第31話 獣人の裏切り
あれから毎日ダンジョン運営に精を出している。
ゴブリンリーダーと共に経過報告や次の侵攻など、様々なことを話しながら進めている。
ただ、もう一方の獣人の方は進みが遅い。
距離を必要とする任務であるため多少の遅れは理解できる。
しかし、毎日一度はある報告が二日前に途絶えたのだ。
何者かにやられたということも考えられるが、並の人間でない限り獣人を倒すことは不可能。
少し領域を出たからといって強者が存在するとは考えられない。
そのため、オレは獣人の裏切りという結論を出して行動を開始した。
「領域を出た者たちの行方を知らないか?」
オレはすぐに部屋を出て獣人たちの住む領域に足を踏み入れた。
同じフロアに居を構えているが、接点を持っていないためそこに残っていた獣人たちはオレの訪問に慌てふためく。
「な、な、な、何用ですか?!」
「慌てすぎだ」
「す、す、す、すみません!!」
相手をする獣人は、怒鳴ってもいないのに怒られたかのように振る舞う。
しかもそれが、女児であることが更に拍車をかける。
側から見ればオレが裏で何かしているのではないか、そう思わせる様になっている。
そこまで怯えられる覚えもないため、オレは改めて丁寧に
「領域を出た黒狼と灰狼からの連絡が途絶えた。何か知っていると思って聞きに来たんだ」
「そ、そうでしたか……今すぐ聞いてきます!」
対面する女児は逃げるように大人の元へと向かっていく。
口調はしっかりしているが、やはりまだ子ども。
成長すればカミ子の補佐なんかもいいんじゃないだろうか。
オレは先のことを考えながらその女児が戻ってくるのを待つ。
女児はそこまで時間をかけずに戻って来る。
聞きに行ったということは念話を使えない訳だが、それにしてもかなり早い。
大人たちに念話を使ってもらったとしてもだ。
かなりの人数がいるはずだし、意見を聞くだけでもかなりの時間がかかるはずだ。
しかし、戻ってくる時間は余りにも早い。
何か別のことも起きている。そんな気がする。
「も、戻りました!」
「ああ。それで、何か分かったか?」
「はい。まず1つ目なんですが、領域を出るはずのない者たちも抜け出したみたいなんです」
「……なるほど」
「ひっ……!!」
まず1つ目と女児は言ったが、それを聞いてオレは獣人の裏切りを確定させる。
女児はその際のオレの圧に一瞬怯む。
落ち着いて話していたがまた慌てさせてしまった。
そう感じてオレは胸の内で反省する。
男たちだけでの領域外への偵察。それが今回の計画だ。
しかし、待機であるはずの女まで連れ出しているという。
これは明確な裏切りであることは間違いない。
戻ってくるのなら連れて行く必要がないからだ。
誰もがわかる簡単なことだ。
しかし、計画の変更と裏切りへの対処を行わなくてはならなくなった。
何かが上手くいっていれば、何処かに穴があく。
本当に面倒だ。
契約といっても、獣人と交わしたものはこの世界に認識させるためのもの。
オレの指示に従うような、そんな絶対的なものではない。
その爪の甘さが招いた結果か。
契約だけでは裏切られる。
ならば、オレに歯向かうことのできない奴隷契約を結ぶしか道は無さそうだ。
「1つ目は理解した。他に何がある?」
「は、はいぃ……2つ目なんですが、ダンジョンを自分たちのものにする、とか言ってたみたいですぅ」
「分かった。ありがとな」
少し怯えながらだが女児はしっかり説明する。
オレはそんな女児の頭を撫でてその場を後にする。
やることが増えた。
自室に戻り地図の確認を急ぐ。
「あんまり広がってないな」
目の前に現れるホログラムの地図を見て、獣人たちが領域外に出てからあまり変化が無いことに気づく。
ただ、数ヶ所の範囲はどんどん広がっていた。
「コイツらが帰ってきたら聞かないとな」
数人の獣人はオレの指示に従っているため、領域に入れた後に契約を更新して尋ねることにする。
数人でも手足が残っていればやりようはある。
ゴブリンたちを使ってもいいが、機動力で負ける恐れがある。
そう簡単にダンジョンの戦力は裂けない。
オレ自身と数人の獣人で裏切った奴らを討伐するしかない。
そうオレが考えた時、地図に映る獣人の反応が幾つも一緒に消えた。
「契約破棄、か……」
契約していれば魔力の繋がりが僅かであるが感じられた。
それが一瞬にして無くなったため、オレと獣人の間で行われた契約が無かったものにされた訳だ。
地図の反応では同じ場所で消えた。
集落を築いているのかわからないが、間違いなくその近辺で暮らしているはずだ。
出回ってはいけない魔道具も与えている。
それを回収しなければならない。
利益の独占は当たり前のようにやる。
力と金があれば大抵のことはどうにかなるもんだ。
オレを裏切った罪を償わせなければな。
「帰ってきたぞ」
「ああ」
「男の獣人が数人帰ってきた」
「……ありがとう。すぐに行く」
始めはカミ子自身が帰ってきたことを告げたと思いいつものように返事をした。
だが、それが意味していたのが獣人であったため、カミ子に礼を伝え部屋を出た。
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