第9話 村長たちの選択
ヒロトとマサキによって村を去ることになった村長一行は、一番近い村である第二の村に到着した。
村人たちは一箇所に集められ、第一の村の村長はその村の村長と会談することとなった。
「どうされましたか」
「急を要することじゃ。ここに居ってはすぐに襲撃されるやもしれん」
「どういうことですかな?」
唐突に告げられた言葉に第二の村の村長は詳細を求める。
それを聞いて第一の村の村長は、改めて事の経緯を説明し始める。
「村が信仰する神、
「なんとっ⁉︎」
第二村長は、第一村長が説明を始めてすぐに大声で反応した。
ただそれもそのはず。村が分かれていようが信仰する神は同じなのだ。
第二村長は第一村長のその一言で大体のことを理解した。
「始めは儂らもその二人の族を倒すつもりじゃった。しかし、奴らは思いの外強くてな。犠牲になるとわかっても足止めしてくれる者たちを置いて逃げて来た訳じゃ」
「それはまた……私の村もそこまで武力がある訳ではありませんからなぁ。第三の村に向かって徐々に戦力を募った方が良い気がしますな」
第二村長は犠牲になる者たちに同情するが口には出さず、すぐに次の行動の提案をした。
「そうじゃな。お主たちは支度をしてくれ。こっちは先に話を持って行かせる」
「承知した。では、また」
第二村長はそこで話を切り上げ、村の集団の代表たちを集めて、すぐに村を出る支度をさせた。
それを聞いた代表たち、村人たちの行動は迅速で、数十分と短い時間で支度を済ませた。
第二村長は確認が終わると、すぐに第一村長の元へ向かい第三の村へ進むことを伝えた。
「支度ができましたので、先に進みます」
「うむ。また向こうでな」
「ええ」
二つの集団は列になって目的地に向かって進む。
列には農耕用具や家畜、荷車を引く者たちでいっぱい。盗賊が居たなら確実に狙う集団だ。
しかし、ここは辺境の更に辺境。人が居ることすら中央の人間は知らない。だが、それは盗賊もまた然り。
そのため、人知れず村は合併し、一つの町規模までに発展する。
これまで起こることのなかった村の脱出を五つの村が行い、六つ目の村で砦を築く。第一村長はそう思い描き、話を進めさせた。
一行が第三の村につけば、第三村長と数名が残っており、話は先に持って行かれて更に話が進む。
しかし、結局第一村長の思い描いた通り、第六の村で各村人が集まり、そこは一つの町ほどの集団となっていた。
「こうして集まることになるとは思わなんだ」
「そうじゃな」
「いがみ合っていたのが馬鹿らしい」
「共通の敵が現れればこうなるのは必然」
「確かになぁ」
「そんなことより、対抗手段はどうなっておる」
各村長が集まり、二人の族に対してどう対処するか話し合われる。
ここまですることなのかと問いたくなる者も居たが、神の殺害という話を聞いて誰もがこうすることに賛同した。
神殺しは大罪。
この地域の宗教では許されざる行為であり、それを裁くことが信仰とも捉えられていた。
「戦える者を集めて、ざっと四十。二人に対してなら余力も出るだろ」
「うむ。しかし、その二人の族がそこまで強いのかね?」
「帰還者が居らんのじゃ。儂の村の代表たちじゃが一人もな。それに二人の女も失った」
「ということは、魔法に対応できたわけじゃ」
「そうなるのぉ」
「難しいなぁ」
普通この地域では魔法を使う男はいない。
それは閉鎖的な社会であったこともあるが、男女で役割を区切ったことが最大の原因に挙げられる。
女は魔法を使った作業が多く、男は罠や弓、剣での狩猟がメインになっていった。
これは森で魔法を使うと魔獣が増えると分かっていた先人の知恵が受け継がれていったせい。
ただ、それならばどうにかして魔法を使えるようにすればいいと考える。
しかし、時代が経つにつれてそんな知恵や知識も失われ、何故女だけ魔法が使えるのか分からない状態に陥っているのだ。
これでは手の施しようがない。
常識を疑うことのない社会が出来上がり、同じようなことを代々受け継いで暮らして行く。
それが、この六つの村の実態。
村長たちは男のみを編成した集団と、子を産めない女を集めた集団で対抗することを決めた。
「個が強くても数には負ける」
「強者が敗れてきたのはいつの時代も数の不利じゃからな」
「こうなった今、ワシらができることは限られている」
「これが終わったら引退もありじゃな」
「ほっほっほっ、それが良いですな」
「ではこの戦の勝利に」
「「「乾杯!」」」
村長たちは盃を掲げて勝利を願い酒を飲んだ。
この地域に根付く必勝祈願を行い憂いをなくす。
村長たちは、その後すぐに別の件で話を進め、ヒロトとマサキがやって来るのを今か今かと待ち望んでいた。
この世界に突如現れた二人の人間によって、多くの者たちの運命が変わろうとしている。
当事者の二人はそれを気にしてないが、村人たちからしたらたまったものではない。
ただ、これは村長たちにも落ち度があった。
この辺境に人が来るということが、あり得ないということを失念しているのだ。
年齢のせいか、神のいたずらか。
しかし、その原因は誰にも分からない。
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