第58話 町を去ることにした
フィンフィンの町を襲撃していた太古の魔物と南海傭兵団を撃退してから数時間が経過した。
夕日が沈み、夜の帳が下りても町の人々はずっと僕を賞賛していた。嬉しいが少し疲れてきた。
「カシュー様! これフルーツの盛り合わせだよ! 受け取りな」
「ありがとうございます」
「これは今年一番の出来の短剣だ! 鋼で出来てるぞ!」
「ありがとうございます」
「これは幸せになる壺だよ! 受け取って」
「ありがと……それはいらないです」
街の大通りを歩くと色んな人に感謝されながら物を貰う状況になってしまった。中にはいらない物を押し付けようとしている人もいた。荷物の量が多すぎて手に余るのでこの町に一緒にきた人達に荷物を持ってもらっている。
ちなみに一緒に来た人――ペンキ屋さんのオリエントさん(犬族)、狩人のオーガスタさん(エルフ)、農夫兼狩人兼細工職人のレタンさん(エルフ)、そして大工のゴッズさん(狼族)も町の人同様に僕を褒め称えつつ、地面に頭を擦りつける勢いで共に戦えなかったことを謝っていた。
あまりにも人々が寄ってくる状況なのでレタンさんが「一先ず裏路地に向かいましょうか」と提案し、人目を避けるように移動した。
「ふぅ……」
僕達は溜息を吐きながら地面に受け取った荷物を下ろした。
ゴッズさんは破顔しながら口を開く。
「ここでも人気者っすね」
「僕はできることをやっただけです。街の人達の役に立てたことは嬉しいですが……少々目立ち過ぎましたね」
僕は嬉しさ半分困惑半分の気持ちだった。
「確かにこのまま歓待を受けると大変な状況になるわい」
オーガスタさんは僕に同調しながら喋り続けた。
「この町の町長が是非、明日、カシュー様と食事したいといっておる。その後、ランド自治領の軍権を握る総督が勲章を与えたいとも言っておるわい、喜ばしいことじゃが俺達は明日には帰らねばならん」
彼は首を捻って困った様子を見せていた。あまり外界と関われば一〇〇〇人の森の民達の存在が公になってしまう可能性がある。
「じゃあさ、明日の朝、こっそり町を抜けるってのはどうだい」
僕達はオリエントさんの言葉を聞いて考えを巡らしたあと、「うん」と静かに頷いた。
「あ、でも待ってください。コパー商会に僕が開発した洗剤の原材料と製造方法を書いたレシピを渡したのですが、まだお礼の金銭を受け取って貰ってないです、明日、朝早くから貰うように頼みこみます」
僕はコパー商会のフェリーさんと交わした契約を果たすために商館へと向かい、フェリーさんと話し合うことにした。
商会の商館に向かうと皆、慎ましい雰囲気で接待してくれてハーブティーや高級クッキーを出してくれた。とりあえず、ありがたく頂いたあと、僕は行ったことのある談話室へと案内された。
談話室に入るとソファーに座ったフェリーさんと猫族のリーンさんが部屋を掃除していた。
「カシューさん、どうぞお座りください」
僕はフェリーさんの前に座った。
「実はかくしかじかで……」
僕は簡潔に精霊族を崇める村は外部に存在を知られたくないので明日の朝、僕達はひっそりと町を出て行きたいことを伝えたい。
「まぁ……そんな……」
フェリーさんはショックを受けた様子で口に手を当てていた。
「ですが他ならぬ英雄の頼みとあれば仕方ありません、内密に明朝に金貨を渡すように手配しますが……」
フェリーさんは言葉を詰まらせていた。
「どうかしましたか?」
「本当にいいのですか? 更なる金銭や名誉が授与される機会ですよ」
「あんまりそういうのは興味ないです……こうやって色んなものを開発したり、人の助けになれたら満足なので」
「素晴しい心意気ですが……でも約束はどうするのですか王女さん達との」
「約束……あっ」
珍しく失念していたことがあった。太古の魔物の戦いが終わったあと明日の昼、エリアナとルティアさんが感謝の礼を兼ねて食事に招待されているんだった。森の民を納得させつつ、二人に失礼がないようにするにはどうすればいいのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます