第7話 忍び寄る影
仮眠と覚醒を繰り返し、出来るだけ万全の状態にし、その時を待った。
マサキも同様に短い睡眠を繰り返し行い、襲撃に備えていた。
薄い木を吊るすことで日を遮る窓へと近づき、その木の板を押して外の様子を窺う。
日は沈み、どうやら祭りもメインの時間は過ぎたようで、遠目から見てもはしゃいでいる様子はなく、座って何か話し合っている。
オレはそこで木の板から手を離し、ベッドの上に戻る。
「時間はどんなだ?」
「どうだろうな。見た感じ、祭りは終盤だ」
目を覚ましたマサキの問いに素直に答える。
情報が少ない中ではマシな報告だと思うが、いつ襲ってくるかは分かってない。
それが分かればもっと楽に対処できるが、そんなこと言っていても仕方ない。
オレはそう自問自答して、装備の確認を始めた。
「お、もう準備を始めるのか」
「ああ。もう休息は十分に取った。後は実行するだけだ」
「そうだな。ただ、一ついいか?」
マサキが突然改まって聞いてくる。
オレは準備を進める手を止めて、マサキへと視線を向ける。
「何だ?」
「あぁ、えっとな。襲って来た奴、襲ってくる奴らだけ殺すって方向に変えることはできねぇか?」
「何だ、そんなことか。別に問題ない」
「そうか。良かったよ」
マサキは子どもを殺すことに躊躇いがあるのか、計画の変更を申し出た。
オレ自身も進んでやりたいわけではなかったため、そこは素直に了承した。
しかし、男たちより女たちの方が正直警戒しないといけない。
得られた情報では、女たちだけが魔法を使う。
それをどう対処するかでこの戦闘の勝敗が決まる。
オレは改めて情報を整理してマサキへと告げる。
「最終確認だ」
「おう」
「今回は襲撃してくる奴らを全員殺す。意思なき者には手を出さない。戦闘が終わった後は残った村人を集めて情報を吐かせる。いいか?」
「ああ、問題ない」
「ならば最後に一つ」
オレはそこで魔力を感知する方法をマサキへと伝える。
「一度魔法に当たれ」
「?」
唐突なことにマサキは不思議な顔をする。
言っていることが理解できていない。そんな顔だ。
そのため、オレは説明を加える。
「昼間考えたが、知らないものを感じることはできない。という結論に辿り着いた。だから、一発何でもいいから魔法に当たれば、魔力を感じることができる」
「なるほど。それは思いつかなかったな」
「正直、魔法は万能なエネルギーというオレたちの理解に賭けるしかない。魔法を受けた後はイメージしてどうにかするしかない」
「ははっ。いいねぇ、それ」
マサキは気分を徐々に昂らせているようで、口が通常より悪くなっている。ただこれは仕方ないだろう。
何せオレたちは善人で生きていくわけではない。
この世界の住人には申し訳ないが、信じれるのは自分たちだけ。だから、襲ってくる奴は問答無用だ。
「ヒロト、来るぞ」
マサキの言葉に意識を外に向ける。
すると、コンコンッ―――と、玄関の扉がノックされた。
「起きてますかー? て、起きてないよなこんな時間に」
「ノックする必要はなかっただろ。さっさとやるぞ」
「せめて静かにはしなよ」
思い思いに口を開き、村人が扉を開ける。
人数は三人。ただ、それが全部でないことは何となくだが理解した。
実行が三人。カバーはその倍と考えておこう。
入り口にはマサキが近い。が、マサキが動く気配が無い。もしかすると、このまま寝たフリをして相手が命をとりに来た時、カウンターで返すつもりなのかもしれない。
そうであるならば、オレもそれに続くしかない。
「おおっと、熟睡だぜ」
「これから死ぬとは知らない方がいい。やるぞ」
「了解」
「「せーのっ」」
その瞬間、オレとマサキは藁に隠した片手剣を握り、振りかぶる男に向かって横に一振りして立ち上がった。
二人の男は目を見開いたまま首を三分の一ほど切られ、出血が多すぎて動かなくなる。
ただ、もう一人その場に居る。
オレは一瞬マサキより速かったため、すぐにもう一人の男へと突撃した。
男は一瞬の出来事に声を出すことを忘れており、オレが動いてもまだ棒立ちであった。
オレはその瞬間を逃すことなく一振りし、その男が倒れるのを眺めた。
「侵入者三人排除、と」
「カバーがいるはずだ。気を抜くなよ」
「わかってるよ。外に出るぞ」
「ああ」
マサキが扉を開き建物を出る。
それに続きオレも外に出るが、そこは祭りがあったとは思えないほど静かで、人は居らず重たい空気が漂っている感じがした。
祭りを誘いに来た時には知らなかったが、時間が経つにつれて村人たちも何かを感じ取ったのかもしれない。
それに、旦那が家に戻らないということも怪しいと感じているはずだ。
近くにいるはずの第二陣と、建物内からこちらを覗く者たちを警戒しなくてはならない。
オレはそう考え、周囲に気を張りすぐ対処できるように備える。
「……ちっ」
何処からか舌打ちが聞こえ、オレはそれを耳を頼りに探る。
マサキも同じように静止して相手の動きを待っていた。
しんとした空気の中、複数の影が動き、土を踏む音が微かに響く。
オレとマサキはそれを逃さずキャッチして、現れるであろう場所に体を向け、剣を握る。
「なにっ……⁉︎」
「フンッ」
目の前に現れた村人の左手首に一撃浴びせ、その遠心力のまま回転して首を撫でる。
骨を断つことはできなかったが、大量の血がボトボトと溢れその村人は何も言うことなく地面に突っ伏した。
オレは一人を倒し終えるとすぐに次へと向かった。
「シッ」
敵の目の前に到達すると、目の前の村人は目を見開き驚いた表情をしている。
居場所がバレたことと、先に向かった仲間がやられた事に驚いているのだろう。
まあ、次の瞬間には何も感じないだろうが。
目の前の人間に内心でそう告げると、オレは剣を構え地を強く蹴った―――はずだった。
「……⁉︎ 何が起き、くっ……」
オレは目の前にいたはずの男が居なくなり、状況が分からなくなる。
何が起きている。何処に行った。と、口にしようとした瞬間。左半身から熱さを感じ目を向けた。
すると、そこには無数の斬りつけられた跡があり、血が滲んでいた。
オレはそれに気づくと、痛みを知覚し更なる熱さと焦りに襲われた。
「助かったよ」
「いいや、いい。コイツはあたしの旦那を殺したんだ」
痛みを我慢しながら辺りを観察すると、さっきまでオレが居たと思われる場所に一人の女が立っていた。
その隣には、殺す手前だった男も一緒に居た。
そこでオレは魔法を受けたことに気づいた。
女が掌をこちらに向けて立っている。
装備を何もつけてないことから魔法以外考えられない。
オレは目的を達し、魔力が何かを探り始める。
ただ、それと同時にマサキの行方も目で追って探す。
「あたしらを舐めるんじゃないよ! こんな時の為の力っ、見せてやるよ!」
女が息巻いてオレに告げる。
しかし、この時点でオレは魔力を感知し、それが何か認識した。
どうやらマサキも魔法を受けたらしく、魔力感知に成功していた。
魔力を感知できるようになったことで、少し離れていても何となくだがそこに居ることが分かる。そんな感覚を得た。
マサキは今にでも反撃するような、そんな感じだ。
そのためオレはマサキを心配することをやめ、目の前の男女に意識を向ける。
「立ちなさい! 人殺しめ‼︎」
「二対一では自由に動けまい」
女は一度当てたことに強気になっており、男はさっきの一瞬を忘れているようだ。
数的不利だろうが問題ない。
むしろさっきよりオレは強い。そう断言できる。
オレは掴んだ感覚を忘れないようすぐに実践に使用する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます