第47話 侵入者の痕跡




 盗賊アジト前で一夜を過ごし、日が昇ったところで俺たちは出発の準備を始めた。

 解放した者たちは未だに眠っているが、その方が都合がいい。


「出発なさいますか?」


 ただ第五王女だけは違った。

 俺たちメンバーが起きて準備を始めると、音の変化に目を覚まして近づいて来たのだ。


「まだ準備中です。この後食事の用意もしますので、出発するのはもう少し日が高くなってからですかね」

「分かりました」


 王女はそう言って元の場所に戻りもう一度目を閉じた。周りに合わせてそうしたのだろう。


 俺たち以外に起きたのは一人だし、準備も手慣れた俺たちがやった方がいい。王女はそれを理解したのかもしれない。


 創造魔法で人が乗り込む荷車を量産。召喚魔法でそれを引く馬を一台二頭で計算して呼ぶ。

 その後、食事を用意する部下たちを見て、俺は寝ている者たちを起こし始める。


 起こした際に何度か驚かれた。嫌なことをフラッシュバックさせたのかもしれない。その子たちに謝罪はしたが、当分そんな生活を続けることになるのだろうな。

 早く癒えて欲しいと思う。


 食事も終わると、昨日からの回復が進んでいるせいか、多くの者たちが会話をし、所々で笑顔が見えていた。

 種族も出身も違う。ただ同じように捕らえられたため仲間意識が芽生えたのかもしれない。


 皆に荷車に乗り込むよう伝え、全員の移動が完了すると、俺たちは出発し近くの町へ向かった。


「よし。奪った金品を役所に持って行ってくれ」

「了解」

「ちゃんと持ち主を探すよう伝えろよ」

「はい」


 少し広めのスペースに移動し、そこに馬車を停める。

 大所帯になってしまったためあまり迷惑をかけないように努める。


 町に来て初めにやることは盗品の返還申請。これは盗賊に襲われ、盗品を奪えたら必ず行っている。


「盗品をお返しになられるのですか?」

「ん? そうだけど。もしかしたら大事なものかもしれないし」

「お人好しですか? あなたは」

「どうだろうな。まあ、信用信頼を得るためにやってるのかもな」

「そうですか……」


 またもや王女が近づいて話しかけて来た。

 もしかしたら、常識的に盗品を元の持ち主に返すのはおかしいのかもしれない。

 ただ自分でも言ったように、商人として更に言えば商会として、信用を得るためにやっているところはある。

 面倒だが、それをやることで活きてくるのだ。


「マサキさん。少女の中にこの町出身の子が居たみたいで、母親の元へ帰って行きました。どうします?」

「そうか。いいことだな。ただ……他の者たちはどうだ?」

「なんと言えばいいか。皆少し寂しそうではありますね」

「……よし。じゃあ、ここに拠点を作ろうか。お前がリーダーになってまとめなさい」

「はい……!!」


 部下の男はすぐに不動産へ向かった。

 この町には二日程滞在するため見つかるはずだ。


(マサキさん。何故かこの町の少年たちが働かせてくれと懇願して来ます)

(不動産の後に全員雇うといい。お前一人じゃ町の把握も難しいだろうし。動かせる人材は居た方がいい)

(了解です。ではそのようにします)


 噂でも広まってるのか部下に接触があったみたいだ。

 女の子が帰って来た。盗品が戻って来た。そこら辺が広がっている要因かもしれない。まあ気にせずやるべきことをやろう。


(おい。闇市を探せ。臓器を高値で売って必要な物を買いに行く)

(了解)


 声に出せない事なので、念話を通して会話をする。ついでに盗賊の清潔にした布も高値で買い取らせよう。


「ずっとここにいるのも暇だろう。お小遣いを渡すから何人かで固まって行動しなさい」


 荷車に待機する少女や元奴隷たちに声を掛ける。

 俺自身散策したい為でもあるが、ずっと座らせておくのも申し訳ない。それに、何も言わず姿を消すなんてことはないはずだ。


 一人ずつにお小遣いを渡し、何人かで固まって動く集団を見送る。元奴隷たちは冒険者登録に向かうための資金で十分だと言ってギルドは向かって行った。


 全員に配り終わり、余ったお金で散策する。

 しかし、何故か王女が付いてくる。

 話の合う奴らが居なかったのか。偶々なのか。よく分からないが突っ込まずに行動することにする。

 ん? これは……。


「それはタコ焼きですわ」


 王女が説明する。

 ただそれは分かっている。

 ここに何故タコ焼きがあるのか。その方が気になっているのだ。

 今まで行った町では見かけなかった現代の料理。これは間違いなく侵入者が持ち込んだ痕跡。


「へぇ……初めて聞くよ。一つもらおうかな」

「はいよ」

「ありがとう」


 店主から受け取り一つ取って食べる。

 熱々で普通に噛むことができない。現代と変わらぬ味。

 王女にも食べるように勧め、同じように二人で食べ進める。


「めちゃくちゃ熱いけど美味かったなぁ」

「出来立てはこんなに美味しいのですね」

「料理はすぐに出ないのか?」

「はい。毒見やら見映えやらで、出てくる時には冷めてます」

「勿体無いな」

「ええ、本当に」


 不満があるようで心底うんざりそうに王女は言った。

 次に目を奪われたのは、黒い飲み物。

 これは……アレだよな。


「それはコーラ。というものです」

「よく知ってますね」

「はい。チャヤナが初めて世に出したものですから」

「ああ、そういうことね。さっきのも同じかな?」

「ええ、そうですね」


 なるほど。

 チャヤナに侵入者は降り立ったという訳だ。そこで自由奔放にやっていた、と。

 ヒロトに伝えないとな。


(ヒロト。侵入者の痕跡を見つけた)

(何を見つけた?)

(タコ焼きにコーラだ)

(なるほど。それはどうして分かった?)

(偶々奴隷になってた王女を助けて、一緒に散策してたら説明を始めてな)

(なるほど。王女の出身地に侵入者が居たってことだな)

(そういうこと)


 ヒロトと話を進めて行くが、一つ疑問が生まれる。


(ちょっと待てよ。王女はどれくらい監禁されていたんだ? 日数によってはマサキがログインしていない時もこの世界が稼働しているかもしれない)


 権限を一部奪われているかもしれない。そういうことだ。

 俺はヒロトからの言葉を聞いて、ログイン履歴をもう一度見返す。すると。


(俺たちが居ない三日の内一時間だけ誰かがログインして世界が動いてる)

(半月は進んでるってことだな)

(そうなる。流石に王女に捕まった期間を聞くのは踏み込みすぎるかもしれない。そこはやめとく)

(ああ、それがいい。王女の出身はどこだ?)

(チャヤナ。結構デカい都市だと思う)

(了解。そこでもう一度落ち合おう)

(おう)


 ヒロトとの念話を王女との散策をしながら進めた。ただその結果。


「聞いてます?」

「ああ、ごめん。少しボーッとしてた」

「ですから――――」


 王女は上の空の俺を見て確認してくる。

 謝罪して言い訳を伝えるが、それを王女はサラッと流してチャヤナの話を続けた。


「マサキさん。ゲット出来ましたよ」

「了解。多分みんな帰ってくるからその時に移動しようか」

「はい」


 馬車に戻ってみんなを待っていると、土地を購入して部下が帰って来た。

 まだ散策から戻らない者たちを待ち、ある程度集まったら向かうことをメンバーに伝える。


 日が落ちると、元奴隷たち以外は戻って来た。

 冒険者になると言っていたし問題ない。そう割り切り俺たちは購入した土地に向けて出発した。


「ここです」

「いいね。広くて」


 土地を見てイメージを膨らませる。

 創造魔法で建築を行う。

 日本とは違って地震も起こらない地域であるため、拘り過ぎない設計。


「……よし。これでいいな」


 イメージも固まり魔法を発動させる。

 すると、巨大な屋敷が更地に誕生する。

 部下たちはもう驚き慣れているため何も言わずに中へ入って行く。


「ほらみんな。お風呂に入っておいで」


 召喚した馬を荷車から外しながら、呆然とする少女たちに伝える。しかしすぐに動くことはなく、馬小屋を建てるところでようやく皆動き始めた。


「あなた、凄いわね」

「これぐらいしか出来ないんだよ。戦闘は部下任せだしね」

「そう……」


 王女は魔法が凄かったらしく、それを率直に伝えて来た。そこで自分が普通ではないことを理解した俺は、嘘を吐き何とかその場を乗り切る。

 いずれバレそうな予感がするため、人前での魔法は制限しよう。


 夕食後。

 俺はいつものように念話で報告を済ませ、一人の時間を満喫していた。


「マサキさん。少女たちがここに住みたいと言い始めまして……」

「そうか。まあ、人手は多いに越したことをない。ちゃんと教育して働かせるといい」

「わ、分かりました」

「後一人ぐらい誰か誘っていいぞ」

「ありがとうございます」


 部下を一人補佐として置いてもいいことを伝える。

 この商会のリーダーになる男は、それを素直に受け取り礼を伝えてくる。


 ただ女性社員ばかりの商会になるのも不安の種。

 用心棒ではないが、近くに屈強な男たち。冒険者がいる方がいいと感じ、翌日声を掛けることにした。


 出発の日。

 俺は元奴隷冒険者たちに声を掛け、商会の専属冒険者として雇うことを告げた。

 その誘いに皆快く返事をし、商会に所属することになる。

 心配も無くなり、俺と部下、新規のメンバーを加え出発する。


「よろしくお願いします」

「よろしく」


 荷車には王女と少女たちの中心人物。俺に襲いかかった少女が乗っていた。

 名前はサキ。第五王女とサキがこれからも付いてくる。


「じゃあ、出発しようか」

「了解」


 俺たちは大都市チャヤナに向けて出発した。

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