第12話 氷の魔法と村長の秘密




 一人の村長から警告を受ける。

 正直何に、と言いたいところだが、相手は六人でそれも老人。

 油断するなと言う方が難しいんじゃないだろうか。


 魔法を覚えたオレは、ただ武器を持つ人間ではない。

 六人の姿を視界に捉えながら、どう動くのか観察して行動を決める。


 しかし、六人は並んだまま動く気配は無く、ただこちらを眺めるだけ。

 どうやら向こうは自分たちの方が強いと確信しているようだ。


「フッ」


 魔力で身体能力を上げ、オレから見て一番左の村長に向かって突撃した。

 しかし、次の瞬間、力を入れていたはずの右腕の感覚が無くなった。


「ッ―――‼︎」

「だから言うたじゃろ。舐めとると痛い目を見ると」


 一人の村長が立ち止まったオレに告げる。

 本当にその通りだ。

 オレは村長の発言に肯定する。


 何故なら、一人の村長が手をフッと上げただけでオレの右手が上腕の半分から切断されていたからだ。

 見えない攻撃がオレを襲ったのだ。


 考えられるのは魔法一択。

 村長たちは魔法が使えるということか?

 男の村人は魔法が使えない。女は全員使える。その認識で合っていた。


 しかし、現に村長は魔法としか言えようのない攻撃を放った。

 これはオレの浅慮が招いたことになる。


 勝手に決めつけていたことを反省し、オレはまず距離を取り右腕の処置に集中した。


「ほう。氷の魔法か」

「珍しいのぉ」


 二人の村長がオレの処置を見て呟く。

 二人が言うように、オレは腕の切り口を火魔法で炙った後周りを氷で覆い、その上で右腕を再現していた。


 五日間で分かったことの一つに、オレは氷魔法が一番得意ということが判明していた。

 そのため、造形も難なく行えて、それを違和感なく操作することも可能。


 珍しいことは知らなかったが、そこに付け入る隙がありそうだ。


「……確かにアンタらは弱くないようだな」

「痩せ我慢はせんで良いぞ」

「次で死ねるのじゃ。楽にせい」


 オレが口を開くと、村長たちは既に勝った気になり見下した言葉遣いで諭してくる。


 それにはオレも少しばかりイラッとしてしまい、次の瞬間には地面の水分を利用して村長たちの下半身を凍らせる。


「っ……⁉︎ やられてしまったわい」

「まあ、これぐらい何とかなる」

「そうじゃなぁ」


 一人は驚き、二人は冷静にそれを観察して答えを導く。

 ただ、一人だけ既に脱出していることにオレは気づいた。


 その瞬間に、魔力で位置を特定しようと試みる。

 すると、すぐ後ろに大きな魔力の気配があり、氷の腕を背後に向けて氷壁を作った。


「ちっ……老いぼれたのぉ」


 氷を途中まで切り裂き止まった刃物を持つその村長は、自分の力が衰えたと呟きその刃物を氷から抜く。


「やはり近接も侮れないか」

「それはそうじゃろう」


 オレの呟きにその老人が答える。


「儂らは村で一番の男たちじゃからな。魔法もそんな一握りにしか教えておらん」

「へぇ、男は得物で一番にならないと魔法を教われないんだね」

「ま、そんなところじゃ」


 そこで真実が判明した。

 どうやら村長たちは昔村で一番強い男たちだったようだ。


 その全員が村長になっているということは、代々最強の男にのみ魔法を教え、村を管理していたということになる。


 確かに、誰か一人が最強でそれもトップの権力を持っていれば集団の管理はしやすい。

 昔何かあったのかはそれで理解できてしまうが、今それはどうでもいい。


 目的は結局変わらない。

 村長たちを全員殺せば解決するわけだ。


「村って面倒なんだな」

「そうでもな……」

「はい。終わり」


 オレは氷壁から鋭い「氷柱つらら」を一瞬にして発現させ、目の前の村長の体に複数の穴を開けた。

 傷口からは血が流れ、氷の上に達するとほぼ一瞬にして固まる。


 氷壁より更に低い温度の氷柱により、刺さった体は徐々に侵食され、ものの数秒でその村長を氷漬けにした。


「「貴様ッ……‼︎」」

「そうなるか」


 オレは一人やられたことで怒る村長が出ることを意外に思い、向かってくる二人目を真下から串刺しにする。


 地面から生えるそれは、さっきと違い空気中のもので殆ど組成されているが、恐らくこの世界の人間には分かるまい。


「くっ……これでは」

「逃げ場なし……かのぉ」


 人数が減ったことと、氷魔法の強さに二人の村長が弱気を見せる。

 その一瞬をオレは見逃さない。


「貫け」

「「っ……⁉︎」」


 正対する二人の後頭部付近に長めの氷柱を作り、オレの方へ向けて回転させて引き寄せる。


 二人は後ろに何かあることに気づき振り向きかける。

 だが、一瞬の出来事であったため、二人は振り向こうとする瞬間に貫かれ、意識を失くして前に倒れた。


 残りは二人。

 最強を自負する者たちだったが、最初の一撃以外は攻撃を受けることすらなかった。


 不意打ち、というより自分自身の誤認識によって招いた結果であって、村長らによって力の差を見せられたとは露ほどにも思えない。


 まあ、向こうは違うようだが。

 ただ、それは仕方ないこと。

 後二人をサッと殺して次に移ろう。


「うぅむ。二人になってしもたわい」

「まあ、仕方ないのぉ。我々より弱き者たちじゃ」

「へぇ〜、強いんだ。お手なみ―――」


 オレは二人の言葉を聞いて会話を試みようとした。

 しかし、それは相手がオレに対して一瞬の隙を作るための行動であった。


 そのため、暢気のんきに口を動かすオレの背後と目の前に二人の村長は接近した。


「ちと舐めすぎじゃ」

「「っ……‼︎」」


 目前に迫る刃に、背後からの魔力反応。

 絶対絶命に見えるその光景に、二人は最後に油断する。


 刃が首に当たる瞬間、魔法が背中に当たる瞬間。

 それは同時であったため、簡単に防ぐことが可能となる。


 それにプラスして、反撃も同時に行える。

 奴らはさっきの光景を忘れているようだ。


「終わりだよ」


 氷壁を展開すると共に呟き、氷壁を展開しつつ反撃に使う氷柱を同時に発現させる。


 体全体を覆った氷壁は徐々に赤色に染まり始める。

 オレは念のため、突き刺さってるであろう二人を氷壁で囲うように拘束する。


 血が吹き出そうが生きている場合もある。

 それを懸念して慎重に行動した。


 しかし、その心配は杞憂に終わり、二人の村長は氷壁に包まれ体に霜を降ろしていた。

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