第16話 新たな一歩と約束
カミ子と話している時にふと気づいて、オレは魔法を使って服と靴を創り出す。
「カミ子、これを身につけてくれ」
「なんで?」
「ほら……分かるだろ?」
「ああ、なるほど……」
カミ子はすぐに理解し、オレの手から服を取って身につけ始める。
創り出した服は白を基調に水色の模様が施された民族衣装のようなものだ。
カミ子の髪と瞳に合わせているため、遠目でもすぐに誰か分かるようになっている。
靴も白に水色を所々に差して完成させた。
この世界の人間が見れば、神の子と思うほどに神聖さを感じる衣装のようだろう。
「どうだ」
「ああ、似合ってるよ」
「……そうか」
似合っているか確認するとは思っていなかったが、本音で答えた。
カミ子はそれに俯きながら返答し、左右にゆらゆらと体を捻り嬉しさを表現している。
そこでオレは確認した意味を理解した。
性別を無くしたということは、どちらの特徴も出るという訳だ。
カミ子の嬉しそうな態度を眺め、少し間を空ける。
その後、オレはカミ子にやってもらう仕事を告げた。
「カミ子にやってもらうのは、オレともう一人の同僚に代わり組織の運営だ」
「い、いきなり大役だな……」
「いや、そんな大したことではない。オレともう一人の考えをソイツらが理解できるように説明して動かすだけだ」
「簡単に言うなぁ……」
消極的なカミ子の態度が少しばかり面倒に感じる。
しかし、それを表に出せば個性を失わせることに繋がりかねない。
それに、これが外面で内面ではかなり意欲を沸かせているかもしれない。
本当に無理な時は改めて話に来るだろう。
それまでは信頼して仕事を任せよう。
「大丈夫だ。最終的には全てお前に任せたいが、最初の頃はサポートする。身構える必要はない」
「その言葉がねぇ」
「ふっ。間に受け過ぎは良くないぞ」
カミ子の本音が溢れた気がしたため、教訓を一つ聞かせる。
一度仮想世界で人生を終えたオレは、その時人の言うことをよく聞いていた。
しかし、それでは身を滅ぼすことを知った。
身近な人間には無意識に甘えてしまう。
それに、勝手に信用もしてしまう。
それが正解とは限らないのに、無意識に納得して疑うことをしない。
その積み重ねが自分を薄めていき、気づいた時には同じ色になっている。
近くに居ようが、親しい者にはそうなってほしくない。
カミ子はオレの血を大量に使ったため、そういった考えに辿り着くのも時間の問題だろう。
「思考を積み重ね、自分の思想、信念を持つといい」
「でも、我はお主の血が濃く出るんじゃないか?」
「血が近くとも、オレはこれからも変わっていく。お前がオレと同じようになるかどうかは分からない。環境も違うしな」
「そんなもんか」
「ああ、そんなもんだ。行くぞ」
このまま立ち止まって会話することもない為、オレはカミ子に声をかけ、歩き出す。
いつもより遅い足取りで、カミ子の速度に合わせて集落へと向かう。
森の中を歩き、だんだんと人の声が多く聞こえ始め集落に戻ってきたことを認識する。
ただ、カミ子にとって多くの人間が居る場所は初めて。
オレはそれを考え、忙しく走り回るマサキに声をかけて紹介を始めた。
「マサキ。少し時間をくれ」
「ん? ああ、いいぞ」
「紹介する。オレの子どもだ」
「……何だって?」
「だから、オレの子―――」
「違う。経緯だ経緯。この離れた数時間にそんなに大きな子が産まれる訳ないだろ」
「お、おお……」
何故か早口なマサキに圧倒されて身を引いてしまう。
だが、マサキの反応は別としても言っていることは間違ってない。オレでもそれを聞く。
一瞬でそれを理解し、オレは事の経緯を話した。
「そうか。まあ、確かにそうだな。俺たちが自由に色々やるとなると組織の運営は任せるのもありだな」
「子どものように見えるが、オレが一人増えたと思えばいい。良く思わないだろうが、逸脱した方法をとってオレの記憶も定着させている」
「いや、そこは大丈夫だ。いきなり過ぎて驚いただけだからな。俺もお前もやりたいことはやっていけばいい。お前が組織運営をカミ子ちゃんに任せても、俺は直接口出ししたいからな」
マサキはオレの考えに同意するも、自分でやりたいことはオレに関係なくやる考えを伝えて来た。
それにはオレも同意するため、それを伝えてカミ子を一旦マサキに預けた。
「それもそうだ。一旦カミ子を預けていいか? 進捗具合は把握した方がいいし、他の者たちにも顔繋ぎを頼みたい」
「おう、いいぞ!」
マサキに承諾を貰うと、オレはカミ子に目を向け、改めて一旦離れることを告げる。
「カミ子。一旦オレとは別行動だ。この男、マサキに着いて行って現状把握をしてくるんだ」
「ど、どれくらい居ない?」
「ほんの数時間だけだ。暗くなる前には戻る」
「……うん」
ここに来て本当の子どものようなカミ子の態度にオレの心は動かされる。
「……‼︎」
「……すぐ帰ってくるよ。約束だ」
しゃがんでカミ子の体を引き寄せると、力をそこまで入れずに抱きしめる。
自分でもこんな行動をするとは思っておらず、一瞬戸惑い黙ってしまった。
しかし、何かしなければならないと考え、安心させるように約束を口にした。
「ははっ。もう完璧な親だね」
「……オレもびっくりさ。それじゃあ、よろしくな」
「おう」
「後でな、カミ子」
「うん…………ふふっ」
言葉を言い終えカミ子の返事を聞くと、オレはすぐに森へと向かい探索を始めた。
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