仮想の彼方〜剣と魔法で友情を〜1
アライキアラ
『剣と魔法で友情を』編①
始まり
プロローグ
世界は一つではなくなった。これは、公然の事実。
完全没入型仮想現実が完成した。
これにより人々は各自で世界を構築し、その世界へダイブすることで、様々な体験に触れることが出来るようになった。
この技術を使って時間を超越し、世界や次元を越えることの出来る発明によって、社会のあり方が大きく変わり、様々な問題が発生した。
人々の労働意欲の低下や現実社会での活動減少が問題となった。少子化の加速。経済代謝の低下。
さらに、様々な問題が発生、浮き彫りになり、急速な社会制度の変更、検討、導入が行われた。
これは全世界ではなく、最先進国とその他の国々で行われた。
オレの住む日本もその他の国々に入っており、強制的に制度の変更、導入が行われた。
ただ、日本はその中でも特に注目を集めた。
それは、完全没入型仮想現実を初めに完成させ、それを世界へ発信したためだ。
秘密裏に行われた稼動実験の映像と、仮想世界での活動映像、オープンワールドでの交流の様子を発表と同時に公開した。
それは迅速に拡散し、社会現象を起こした。
だが、それは止まることを知らなかった。
理由は簡単。
仮想世界へダイブするための専用機器を、誰もが手に入れることができたからだ。
次第にそれは世界に広まり、先の問題を発生させる。
国連では、冗談混じりに「公に麻薬を売った」と揶揄され、それには世界が反応し笑いに包まれた。
この瞬間、一時的に全世界は一つに結ばれた。
そして、これらはオレが八歳の時に起こった。
小さいながらもその興奮はしっかり届き、両親に頼んで専用機器を手に入れた。
最初は両親に手伝ってもらい、地球世界と似た世界を作ってもらい、そこでの一生を体験した。
その結果、見た目に反して精神的な成長が著しく、大人顔負けな対応をするようになってしまった。
しかし、それはオレだけでは無かった。
引越しと同時に通わされることになった学校には、オレと同じように多くの生徒が身体と心を乖離させていた。
始めは大人たちもそれを心配していた。
ただ、子どもたちが行った仮想世界へのダイブを親たちも行い、それはすぐに解決した。
それから仮想世界と現実世界を過ごしたオレは十五歳となり、高校進学前の春休みを満喫しようとしていた。
本来高校は行かなくてもよく、すぐに社会活動を行えたが、人脈を得ること、最先端の学問、技術を学ぶ為に進学を決意した。
中学の友人は殆どが社会へ関わりを持つ方へ進み、制度によって学区外での生活を強制されていた。
逆にオレは学区で一人暮らしを始め、友人とも気軽に会えないためオープンワールドへのダイブが日常となり、ただ、その結果、自分だけの世界にダイブすることに飽きを感じていた。
そんな退屈な日々を抜け出すため、オレはプレイヤーが同じ世界で活動するオープンワールドにダイブし、新たな刺激を求めた。
現実ではあり得ないデザインをした建物。宙に浮いた自動運転の乗り物。ログインボーナス制の通貨。
死なないという理由で解禁された自由飛行。沢山食べても食べ続けることのできる胃袋。
オレは様々なことを体験していった。
先のように、これまでは自分のみがダイブできる専用の世界でしか活動せず、交流というものを断って来た。
だが、やはり同じ世界の人間とは会話が合うのか、はたまた久々の他人とのコミュニケーションであったためか、オープンワールドも悪くないと感じた。
ただ自分の性格か、毎日ダイブしようとは思わなかった。
偶に人と関わるのはメンタル的にも良いと思うが、長時間、深く関わってしまうと逆にメンタルを壊される可能性が高い。
人に合わせるということが自分にとっては苦痛なのだろう。
昔はそんな風に人に合わせるのが普通だったらしく、この時代に産んでくれた両親には大いに感謝している。
ただ、そんな性格、そんな時代が重なり、真に心を開ける友人は居ない。
というより、オレの感覚では友人は一人もいない。居るのは知人という感じだ。
唯一無二の友人とはどんな存在かを考えることもある。
オープンワールドにダイブしたのも、そんな気持ちが動かしたからかもしれない。
オープンワールドの中歩きながら思索し、何となくの答えが浮かび上がる。
賑やかな通りを過ぎて中央広場と呼ばれる場所に到着し、どんな場所か観察する。
すると、そこに一人周りとは違う男がいた。
広場の周りに生える木の木陰で、行き交う人々を眺めては首を折り頭を抱えている。
見るからに悩んでいそうなその男に、オレは躊躇いなく声をかけた。
「何してるんだ?」
「……」
男は声をかけられていると気づいておらず、顔をこちらにも向けない。
その為、オレはしゃがんで目線を強引に合わせ、再び声をかけた。
「おい、何してるんだ?」
「……!」
側から見れば異常な行動をするオレに、その男も困惑したのか中々声を発しない。
声をかけたのが失敗だったかと思い、オレは膝を伸ばして立ち上がる。今起きたことが無かったように、その場を離れようと歩き出す。
すると、そこでやっと男が口を開いた。
「す、すまないっ。俺と、冒険に行ってくれないかっ……」
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