第17話 新たな絆。




 ヒロトとカミ子ちゃんを見送り、改めて自己紹介をすることになった。


「それじゃあ改めて。俺の名前はマサキ。ヒロトの同僚だ。よろしくね」

「……カミ子だ。よろしく頼む」

「うん。それじゃあ早速、この集落に何があるのか、何をやってるのか説明していくよ。着いてきて」


 俺はそう言ってすぐに歩き出して案内を開始した。

 緊張気味のカミ子ちゃんをどうにかリラックスさせたいが、今日の内には難しそうだ。


 外見は小学生、精神年齢も同様だ。ヒロトとは異なり、こちらはなかなか難解なようだ。


「まずここは建築部門だね」

「建築」

「うん。ここのみんなは主に住居や施設、生活に必要なものを建てたり、設置したりする仕事をするんだ」

「わかった」

「じゃあ次だね。今日は時間も無いし紹介だけしていくよ」


 カミ子ちゃんにそう告げると、次の場所である衣類製作場に向かう。

 それにトボトボとカミ子ちゃんは着いてきて、到着するとすぐにここがどこか尋ねてきた。


「ここは?」

「ここはね、みんなの衣服を作る場所だね。汚れてもいい服だったり、少し着飾る服だったりと、用途によって分けて作るんだ」

「わかった」

「んじゃ次ー」


 次は精肉施設兼食料倉庫。

 これで今の所は最後の施設。


 ヒロトの衣食住を最優先に改善という提案から数時間。これでも早かった方だと思う。


「ここが、食料を置いている倉庫。向こうで作業してるのは精肉作業だ」

「うん、わかった」

「今の所はこの三つで全部だ」

「他にはないのか?」

「この集落はついさっきまとまってな。衣食住を最優先に考えた結果こうなってるわけさ」

「なるほど」


 ヒロトが話してないのか、疑問を持つカミ子ちゃんにこの集落の現状を伝える。


 ついさっき不要な人間を処理してやっと自分たちで動けている状況。人数も少ないしやれることは限られる。

 ただ、その分生き生きと作業をする者たちが多く、それなりの活気はある。


「今日はこんくらいだな。今アイツらがやってるのもその内変わるし、今見れてよかったな」

「……うん。見た感じ初歩の初歩って感じだ。ただ基礎を見れたことは良かった」

「じゃあ、そうだなぁ……アソコでヒロトを待つといい」

「わかった」


 俺は案内を終え、自分も何か始めたかったためカミ子ちゃんにはヒロトを待つように告げた。

 カミ子ちゃんはそれに了承して、俺が指差した休憩スペースにトボトボと歩いて行った。


 さて、とりあえず今日の業務を終わるようにアイツらに言わなきゃならない。

 近い精肉施設から行くか。


「おーい! お前たち、今日はもう終われ」

「すいません。まだ途中でして」

「いや、終われ。とりあえず今日と明日で組織の人間がどのくらいの量を一日に食べるのか把握出来ればいい。結構な数捌いただろ?」

「はい。それなら問題ないです」


 最初は渋ったが俺の言葉を理解して元村人たちは作業をやめた。

 無駄な作業や無駄な狩猟を行わせない為に記録をつけさせる。その時間を確保するためでもあった。


「記録は重さで付けておけよ」

「はい」

「それじゃあ、記録付けたら今日は終わりだ。お疲れ」


 最後に一言告げ、次の場所へと向かう。


「キリのいいところで終わってくれ」

「了解です」

「うし、終わったー!」


 小屋での作業であるため、扉を閉めると気の抜けた声が聞こえてきた。

 壁が薄いとは思ってないのだろう。

 今後はそういったことにも敏感になってもらうため、今のうちに存分に気を抜いているといい。


「今の作業で今日は終わりだ」

「了解! 今日はそれで終わりだ! 片付けろ」


 元気よく集団のリーダーが返事をし、周りに共有する。

 きびきび動く建築部門を眺めながら、俺はカミ子ちゃんが居る場所に視線を向けた。


「ヒロトは……まだか」


 もうすぐ陽が落ちるため帰ってきていてもおかしくない。

 だが、まだ帰って来てないということは、それに熱中しているのか、トラブル発生か。


 どちらかわからないがこのままカミ子ちゃんを一人にするのは良くないな。


「まだヒロトは帰って来てないみたいだな」

「……うん」


 あからさまに落ち込むその姿に失敗したと気づく。

 ヒロトの名前を出すところではなかった。

 これからやることと言えば……夕飯作りぐらいか。


 組織の奴らには各自で調理して食えと言っている。

 しかし、それを言った際に近くの料理の出来る者たちに頼っていたため、大半が同じ食事になるはずだ。


 現時点では料理を教えることは難しいが、将来的に組織の技術や文明が発展すれば、料理専門のグループを組むことも考えていいだろう。


 さて、今はカミ子ちゃんをどうするかだが……夕飯の支度を手伝ってもらおう。


「カミ子ちゃん。夕飯作りの手伝いを頼むよ」

「わかった」

「温かいご飯でヒロトを迎えようか」

「……うん!」


 そう言い終えると、休憩スペースから俺たちは仮住居とする大きな建物に向かった。

 何でも今は亡き村長たちの会合の場所とかで、調理スペースなどもあるようだ。


 組織の長が住むには良い場所だ。

 扉を開き中へ入ると、俺たちは調理スペースへ直行した。


「何を作ろうかねー。カミ子ちゃん、何か食べたいものある?」

「……肉」

「お肉はなんでもいいかな?」

「うん」


 片っ端から扉を開いていると食料置き場を発見し、使える食材を選んでいく。

 ただ、その中で肉は無かったため、カミ子ちゃんを待たせて精肉施設に急いだ。


「少し待ってて」


 一言告げて建物を出る。

 すると、目の前に白髪の男が現れ話しかけて来た。


「カミ子は何処にいる?」

「誰だ?」

「ああ、オレだ。ヒロト」

「おお! マジか。えっと、カミ子ちゃんは調理室に今居るぜ」

「わかった」


 俺は白髪になったヒロトに驚き、手に持った肉塊を見て足を止めた。

 手間が省けて俺はそのままヒロトに着いて行き調理室に戻った。


「ただいま」

「……‼︎」


 ヒロトが帰りを告げると、カミ子ちゃんは声に反応してヒロトの元へ駆け寄った。

 その光景は正に親子。

 ヒロトが髪を変えたため、それはより真実味を増していた。


「飯は食ったか?」


 カミ子の頭を撫でながらヒロトが俺に聞いてくる。


「いや、まだだ。丁度肉を取りに行くところでお前に会った訳さ」

「そうだったのか。じゃあ、早く準備を始めよう」

「ああ。カミ子ちゃんも手伝ってくれるんだ」

「そうか。美味い飯を作らないとな」


 ヒロトはカミ子に視線を向けてそう呟くと、手を離して調理台に進んだ。

 俺とカミ子ちゃんもそれに続いて夕食の準備を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る