第六章

第46話 盗賊




 やり過ぎて何回目か忘れた荷物を運ぶ依頼。

 そんな集団には付き物というかテンプレというか――――盗賊に襲われる。


「荷物を置いていけ!」

「嫌だよ」


 俺はすぐに荷車から降りて盗賊たちの殲滅に移る。

 部下の何人かが荷物を見張り、他数人が盗賊を相手にする。

 盗賊も名前とか怖さみたいなのが一人歩きしているもので、そこまで大した奴らは存在しない。


 裏社会の人間は居るだろうが、盗賊よりそっちの方が優秀な気もする。

 盗賊の襲撃を返り討ちにし、荷物の確認、点呼を行う。


「荷物大丈夫か? 怪我した奴は? 誰がいない?」

「多い多い。マサキさん一気に聞きすぎだって」

「流れ作業的な感じになってしまったわ」

「荷物大丈夫」

「怪我人無し」

「三人いない。周囲の警戒にあたる報告あり」


 ツッコミを入れて雰囲気良くする奴も居れば、ちゃんと聞いて答える奴らもいる。

 盗賊に襲われた時のマニュアルも正確にこなしているようだ。倒れた盗賊の身包みを剥ぎ、布は清潔魔法で綺麗にする。武器や防具、金品も仕分けして収納していく。


 それが終われば人体の解剖。

 研究に使う臓器や闇市に流す為慎重に取り出し、劣化しないよう加工する。


「盗賊のアジトらしき場所を発見しました。金品もかなりあります。移動をお願いします」


 作業をしながら三人の報告を待っていると、一人だけ先に帰って来て集団の移動を頼んで来た。

 極稀にこういったことは起こる。盗賊が溜め込んだ盗品の量が多い場合だ。


「了解。全員移動開始」


 俺は報告を聞いてすぐに号令を出す。

 それにメンバーが動き出し、案内に従いその場所へと向かう。


「人数多いと思ったけど、大きなアジトだなぁ……」


 山肌に大きな穴が開き、その先に道が続いている洞窟。

 出入り口は松明で照らされており、先にも点々と明かりが灯っていた。


「三人交代制で始めてくれ」

「了解」


 荷物番、休憩、作業の順で効率よく回していく。

 俺は一番上の立場である為、自由に行動する。

 洞窟へ入り、地図を書きながら全ての道を歩いて行く。


「倉庫部屋と寝床が殆どだが……」


 盗賊の男女比から考えてこれだけではないと推測し、どこかに仕掛けが無いか探し始める。

 倒した盗賊に女は一人もいなかった。となれば、必然的に人攫いをして卑劣な行為も行うことが予想される。


 それを行うための特別な部屋があってもおかしくない。念入りに点検をして異変がないか調べていく。すると。


「あったな」


 地下へ続く扉を見つけ、階段を降りていく。丁寧にそこにも松明が設置してあり、足元も見やすく移動しやすい。


 知恵はあるのに盗賊か。まあ、それなりの事情があるのだろう。

 俺は思考を放棄して目の前のことに目を向ける。


「うりゃ」

「うわっ!? ビックリしたぁ……」


 先に見える黒い影が動いたと思ったら、一人の少女が突然襲ってきた。それに驚きながらも避け、敵ではないことをすぐに伝える。


「ごめんごめん。俺盗賊じゃないんだ。落ち着いてくれ」

「盗賊は……?」

「もう居ないよ。倒したからね」

「……」


 彼女は階段を降りていく。

 しばらくするとすすり泣く声が響いて来た。

 他にも居たのだ。俺はそれを理解して階段を降り切る。


「こんなにも……」


 あまりの人数に呆然としてしまう。

 一応部屋の天井には明かりがあり薄らと全体が見渡せた。俺は創造魔法で清潔な衣服と靴を用意し、それらを彼女たちへ配る。


「すまないが一人ずつ近くに来てくれ。清潔魔法を使うのと病気がないか調べる。その後に着替えも配る。怖いかもしれないが、頼む」


 警戒する彼女たちに告げる。

 すると、一人の少女が前に出てくる。

 俺を襲って来た少女だ。彼女の勇気には感謝しかない。


「少し触るね」

「いいぞ」

「……大丈夫だね。これに着替えてくれ。他のみんなにも言葉掛けお願いできるかな?」

「わかった」


 少女はすぐに着替えると、怖がる者たちの元へ行き説明し出す。

 そこで一人一人重たい腰を上げ、俺を囲むように順番を待っていた。


「これで最後。待たせてごめんね」

「……ありがと」

「どういたしまして」


 全員の診察を終え、早速地上へ出るため行動を開始する。


「上に仲間が待ってる。食料も用意してるからついて来てくれないか?」

「私が先に着いて行ってからだ」

「了解。じゃあ、他のみんなは一旦待機で」


 少女と俺は階段を登り地上へと帰還する。

 そこで事情を話し、すぐに食事の準備と寝床の設営に取り掛らせる。


「疲れたろ。背中に乗って」

「……わかった」


 少女の疲れを考え背負ってもう一度地下へと向かう。

 心配そうに彼女を見る少女たちの目は家族を想うかのよう。到着すると少女が声をかけ、全員で地上へ向かう。


 最後の者が地上へ出て洞窟の外へと向かう。

 その後、少女たちを仲間に預け、体制を変更して荷物の運び出しと捜索を続けた。


 荷物番と少女たちの世話。休憩を省き、残りを盗品の運び出しにあてる。

 俺は他に何かないか探索、捜索を続ける。


「ま、居るよね」


 もう一つの隠し部屋を見つける。そこにいる者たちは奴隷。

 奴隷部屋。とでも言えばいいだろうか。

 様々な種族が奴隷に落とされ収容されている。


「ここに居る盗賊は全て倒した。お前たちを助ける。少し待っててくれ」


 奴隷たちは反応しない。

 むしろ警戒している。俺はこの状況を好転させるため、まず一人檻から出して奴隷契約を破棄させる。


「疲れるな……これ。ヒロトはどんだけ魔力あんだよ。よし」

「これで奴隷じゃない……?」

「ああ。君は自由だ」

「やった……帰れる、帰れるんだ……!」


 獣人の少年の言葉に空気が変わる。

 ヒロトに教わっといて良かった。

 その後、俺は次々に檻を壊し契約を破棄していく。


 それからは少女たちを助けた時と同じで、全員で出入り口を目指し、その後新しい服などを与えた。


「助けてくださりありがとうございます。わたくし、チャヤナの第五王女であります。申し訳ありませんが、そこまで送って頂けないでしょうか」


 笑顔を取り戻しつつある少女や元奴隷の者たちを眺めていると、後ろから声をかけられた。

 ただの自己紹介と思ったが、どうやら高い身分の方のようだ。


「ええ、いいですよ。念のため次の町で手紙を書きましょうか」

「そうですね。それがいいと思います。早く安心させなければ……」


 何があったのかは知らないが、身分が高い人にもそれなりの苦労があるようだ。

 彼女も挨拶が終えると皆んなに混じって食事を楽しんでいた。


(夜遅くにすまないが、チャヤナについて知ってるか?)

(チャヤナと言ったら大都市の名前ですね)

(大都市チャヤナ。ある王族が統治している国の首都ですね。チャヤナという名前は、王族の名字らしいです)

(了解。このまま報告に移ろうか)


 俺はいつもの時間に念話を開始し、初めて聞いた単語を尋ねた。

 どうやらかなりの大物らしく、先の行動は問題なかったようだ。


 こういった時のためではないが、メンバーのやりたいことを優先させて良かった。

 これまで数箇所移動を繰り返して来て、もう少し居たい。挑戦したい。学びたい。と様々な理由で拠点を置いて好きにさせて来た。


 今ではそれが情報網となり、毎日21時の報告が日課となっている。各拠点のリーダーたちには迷惑だろうが、これも事業の拡大には必要なこと。

 改めて感謝すると共に、日々の報告を聞いて改善策を考える。

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