第3話 暗躍する者たち
木々が生い茂る場所を探索し、大きな葉や蔦、条件を満たした木を調達したオレは、マサキがいる元へと帰還した。
「持って来たぞ」
「おう、サンキュ」
「内臓を処理してくれるか」
「ははっ、いいぜ。既に汚れてるからな」
「助かる」
解体作業で内臓を取り除いていたマサキは、オレが汚れることを躊躇っていることを理解して、要望を了承してくれた。
まあ、文句があるならその前の解体の時に言っているか。
マサキに感謝しつつ、猪の足を丈夫な木に括り付けていく。
よく漫画とかで見る豚の丸焼きのあの感じ。
木を両足で挟み、足首の部分を蔦で括って落ちないようにする。それを前後の足に施し、マサキの作業が終わるのを待った。
「待たせたな」
「内臓の包みは猪の空いた腹に入れてくれ」
「これでいいか?」
「ああ。後はこの木を二人で担いで移動するだけだ」
「おーけー。でもよ、どこに行くよ」
マサキに移動の仕方を伝える。
しかし、肝心の行き先を決めておらず、移動準備を終えたオレたちは近くに人がいる場所を探し始めた。
「ヒロトは木に登って見つけてくれ」
「ああ。マサキも人を見つけてもすぐに声をかけるなよ。襲われるかもしれないからな」
「了解。じゃ、また後でね」
マサキはそう言って歩いて何処かへと向かった。
それを見送り、オレはとりあえず近場の木に登り頂から更に高い木を探した。
木をスイスイと登り進め最終地点まで到達する。枝の間から顔を出して周囲に目を向けると、空は青く広がり、緑色の景色がかなり遠くまで続いていた。
「マジか。端までかなりの―――アレは……」
見渡していると、緑色で埋め尽くされた中に幾つかの円形にくり抜かれた土地を見つけた。
薄らとだが、木の柵のようなもので境を作り、中の方に何かしらの建物と動く物体が見える。
「人、か……?」
完全には見えていないため、断言することができず木を降りるとマサキを待っていた。
「ただいま〜」
「早かったな」
「丁度狩りを終えた二人組を発見してな。木に隠れて聞き耳立ててたら結構情報がわかってな」
「なるほど。報告頼む」
オレはマサキの話を聞いて情報の共有を行うよう告げた。
マサキはそれに頷くことで同意し、すぐに現地人から得た情報を話し出した。
「まず、言語は普通に聞き取れた」
「次」
言語について話すことはないため即次の情報へ促す。
それに従いマサキは何も言わずに別の情報を話し出した。
「どうやらこの森に幾つかの拠点みたいなのがあって、それら全部同じ部族の村みたいだ」
「ああ、それなら木の上から見た。五、六個村のようなものが間を空けて存在してた」
「そうか。でもここから一番近い村は第一の村の可能性が高い」
「一番にできた。ということか?」
「そうだ」
村が存在することは必要な情報だが、何番目にできたとかは正直要らない。ただ、どうでもいいものを伝えるだろうか。
オレはそう考え、マサキにそれが重要なのか返答した。
「それが何かあるのか? 部族は別れて暮らしてるから敵視する奴らが居るとか」
「その通りなんだ。どうやら第一の村は、他の村へああしろこうしろと言っていたみたいでな。二人組は若そうだったし、話からその世代はどの村も仲が良さそうだ。上の連中の愚痴の話をしてたんじゃないかな」
「なるほどな」
マサキの報告を聞いて少し緊張感が出て来た。
このまま歓迎されて様々なことを教えて貰おうと思ったが、今は行かない方が身のためかもしれない。
しかし、このまま数日暮らしていたところで見つかってしまう。
そう考えて、オレはマサキに提案をした。
「マサキ」
「なんだ?」
「お前は表で生きたいか?」
その問いにマサキは一瞬目を見開くが、すぐに戻って普通に答えた。
「どっちでもいいぞ。目的は信頼できる友人を持つことだ。まあ、結構それは達成されつつあるがな」
「ふっ。確かにそんな感じがする。オレ自身も同じようなことを悩んだ時もあったが、自然体で接していればそうなっていくものかもしれない」
マサキと共にダイブして数時間。
早くもその目的が達成されつつあり、お互いがそれを感じて空気が和む。
後は現実へ戻るか、このまま続けるか。
答えは続ける一択。
それはオレだけではなくマサキも同じようだ。
それを感じ取ったオレは、今後の活動についてマサキに提案する。
「現状から考えると、村に行っても暗殺されかねない。堂々と敵対してくる程馬鹿でもないだろうからな」
「そうだな。でも、どうするよ」
「そこでさっきの問いに戻るわけさ。オレたちは裏で生きる。どうだ?」
「問題ない」
力強く同意するマサキを見て、オレは話を次へと移す。
「まずは近くにある村へ猪を持って向かう」
「第一の村にか」
「そうだ。そこで始めは恐らく歓迎される」
「そうだな。二人組の装備を見てもそこまで裕福ではない感じだ」
「ああ。肉をこれだけ持っていけば英雄扱いもあり得る。だけど、他の村からの間者だとも思われるかもしれない」
「なるほど」
オレの話にマサキが相槌を打ち、それを受けて思考したことを改善しながら口に出していく。
自分では思いつかない疑問や情報によって、初めに思いついたものより精度の高いものになっていく。
それを感じながらオレは続けた。
「ただ、今考えてることが全て空振りになるかもしれない。まあ、その方が楽でいいけどな」
「確かにそうだが、でも、空振りじゃなかったら?」
「その時は殺す。その村で一番強そうな奴を」
「なるほど」
「最小限で最大限の成果を得る。殺すのは一人でいい」
「確かに。それが出来れば村人は皆怯む」
人間の心理を利用して進めることをマサキは了承する。
現実世界ではあり得ない事でも了承できる。
これが仮想世界での一つの醍醐味。いや、倫理観の欠如と言った方がいいか。
これはこの世界で死んでも本当は生きていると分かっているから考える事だと思う。
それに、裏の世界で生きると二人で決めたのだ。これぐらいで怯んでいては進むことができない。
マサキもそれを理解している。
少しの間を空けて、オレは計画を再び話し始める。
「村人を従わせることができたなら、様々な情報を吐かせる」
「貨幣とかか?」
「ああ、そうだ。村人が本当のことを話せばそれで見逃す。ただ、違和感を感じればすぐに命を奪う」
「まあ、そうなるよな。てか、お前似合いすぎだぜ?」
これまで普通に話して来たが、殆ど変わらないオレに対してマサキが尋ねて来た。
自然過ぎて引っ掛かったのだろうか。
オレはそんな風に思うと、今まで現実で感じていたこと、考えていたことを言葉にした。
「当然だ。元々そういう欲求があったんだ。ただ、現実ではそれをやればデメリットがデカいし、見えない何かで止められてる感じがしていてやっていないだけだ」
「なるほどねぇ。ま、分からんでもない。俺だって学生時代クラスメイトと喧嘩になってボコボコに殴ってみたかったしな」
マサキもオレ同様のことを感じていたようだ。
どちらも、はい、いいですよ。とは言われないものであるため共感はできる。
ダメと言われることをしたいというのは、誰しも思う自然なこと。
ちょっとした親近感をマサキに抱きつつ、オレは話を元に戻す。
「そうか。それじゃあ最後に一つだけ。村人が従わなければ、問答無用で皆殺しにする。その覚悟をしておいてくれ」
「ああ、死にたくはないからな。魔法も使わずになんてごめんだ」
最後の警告をマサキはすんなり受け入れ、この世界でまだ触れてない魔法について口にした。
マサキ同様、オレも魔法を使いたい。いきなり来て死ぬのはごめんだ。
出来れば村人から魔法についても聞き出したい。
無理なら別の村へ行けばいいため、そこまで気にする必要は無さそうだが、早く知れるのならそれに越したことはない。
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