第29話 フィンフィンの町に向かった①
ラッカー長老に言われて僕、オリエントさん、オーガスタさん、レタンさん、ゴッズさんの五人で森からフィンフィンの街に向かった。
森から出るのは初めてだった。正直、今まで森の外に出ようとは思わなかった。森をどれだけ探索しても目新しい物が見つかるので退屈しない。
とはいえ外の世界に興味がなかったわけではない。正直、ワクワクしていた。
市場で売り出すものは荷馬車に載せてあり、それぞれオーガスタさん、オリエントさんが馬の手綱を引いていた。
僕とレタンさんとゴッズさんは客席用の馬車に乗っており、この馬車の馬はゴッズさんが手綱を引いていた。
「大丈夫すか? 乗り心地はどうですか!?」
狼族のゴッズさんが首だけ動かしてこちらの様子を窺っていた。
「僕は大丈夫です」
「自分も大丈夫ですよ」
僕とエステルの父親であるレタンさんが答えた。
ゴッズさんはとにかく明るい性格だ。そしてレタンさんは慇懃な性格だ。
僕の役割は自分が開発したものを紹介することだ。
大工のゴッズさんは家具や木製の工芸品、建築材料、レタンさんは宝飾品や皮革製品を紹介し、売ることになっている。
僕は馬車の後ろの幕を開け、景色を見る。
森がどんどん遠ざかっていった。
そして辺りには草原が広がっている。
心地よい風が僕の頬を撫でる。
向かう先は獣人と人間が混成しているランド自治領のフィンフィンの街だ。
ランド自治領の中で最も栄えている街で、フィンフィン
楽しみだ。
馬車は順調に進んでいき、そしていつの間にかランド自治領の領土内に入っていった。
フィンフィンの街まで八〇キロ程離れているらしい。目的地まで五日から一週間程度はかかるだろう。
いつも頭を使っていたのでこの一週間は頭脳労働をやめとこう。
「ところで、カシュー様」
「なんでしょう」
今後のことについて考えているとレタンさんが話しかけてくれた。
「いつも娘と仲良くしてくれて助かります」
「いえいえ、エステルとは僕の方こそ仲良くしてもらってて彼女の天真爛漫さにはいつも笑顔にさせてもらってますよ」
「実は自分もそうでして、ははは!」
レタンさんは照れくさそうに哄笑していた。
すると、ゴッズさんが背中を向けながらも会話に加わる。
「カシュー様! この前、ワイテデル木見つけてくれたの感謝してますよ!」
ワイテデル木とは竹のことだ。
「ワイテデル木はどうでしたか?」
「ありゃすごいっすよ! 天井や柱をある程度好きな形に曲げれるんで建設が楽しいっす!」
ゴッズさんは顔こそ見えないものの、声からして大喜びしているのが分かる。
そんなこんなで他愛のない会話をしながら僕は馬車に揺られた。
すっかり辺りが暗くなる頃には街道沿いにある大きめの宿場町に着いた。
「なんすかあれ⁉」
馬車から下りようとするとゴッズさんは驚いたまま固まっていた。
そして彼の視線の先を追った僕とレタンさんは目を丸くした。
世界中から商人がやってくるので宿屋の横には非常に多くの馬車が並んでいたが一際目立つ、馬車が一台あった。
赤い地に金の装飾が施された馬車が停車していた。その前には白銀の甲冑を着た騎士がいた。
「なんですかね……あれ、あまりにも目立つ馬車のようですが」
「貴族……とかいうレベルを越えてますね」
レタンさんと僕は各々、感想を言った。
レタンさんは再び口を開く。
「まっ、珍しいことじゃないですよ。大陸中から人が集まるんですから珍しい物を買おうと思った富裕層がフィンフィンの街に寄る途中で宿場町にいてもおかしくありません」
「それもそうですね」
僕はレタンの言葉に納得した。
ここで僕達は宿屋に入る前にやらなければならないことが一つある。
「さて見張りを決めることにするわい」
オーガスタさんが話しを切り出す。
馬車の見張りを立てなければならない。もちろん、夜の間に窃盗に遭う可能性があるからだ。
「僕がやり――」
「「「いやいやいやいや!」」」
チートスキルを持つ僕が見張りをすれば一番安心だと思ったが全員に拒否された。皆、全力で首を横に振っていた。
「ここはカシュー様が考案した遊びで決めるんだ」
オリエントさんの言葉で皆、利き手を引いて一斉に喋り出す。
「「「最初はグー! じゃんけんポン!!」」」
僕は村人達にじゃんけんという遊びを教えていた。
そして今日の見張りはゴッズさんに決まり、僕達は宿屋に入ったのであった。
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