第34話 商売が始まった②
フィンフィン
組み立てた屋台の裏で木箱に座って食事を摂ることにした。
本日の昼食はこの市場で買ったロールパンと鹿のローストだ。鹿肉は柔らかくとても食べやすい。
食事を終えた僕は皆と一緒に現時点での売り上げを計算することにした。
僕達は銅貨二〇〇〇枚(四万円)と銀貨一〇〇枚を稼いでいた。銀貨は一枚で二〇〇〇円なので二〇万円を稼いだことになる。これはレタンさんが加工した宝飾品の売上だ。
ただ、レガリアの森の民は物々交換が主流で金銭のやり取りをしない。
金銭は主に森の外で使う。外の世界から繋がりを絶っているレガリアの森だが、外の世界の情報を定期的に仕入れているわけだ。金銭を使って文化、技術、魔法、戦術などの情報を仕入れている。これは主に自衛のためだ。
例えば、外の世界でレガリアの森に張ってある結界を破壊するような魔法を開発する可能性や珍しい種族を捕らえようとする者が現れる可能性があるわけだ。そういった危機に備えて様々な情報を仕入れている。もちろん情報の真偽は不明なので様々な情報と擦り合わせながら村の人達が記録を保管することになる。
また、神樹から発する魔力のおかげでレガリアの森では、気候や地形を無視して多種多様な植物や鉱物が採れるわけだが海の幸が不足している。湖や川はあるが海で採れるような生き物はいないため、魚介や海藻類を購入することも多い。さらに家畜や娯楽のために雑誌や新聞紙を購入することもある。
つまり、お金を使う環境ではないが、あるに越したことないので一気にここで荒稼ぎするわけだ。現時点では荒稼ぎというほど稼いではないが僕達には森で採れた貴重な香辛料がある。それを後で出すわけだ。
「さてと」
僕は商売を再開した。今度は洗剤を売ることにしよう。
水のり同様、洗剤は瓶に入っていて用途が不明だ。そのため、再び実演販売をしなければならない。
僕が開発したのは油汚れに使える代物だ。
「皆さん! 今から実演販売をしますので見てください。油汚れに強い洗剤を販売します!」
呼び込みを行うと荷物を背負った商人や女性がぞろぞろと集まってきた。
「ほう洗剤とな! 気になるのう!」
「その瓶の中に入ってるのが洗剤? 透明で綺麗だわ」
僕は屋台に集まってきた人を横目に実演販売の準備を始めた。
ワックスを塗りたくったガラスを台の上に置いた。
「がっつり油がついているが本当に取れるのか?」
「ガラス全面が黄色いわ」
言われた通りガラスの上部はワックスの層がしっかり載っていた。
「これからこのワックスが取れるところを見せましょう」
僕は瓶のフタを開けてワックスをだらーっとガラスに垂らした。ワックスでガラスの端から端まで一文字を描いた。
そのあと、布でワックスをガラス全体に広げる。
皆、興味深そうに僕の手元を見ていた。
ワックスを広げた後は綺麗な布を取り出して少し力を入れてガラスを拭いてみた。
「「「おおお~‼」」」
見物してる人達は歓喜の声を上げた。
布でガラスを拭いてやるとワックスは洗剤に溶けるように消えていったのだ。
「素晴しい!」
「台所の油汚れを取るのに便利だわ!」
「この洗剤は人体に触れても問題がないように設計して作られていますが手洗い用ではないので気を付けてください。手が荒れる可能性があります」
人体に害はない洗剤だが肌に対しては刺激が強すぎるので日常的に使い続けると荒れてしまうわけだ。
「買った!」
「瓶一つでいくらだ!」
「瓶一つで銅貨二五枚となります」
「妙に値段が張るな……しかし欲しい!」
僕が用意した洗剤は次々と人の手に渡った。
一時間後。
「――――瓶に入ったぶんがもうなくなった」
僕は洗剤が入った瓶を一〇〇個用意したのだが綺麗さっぱりなくなっていた。
早速、僕は次の作業にとりかかることにした。
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