと息を切らしながら待ちきれない様子を見せた。
神獣と呼ばれる誇り高きフェンリルだがこういった一面は可愛らしい。
「でこれはどういった調理をしたんじゃ?」
ラッカー長老の問いにリルと僕は答える。
「砂糖と塩のニガチャイロ豆炒めよ!」
「僕のは胡椒入りニガチャイロ豆のオリーブオイル炒めです」
「なるほどのう」
僕達は料理名を言ったあと、各々、小皿に豆を分けてスプーンを使って試食を始めた。
「「美味い!」」
ラッカー長老とスロさんは一口目で感嘆していた。
「俺はカシュー様が作ったものの方が好みかな、ヘルシーさがあっていい!」
「わしはリルとオレシャが作ったものの方が好きじゃな。この豆の食感と塩の味が癖になるんじゃ」
二人は感想を言ってくれた。
「カシューの中々上手いわよ」
なぜかリルは上から目線だ。
「リルとオレシャさんのも美味しいですよ」
「ちょっと味付けしただけなんですけどねぇ。ありがとうカシュー様」
互いの料理を褒め合ったあとに僕は話を切り出す。
「改めてニガチャイロ豆はどうでしたか?」
「中々、良いものじゃ」
「美味しかったわ」
ラッカー長老とリルからは高評価だ。
「間食にはいいと思うわ」
「何個でも食べられる!」
オレシャさんからは悪くない評価。
スロさんは大絶賛だ。
「シウは?」
シウの方を振り返ると、床の上に置いた皿に入った豆を食い尽くしていた。
「まぁまぁだわ」
「とか言って全部食べてるね」
「ふん」
シウからも高評価ということでいいか。
「ということで村全体に食べれる豆が増えたということでニガチャイロ豆の苦味と毒成分を抜く方法と今の調理方法を伝えたいと思います」
「素晴しい、さすがカシュ―様」
スロさんは拍手して称えてくれる。
「さすがカシューよね」
リルもなんだかんだ褒めてくれる。
皆が満足そうで充実感を得られた。
僕は羽ペンでニガチャイロ豆を食べれるようにする方法と今日の調理方法をレシピとして残して村中に配った。
家の住人からは高評価だったのできっと村の皆も好いてくれるだろう。
充実したスローライフを送りつつ、スキルと知識を使ってこの村の皆を喜ばすのは気分が良い。
ニガチャイロ豆もとい大豆は醤油を作り出すこともできるので近いうちに、その開発に着手しようと思う僕だった。
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