第一章
第1話 冒険と友情、新たな世界へ
清々しい気持ちでオープンワールドを散策していたオレは、目の前の男を見つけて声をかけた。いや……かけてしまった。
落ち込んで悩む様子を見て、何気なく声をかけてしまった。正直、悩むことなど殆どない世界と言われる時代に、あからさまな態度をとっていれば目立つというもの。
それを見つけて、同情心がオレを動かしたのかもしれない。
ただ、面白そうという欲もオレの中にはあったので、その男の行動や同情心を否定する気はなかった。
目の前の男は茶髪で焦茶色の目。髪は少し長めで、目がほとんど隠れている。誰も話しかけなかったのはその見た目からも窺える。
ありきたりなアドバイスをして別れるより、少し付き合ってやった方が男の為であり、オレの楽しみになりそうだ。
さっきこの男が告げた「一緒に冒険してくれ」という頼みには少し興味も湧いている。
これまで一人で世界を旅して来たため、好奇心も奮い立ってくる。
オレはそう心を踊らせながら、目の前の男に詳細な説明を求めた。
「何故冒険だ?」
「いや、えっと……恥かしながら完全に信頼できる友人を持ったことがなくてな」
男は恥ずかしそうに、赤裸々に悩みを打ち明けた。
友達ができないとか、そんなヘタレ野郎だと思っていたオレは、男に申し訳なさを感じつつ、その悩みを理解した。むしろ、他人事では無かった。
オレ自身も、そんな友人を持っていない。
会って笑い話やふざけることはできるが、内面の芯には近づけさせない。そこには何枚もの障壁が存在し、家族含めオレの中にある核を知らない。
また、一人の時にそれは顔を出すため、一生人前では出さない。そう思っている。
最近は一人で創造した世界にダイブする為、その世界ではかなり自分が出ていると感じている。
目の前の男もそんな感じなのだろう。
オレはそう結論付けると、まず障害になり得る問題を尋ねた。
「歳はいくつだ?」
「二十三」
「オレは十五だ」
「えぇっ……⁈」
目を見開きオーバーな反応。
見た目で判断できなくなっている現代では、こういったことが当たり前に起こる。
同年代と思っている人物が年下、あるいはその逆であることもザラだ。
仮想世界へダイブする為に、人工冬眠技術が必要になった。それは細胞分裂を遅くし、人間の寿命を圧倒的に伸ばした。
オレの世代は小二、小三からそれを日常的に行っているため、精神的には成熟しても体が追いついてない場合があるのだ。
大人顔負けの冷静さと落ち着きが、この男を驚かせたのだろう。ただ、この男はオレより年齢が高いにも関わらず、あまりにも精神年齢が低く感じる。
小さい頃にあまり仮想世界にダイブしなかったのかもしれない。
一概には言えないが、この男の両親の最新技術を嫌っていたのかもしれない。そのため、仮想世界の経験数が少なかったのだろう。
それとは逆に、オレはダイブし過ぎたのかもしれない。
体が十五歳相応であるか正直不明だ。
成人年齢が引き上げられることは今のところないが、今後は精通してから何年、生理が来てから何年とかで決まってくるかもしれない。
ファンタジー世界のエルフのような、そんな感覚に近いかもしれない。
「それで、冒険するの?」
「す、するさっ」
「そうか。なら、連絡先を教えてくれ」
「ああ、よろしくな」
同じ世界にダイブするとなると、一回オープンワールドから戻らなければならない。
これは現実世界にというわけではなく、仮想世界へダイブする一歩手前の待機空間という場所に、ということだ。
男からの連絡先が届くと、通話状態を保ち待機空間へ移動した。
「どんな世界にダイブするんだ?」
「冒険と言えば剣と魔法の世界。だろ?」
「そうか。一回世界設定してくれ。終わったら確認する」
「わかった」
オレはあくまで付き添い的な立場である為、ダイブする仮想世界の設定を男に任せた。
この設定には多くの項目があり、結構面倒なのだ。
一人でダイブしたい時は仕方ないが、複数人でとなると他人に任せたい。
今回は剣と魔法の世界ということで、オレ一人ならば誕生から始めたいところだが、二人いる為何処かの村近くからとかの方がいい。
初期装備は、安い片手剣、硬いパンに水、皮の防具に小さなバックぐらいがいいだろう。
ダイブ前に世界の詳細は確認せず、ダイブ後に手探りで探っていくのも面白い。
だいたいそんな感じだろうな……。
設定が終われば、名前を言い合ってダイブするとしよう。
「終わったぞ。確認してくれ」
「……向こうでのアシストは無し、少しの金を持たせるぐらいだな。変更頼む」
「了解」
男に変更内容を伝える。
どうやらこの男も、オレ同様に大まかな設定しかせずに中で楽しみたいタイプのようだ。
その為、オレは抜けている部分を伝えて、その世界が楽しめるように変更を求めた。
男はそれに異論なく従い変更を終えた。
「オレの名前はヒロト。よろしく」
「ああ、名前まだだったな。俺はマサキ。じゃあ、ダイブするか」
「ああ」
そうして、オレとマサキは同じ仮想世界へとダイブした。
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