第4話 未知の村での策略
「よし。それじゃあ、村へ向かうぞ」
「了解。どうなるか楽しみだな」
猪を吊るした木を持ち上げ、マサキに声をかける。
中々の重さだが、休憩が必要になるほどではない。
これならばすぐに村へと到着しそうだ。
マサキを前にして、二人組の現地人を見た場所に案内してもらう。その後、その二人が進んでいた方向へと歩いて行く。
さっきまで居たところとは違い、道の往来があるためか自然の感じが薄い。明らかに人が通っている雰囲気を感じる。
「二人組がどんな格好していたのか詳しく教えてくれ」
「ああ。さっきも言ったが、裕福ではない感じだ。男二人組だったから上は裸で、下はダボっとした薄いズボンって感じだ」
「武器の装備は?」
「あったな。背中に片手剣を背負っていた。一人は弓矢だったけど」
「そうか。飛び道具があるのか」
詳しい情報を聞いて行くと、村の人間はオレたちに比べて武力がありそうだ。
それが男の数だけとなると、集団戦はかなりキツい、というか負ける。
作戦を見直した方がいいかもしれない。
一番に思いつくのは人質だが、その人選を間違えれば切り捨てられて終わりだ。
すぐに敵意を見せれば、近くの人間、出来れば子どもを人質にする。無理なら女、妊婦が好ましい。
そうすれば両親、パートナーが村人たちへ嘆願してこちらに猶予が生まれるはずだ。
その短時間で魔法を教えてもらえれば十分。知らなければ脅して別の人間を隠れて連れて来てもらう。
とにかく村人がどれくらいの戦闘能力か分からない。
心配事が多いし、慎重に動かざるを得ない。
オレは念のため考えた二次プランをマサキに伝えた。
「あ〜そういうこともあるか。いや、そうだよな。相手がどれくらいやれるのか分からないってのはキツイな」
「ああ。今はどうにか優位を得ることを考え行動しなければならない。村の制圧、掌握が今のゴールだ」
「了解。おっ、木の柵が見えたぞ」
「いよいよか」
最後に言葉を交わし、いよいよ現地人の村へと到着する。
木の上から見た通り円形にぐるっと立てられた木の柵が見えてくると、一部分が開閉式になっており扉になっていた。
柵の少し後ろの建物には人が二人ほど見える。恐らくこちら見張っているのだろう。
ざっと見て得られるものはこれぐらいで、後は会話を試みるしかない。
そう思い、オレが声を出そうとした瞬間、少し高いところに居る見張り役に用件を聞かれた。
「お前たちは何者だ!」
マサキはビクッとして振り返ってオレを見る。
それに対してオレは一つ頷き、代表して答えることをマサキに示す。
「森に入って迷ってしまったのだ! 道を尋ねたく歩いていたところこの場所を発見した!」
「そうか! わかった! だがお前たちが担いでいるものは何だ!」
「これは肉だ! 道を教えて頂ければ礼に渡そう!」
「よし! 今、門を開ける! 少し待っておけ!」
「感謝する!」
大声での会話を行い、自分たちの身の潔白と無害であることを主張する。
見張りの男は、オレたちを合格と
そのため、礼を伝えてその場で待ち、その間にマサキへと気を引き締めるように呟いた。
「こっからだ。別行動になれば自分の判断で動けよ」
「分かってる。動く時は互いに合図を出そう」
「ああ」
そこで丁度木の扉が開き、中から二人の男がやってくる。
両方とも黒髪で少し焼けた肌をしており、上に何も身につけてないため隆起した筋肉が姿を見せている。
地球で言えば、黒人のように身体能力が高い民族なのかもしれない。
しかし、少し先に見える女は凛としていて身体を動かすようには見えなかった。
男女で何か違うのかもしれない。
オレは一瞬でそう結論を出し、目の前の男たちに意識を移した。
「森に迷ったと聞いた。目的地さえ言えば教えることができる。ただ、村のしきたりでまずは村長に会ってもらわなければならない。ついて来てくれ」
「わかった」
「よろしく」
一人の男が代表して口を開き、残りは後ろでオレたちを値踏みするような視線を向けて来た。
オレとマサキはそれを意に返さず返答し、男たちの背中を追って行く。
道行く中、辺りを見回しどんな村なのかを探る。
すると、そこまで人数がいないことが判明した。
建物は十棟あるかないか。人は大人が二十余名。子どもが三十を越えるほど。
想像していたよりも少なく気が少し楽になった。
村人たちの視線からは、オレたち自身に関して何も無いように感じる。
ただ、何やら猪に対して良くない反応が見えた。
会ってすぐ、代表で喋る男の後ろでこちらを見ていた一人が、猪へと視線を向けて目の色を変えていたのも関連するのだろう。
その瞬間をオレは逃すことなく見ており、マサキもそれに気づき猪を持ち上げる瞬間に一瞬振りむいて、
「猪がヤバそうだ」
と、一言告げてすぐに前を向いていた。
マサキも理解しているのなら問題ない。
村の人間は、他所者が知らずに猪を狩ったため、どう対処すればいいかわかっていないのかもしれない。
もしくは、対処法は決まっており、既にその策略の中にオレたちがいるのかもしれない。
可能性的には後者。
ここへ来る前に考えていた歓迎するが暗殺される。その線が濃厚になって来ている。
さっきのことでマサキもそれは理解しているはずだ。
ある程度村の様子が分かると、オレは正面を向いて案内する男たちに気を張った。
しかし、目的地に着くまで何も起こることなく、普通に村長宅へと招かれた。
「ここが村長宅だ。今許可を取りに行っている」
「そうか」
会話はそこで終わり、沈黙が続くとそこへ家の中へ入って行った男が戻って来た。
「入ってくるように、だそうです」
「分かった。二人とも入ってくれ」
「はいよ」
「邪魔する」
マサキと共に返事をして猪を下すと村長宅へ進入する。
建物の作りはそこまで良いものではなく、ちょっとした小屋に近い。
他に建っていたものよりか面積は広いが、そこまで変わったところはない。
そんなことを思いながら、オレはマサキの後ろをついて行き、前が足を止めるとそれに倣い足を止めた。
すると、マサキの奥に胡座をかいてこちらを見る老人が一人、そこには居た。
「お前さんらが尋ねて来たもんか」
「はい」
「そうかそうか」
その老人へと返事をして様子を伺う。
老人の雰囲気は良いものでは無い。
放たれる言葉には疑念が混じり、信用されていないのが分かる。
このままであれば計画通りにできるが、どうなるか……。
「して、聞いたところによると、道を教えれば肉をくれると言ったそうじゃな」
「はい。猪の肉ですが、良ければ」
「ほぉぉ、それはそれは有難いことよな」
「喜んでいただけて何よりです」
「うむ」
猪と言った瞬間に老人の目が薄く鋭くなったことにオレたちは気づいたが、それは表に出さず対応する。
オレは念のため、すぐに案内できないか尋ねた。
「日がまだ高いので、すぐに案内をしてもらうことは可能ですか?」
「そうじゃなぁ……」
そこで老人は考え込む。
オレたちがすぐに出て行くという提案はそこまで悪いものでも無いはず。
ただ、他の村の間者であれば別。
それに、往復する時には暗くなっている可能性もある。そうなれば村人が夜の森で迷うかもしれない。
考えられることはいくつかあるが、老人はどう答えるのだろうか。
オレはそう考え答えを待った。
「うむ。今すぐには無理じゃな。明日の早朝に案内させよう」
「そうですか。では、どこか寝泊まりできるところはありませんか?」
「それは問題ない。連れて差し上げろ」
「はい」
案内して来た男に老人はオレたちの寝泊まりする場所に連れて行くよう告げた。
男はそれに返事をして出て行く素振りをした。
オレとマサキはそれを見て、立ち上がる。
「一日世話になります」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ではまた」
老人は再会を約束するかのように言葉を交わし、オレたちはその場を去った。
「ここを使ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
村長宅から出るとすぐに男に案内され、オレたちは一つの建物に到着した。
そこは村人が住むものと何ら変わらない建物になっており、待遇が良いことがわかった。
そのため、オレとマサキは礼を伝えその男がその場を去るのを待った。
それから、帰って行くのを見届け建物内へ入った。
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