第5話 神殺しの祭り
ヒロトとマサキが村長宅を出た直後、村長は近くの若い男衆に声を掛け、村人の代表たちを集めた。
「代表たちを呼んできてくれ」
「全員ですか?」
「うむ」
「わかりました」
男たちは村長の頼みを引き受け直ちに散り散りになり、代表たちのもとへと急いだ。
川で漁や水引作業をしている者、農地で作物を育てている者、木を伐採して村の建築や防災を任されている者と、それぞれが別の作業をしている。
その後、若い男衆が駆けつけ、代表たちは話を聞き血相を変えて村へと戻る。
この村では、三家族が一つの集団となり、その中で代表を一人決めている。
そして、その代表たちでもグループが作られ、限られた数人だけが村長と会議している。
これを月に一度行い、村の維持、発展に繋げている。
しかし、今回は異例な事態。それも、代表全員の召集。
毎月決まった日付に行われるため、召集された代表たちも緊急であることを理解し、いつも呼ばれない者たちも呼ばれ一大事であることを皆が認識する。
召集された数十人の代表たちが、迅速に村長宅へと向かった。
そのうちの一人、近くにいた者が、速くも村長宅へと到着した。
「何事ですかっ?」
「中で話す。皆集まったら入って来なさい」
「分かりました」
一人の男が飛んで来たが、村長は落ち着き払いそれに対応する。そのため、その男もすぐに落ち着きを取り戻し、他の代表が来るのを待った。
それから数分。
息を切らして村長宅へ近づく者たちが数人現れる。
「村長はっ、どこに居られる……」
「家の中にいらっしゃいます」
「何か、話されたか?」
「全員が集まり次第入ってくるようにと……」
「そうか……」
最初に到着した男が、到着した数人の代表へ伝言を伝える。
そこでまだ猶予があることを理解し、今到着した者たちは呼吸を整え他の者たちが来るのを待つ。
その後数十分、全ての代表たちが集まり、村長宅へと続々と進入していった。
「うむ。全員居るようじゃな」
村長である老人が集まった代表たちの顔を見て言葉を溢す。
代表たちは返事をせず、次の言葉を静かに待った。
「今日、皆を集めたのは緊急事態にあるからじゃ」
「……っ‼︎」
代表たちは皆息を呑む。
ただ、その中で一人の男がその内容を尋ねる。
「それは、どのようなことでしょうか……」
「二人の青年を泊めることとなった」
村長の言葉に代表たちは何も答えず、そのまま次の言葉を待った。
それが何か? という疑問や、青年を泊めることが何に関係するのか? という言葉は皆抑えた。
村長は静かに自分を見る代表たちを見回し、息を吸い次の言葉を発した。
「その二人の青年は、我らが神である
「なっ……‼︎」
「そんなことがっ……⁉︎」
「すぐにでも命を刈らねば」
村長の言葉に我を忘れるものが数人現れる。
ただ、その理由は分かりきっていた。
大猪様は、ダイブしてすぐにヒロトが狩った大きな猪の獣。だが、村長の言葉通り、それはこの村では神として崇められている。
理由は幾つかあるが、一番は村を襲わないこと。次に他種の獣たちを追い払うことだ。
小さい頃からそれを教えられ、実物も見たことがある代表たちは、片膝立ちで今にでも飛び出して行きそうな勢いがあった。
ただ、それを村長は見越しており、すぐにその数人を
「まあ、待ちなさい。まだ彼らは緊張が解けていない。こちらにも被害が出る恐れがある」
「……そうですか」
「ふぅぅ……申し訳ない」
「尚早であったか」
「儂に考えがある。よく聞きなさい」
村長はそこで代表たちの意識を自分に向けさせる。
大事なことをすぐに話すのではなく、引き付けて間をとる。長年村長をやって来て身につけた技である。
代表たちはそんなことを知らず、村長へと意識を向けた。
「彼らには明日、道案内する手筈になっておる。じゃから猶予は今日の深夜。これから急遽祭りを開き遅くまで騒いでも不思議で無い環境を作る」
代表たちは村長の話に聞き入る。
「彼らにも誘いを出すが、二人を見た感じ断る可能性が高い。じゃから我ら以外には普通に祭りを楽しんでもらい、いつもなら眠りにつく時間の前にお主たちはまた集合じゃ」
村長の話がそこで一旦終わると、それを聞いていた代表の男が質問する。
「深夜に侵入して暗殺、ということですか?」
「うむ。一の矢二の矢と準備する必要がある。念には念を入れてな」
それから話は暗殺計画へと進み、村長と代表たちは計画を詰めていく。
二、三人ほどで家屋へ侵入し、暗殺を実行する。
それが成功すればその後は無し。
しかし、それが失敗すれば、外に待機する四人が足止め兼殺害を実行。
それでもダメなら、数人の代表と村長が村人を率いて他の村へ逃亡。
という流れであることを全員が共有する。
各々使命が言い渡され、緊張する者や高揚する者など、代表たちは様々な様相を示す。
村長はそれに不穏な気配を感じながら、全ての計画を実行できる準備を始めた。
話し合いは終わり、代表たちは各々の仕事場に戻り作業を切り上げるように伝え、祭りの準備にあたっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます