第6話 魔法の謎と祭りの影




 オレとマサキは建物に入り、そこにあった椅子に座り、今後について話し始める。


「計画通りに進んでいるな」

「そうだな。この後はどうする」

「出来るだけ関わりは持たない。森で道に迷っていたことにしているから、早めに寝て体力回復に努めるフリをする」

「まあ、妥当だな」


 オレの意見にマサキも同意し、その流れで進めることに了承した。


「ただ魔法がどうなのか、だな」

「確かになぁ……どうにかして俺たちも使えねーかな?」

「現実世界と変わらない感覚だし、何かしらトリガーがあるか、男は使えない。とかな」

「ああ〜、それはあるかもな〜。けどよ、そんな世界おかしいよな」

「確かにな」


 オレの意見を聞いて、マサキは違和感を覚えそれを口にした。

 それにオレも同意し、マサキの次の言葉を待った。


「魔法って万能のイメージだから、女だけが使えるなら正直村長も女の筈だし、もっと男が萎縮して女が大胆になっていてもおかしくないよな」

「そうだな。昔あったみたいだが女子だけが生徒の女子校は酷いといった話も聞いた覚えがある。いや、男化するの方があってるかもな」

「そうか〜? 俺はそれよりも酷いって聞いたぜ?」

「真偽は分からんが、この村はそういった感じがなかったんだ。魔法は恐らく男女共に使えるはずだ。この村の男は使う必要性が無く感覚を失っているのかもしれない」

「そっちの方が信憑性があるな」


 オレたちは聞き齧った知識を混ぜながら魔法について話していった。

 これを聞いた女たちがどんな反応をするかは考えたくないが、村の様子から殆ど当たっていると思う。


「まずは魔力を感じること。感知することが必要かもしれない」

「そうだな。漫画や小説とかでもそんな感じだった。俺たちの中にあるものが無意識的に作用してることも考えられるしな」

「なるほど。その線は重要な事かもしれない」


 マサキの発言を聞き、自分が考えつかなかったことだったため素直に感心した。

 自分が経験したことや思考したこと、知識などの蓄積が無意識にこの世界に反映されている。そう考えることもできる訳だ。

 そうと分かれば、小さなことでも試してみる価値がある。


「ステータス」


 オレは実験のつもりで文言をつぶやいた。

 その突然の呟きにマサキはオレに目を向ける。

 二人で静かに待っていると、オレの視界に薄いホログラムの画面が浮かび上がった。

 ゲームに出てくるステータスウィンドウ。

 それが目の前に現れ、オレはそれをマサキに伝えた。


「ステータスウィンドウが出たぞ」

「マジかっ⁉︎ 俺もやろ。ステータス」


 マサキはすぐに同じように試し、目の前に現れたのかそこを注視していた。

 そのため、オレは画面を見ながら情報の共有を行うためにどんな項目があるのか言葉にしていった。


「名前、年齢、性別、種族、レベル、基本能力値、魔法、スキル……そっちはどうだ?」

「ああ、俺の方も変わりない。レベルと基本能力の表示のされ方が思ってたのと違うぐらいだ」

「それはこっちも同じだ。全部S分の○○まるまるとなっている。レベルだけ現在のランク、数値がわかるようになっているな」

「確かに。F1になってる。そっちは?」

「E1だ」


 そこで二人の違いが判明する。

 考えられるのは、スタートがそもそも違うということ。後は、猪を討伐したことでオレの経験値が大幅に上昇した。


 始めの基本能力が違うことは理解できるが、初期レベルまで違えば世界はおかしなことになりかねない。

 よって答えは後者になる。

 それをオレが告げる前にマサキが先に口を開いた。


「経験値の差だな。さっきの猪の時、俺は一撃でヒロトは二撃。それもラストアタックってやつだ。検証して明確にした方が後々活きてきそうだな」

「ラストアタックか。それは思いつかなかったな。そう考えると、ラストアタックは倍以上の経験値が入る感じかもしれないな」

「そうっぽい。ただまあ、今は武器をどれだけ増やせるか、だな」

「そうだな」


 マサキの言葉に昂っていた心が落ち着いて行く。

 そうだ。今はいつ戦闘が起きてもおかしくないんだ。

 剣は扱える。レベルも上がった。でも、それだけだ。


 出来れば魔法も使いたいところだが、すぐには難しそうだ。

 オレは冷静になってすぐに思考を巡らせた。

 その結果、すぐには無理でも戦闘中に何かしら起きることに賭け、魔力を感知する為に瞑想すると決めた。


「今から何か起きるまで瞑想する。マサキはどうする?」

「なるほど、魔力感知か。そうだなぁ……すぐ対応できるよう俺は外に意識を向けとくよ」

「分かった。何かあればすぐに声を掛けてくれ」

「了解」


 そこからオレは、自分の体に何かないか妄想やイメージしながら集中していった。

 目を瞑っているため正確性は欠けるが、偶にマサキが水を飲んでいるためその音が聞こえる。風の吹く音も、子どもの話し声も、だんだんと騒がしくなってくる村の雰囲気も感じる。


 しかし、魔力は全く感じない。

 脈に指を置いてみるが、ドクドクと血液が一定に送られているのが分かるだけ。その他に何かが体を流れている感じがしない。

 オレはそこで考え方が間違っていると感じ、魔力や魔法について整理し始めた。


「(無意識的に漫画や小説のような設定が反映されている。この村の男は魔法を使う感じがない。必要性がないから。女だけが使っている。でも女中心の社会ではない。男には感覚が無く、女には感覚がある。産まれた時点で差があるというのはおかしい。であれば、産まれた後に道が分岐する。そうか!)」


 オレはそこで魔力の感知方法を思いつき、瞑想を止めた。

 すると、それと同時に玄関の扉にノックがされた。

 コンコンッ―――と、軽い音が鳴り返事を待つような間があった。


 一回目は反応に二人とも遅れ、ノックはもう一度行われた。

 次のノックの時には、マサキが返事をしてどんな用件か尋ねた。


「はい。何でしょうか」

「いらっしゃってよかったです。今日は急に祭りが開催らしくて宴があるんですよ。良かったら参加してください」


 如何にも怪しい誘いにマサキはこちらに目を向けて来た。

 訪ねてきたのは恐らく何も知らないただの村人。

 用件を話した言葉からそう感じた。


 何のための祭りか理解していない。そこが問題だった。

 急に祭りとなってもその理由は知っているはず。だが、それを知らないとなると始まってから伝えるパターン。それと、そもそも誘うつもりのない念のためのポーズをしている可能性が高い。


 マサキもそれを理解したのか、眉間に皺を寄せて疑っている顔をしている。

 オレはそれを見てマサキに向けて頷いた。


「お誘いありがとうございます。もう少し休んで良くなれば参加させて頂きます」

「そうですか。ゆっくりお休みになられてください。では、失礼します」


 扉越しにマサキと村人が話し、暗に断る形で終わった。

 足音が遠ざかっていくのを耳で確認して、音が無くなったところでマサキが口を開いた。


「明らかに怪しい。分かりやすすぎて混乱するパターンだ」

「確かに杜撰な行動だな。誘うなら村長か案内した男だ。初絡みの村人を寄越すところが分かりやすい」

「あっちは俺たちが思っているように動くってことであってる?」

「ああ。流石にこの行動を策に入れる程頭も良くないだろう」

「言うねぇ」


 オレは断定してマサキに告げる。

 それは直に村長にあったことが効いている。

 あれぐらいの人物が長であれば、その下につく者たちもそこまで優秀な者たちではない。


 開花してないだけで能力的には上がいるかもしれないが、ここは村だ。

 閉鎖的な社会で突出した者は潰される。

 それが小さな社会の理だ。


「とにかく、襲撃があるまでこのまま寝たフリをしよう」

「そうだな。地面に藁のベッドじゃそもそも寝ることはできないけどな」


 マサキはこれまでに経験している寝具と比べてそれを評価した。

 言いたいことは分かるが、村と最先端のものでは比べようもない。

 オレはそう思ったが口には出さず、もう一つのベッドに向かって横になった。

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