第48話 大都市チャヤナ




 二日の旅も終わり、ようやくチャヤナの関所に到着する。

 街は砦のような高い壁に囲われ、いつ何が起きてもいい。そんな様相を感じさせた。


「やっと着いた〜」

「そうだなぁ〜」

「ふぅ……」


 サキと俺はだらっとした態度でそう口にする。

 王女も疲れが見えるようで、小さく息を漏らし安堵しているようだ。


「止まれ!」


 関所前で衛兵に停止を告げられる。

 馭者をする部下も慣れているため、少し手前で速度を落とし、すぐに止まれるように馬を操る。


「通行料の徴収、入領の目的を聞く!」


 衛兵が真面目に仕事をする。

 通行料は部下が渡し、目的を俺と王女で話をして行く。


「王族の証をお見せください」

「これよ」

「失礼」


 衛兵はそれを受け取り、何か仕掛けがあるのかある部分を見て判断していた。


「失礼しました。お通り下さい」

「ありがとう」

「お疲れ様で〜す」


 衛兵は証を王女に返し、王女はそれに礼を告げる。俺は真面目な衛兵に労いの言葉をかける。


 大都市チャヤナに入った俺たちは二手に分かれるため、馬車の移動を始めた。

 王女送迎組と宿の手配組。

 王女送迎組は、王女、俺とサキ、護衛三人で向かい、宿組は新人たちに向かわせる。


 念話もあり、一人慣れた部下をつけているため、失敗することはないだろう。

 何かあるとすれば送迎組だ。


「しかしすごいなぁ。華やかさが段違いだ」

「綺麗だよね〜」


 俺とサキは周りの景色に目を奪われながら送迎を楽しむ。護衛や王女はそこまで呑気にできるものでもないらしく、貴族領に近づくにつれ、口数が減っていた。


「何用かな?」


 貴族領への関所で騎士が立ちはだかる。

 不届者を通さない。そんな固い意志が伝わってくる。


「これを」


 部下が書類を渡し、騎士がそれに目を通す。

 しばらくすると、騎士は書類から視線を切る。


「別の馬車を用意する。今乗っているのは向こうに停めておけ」

「分かりました」


 どうやら見栄えが悪いらしく、馬車ごと変えることになった。

 一般人が使う馬車では貴族領に入ることすら許されないらしい。まあ王女が居るから仕方ない。


 数十分経過して、ようやく馬車の用意が完了。

 急遽用意したためか、俺たちを見下し待たせたのか分からないが、かなり待った。創造魔法的な使い手は居ないのだろうか。


 待たせるぐらいなら質素な馬車でもいいだろう。

 そんな風に俺は考えてしまう。貴族はよく分からないな。


「ここからは私が馭者をしよう。後ろに乗ってくれ」

「了解です」


 部下が相手を買って出るため、余計な心労はかからない。だが鼻につく。ヒロトだったらやりかねない態度だぞ。

 ここには居ない人間を例に出して心の平穏を維持する。


「しかしよくここまで辿り着けたものだな」

「ええ。いつも盗賊に襲われないか冷や冷やしていますよ」

「ハッハッハッ。だろうな」


 騎士と部下の会話が聞こえてくる。

 騎士の機嫌を損ねないよう部下が立ち回っているのが容易に伝わる。

 気遣われている騎士の方は…………素直に受け取っているようで、嫌な顔ひとつしない。


「それにしても建物一つとっても豪華だなぁ」

「貴族は見栄を張るものよ」

「でしょうね」


 俺の呟きに王女が一言告げる。

 それは騎士の態度から見ても明らかであるため同意する。


「ただあれだよなぁ……見栄のために色々犠牲にしてるよなぁ」

「そうね。やたらと時間をかけたりするわね。先程のように」

「ああぁ、やっぱりか。本来迅速に対応することが、出来る者と感心されるはずなんだよな。捻じ曲がりすぎだな」

「本当に情けないわ。あれで高給取りなのがまた……」

「何もないことを祈るばかりだな」

「何のこと……?」


 真意に気づけず王女が尋ねてくる。

 しかしそれには口で答えることなく、首を振って答えを濁した。

 正直、ヒロト程強くない俺でも、此処に居る人間を殺して回ることぐらいは出来る。


 機嫌を取っているようで、本当は俺の気分を直接害さないために部下が騎士の相手をしているのだ。

 それを理解しているのが後二人の部下のみ。

 逆に心労かけている感じで申し訳ないよ。本当に。


「そろそろ到着だ」

「ありがとうございます」


 騎士の大きな声は後ろまで届き、降りる準備を始める。

 それからしばらくして、馬車は停止する。


「着いたか〜」

「遅い」

「性能の問題だな」


 サキの呟きに短く答える。

 自前で用意していたものは、移動速度と安定性を高めたもの。見栄えだけのものより性能が良いのは明らかだ。

 ただサキの目には、豪華=凄いとなるため思いの外遅くガッカリしている。


「デカいな。王宮」

「そうね。他の町でも見ることはないわ」

「そっか。じゃあ、此処までだ」


 王女が隣に来たため何でもないことを会話の入り口に使う。

 王女はそれに淡々と答え、俺も淡白に返す。


「ええ。短い時間だったけれど楽しかったわ」


 そう言って王女は歩き出す。

 王宮の門の向こうには、涙を流し帰還を喜ぶ使用人や周囲を警戒する者も居る。

 どういった経緯で盗賊に捕まったのかは未だ不明。

 もしかしたら漫画とかである王位継承的な事で、今も何かが続いているのかもしれない。


 考えても無駄なのは間違いないが、こうやって人の人生に大きく関われたことは経験になったと思う。

 ただこのままのお別れも寂しく感じ、


(何かあればいつでも呼んでください)


 と、王女へ念話する。

 王女の肩が少し揺れた気がしたが、彼女は前を向いたまま使用人たちの元へと辿り着く。


 それを見届け、俺たちは馬車へと乗り込み関所へと帰還する。

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