第36話 侵入者




 裏切った獣人たちを始末する為準備をしていると、突然頭に声が聞こえて来た。


(ヒロト、大変だ!)

(どうした?)

(この世界に誰かが入って来た!!)

(……っ!? それは本当か?)

(間違いない。今、管理者メニューが突然表示されて対処しないといけなくなったんだ)


 マサキからの言葉に驚くと同時に、何かのバグを疑った。

 本来あるはずのない出来事が、自分の身に降り掛かるなんて思いもしない。


 特に、プライベートワールドに侵入するなんてオレたちの常識には無い。

 セキュリティも、大多数にワールドを公開するものより堅固なはずだ。


(強制送還はできたのか?)

(それが無理だった)

(なるほどな)


 こんな時のために、無断で世界に接続した者を弾く機能がついている。

 しかし、今回はそれすらも行えないようで、自分たちでどうにかするしかないようだ。


(どうする?)

(世界の削除は避けたいな)

(そうだよな。これからって時だし、俺たちは何も悪いことはしてないからな)

(ああ…………確か、こんな状況をニュースで見たな)

(横行してんのかっ!? こんなことが!)

(ええっと……)


 オレはリツと居た時のことを思い出す。

 対処法も確かにあった。


(思い出した。創造主に通報か、待機空間へ侵入者の情報を拡散することだったかな)

(よし! IDは……あった。これで通報完了だ)

(オレたちができるのはここまでだな)

(そうだな。後は現実のみんなに任せよう)


 仮想世界の時間と現実世界の時間ではズレが生まれている。

 現実世界で一日が終わったとしても、今居る仮想世界では一年が経過していることになる。


 オレたちはこれから、侵入者の痕跡を探しつつ世界を冒険することになる。

 解決するとしても半年は掛かるだろう。


(それじゃあ、お互い侵入者の痕跡を探しつつ、だな)

(ああ。痕跡を見つけたり、何かあったら連絡を取り合おう)

(了解)


 マサキとの念話が終わる。

 だが、そこで頭の中に別の声が聞こえてくる。


(ヒロト! 領域に侵入者が来た!!)

(分かった。部屋に向かう)


 カミ子からの念話に即座に反応して、地上から地下へと急いで向かった。

 この世界の生物に接触する機会はほとんどない為、こういった時にできるだけ情報を集めたい。

 オレは扉を開けて部屋に入り、カミ子を抱えてソファに座り観察を始めた。


「冒険者っぽいな」

「うん。どうする?」

「……ゴブリンたちに本気を出させるな。できるだけ中心に誘うように指示してくれ」

「分かった。捕まえるの?」

「ああ、少し調べたい」


 カミ子にゴブリンリーダーと連絡を取らせ、ゴブリンたちの行動を指示する。

 冒険者とゴブリンのレベル差や、この世界の常識を知らないため慎重に動く。


「全員人間っぽいな」

「うん。男三人、女二人。でも、一人の女は隠してるようだけどハーフっぽい」

「ハーフか?」

「うん。映像を見せてる鳥たちには魔力が人間よりハッキリ分かるの。こうすれば見える」

「へぇ、オレよりも使いこなしてるな」


 ダンジョン外には鳥型の魔物を解き放っており、そいつらが映像を見せてくれる。

 ただ、オレはそれだけの用途でしか使っていなかったが、どうやら生物の特性を活かしたこともできるようだ。

 カミ子に任せて正解だったようだ。


「結構ゴブリンを追って来たな」

「適度に攻撃を受けるように言ったからね」

「なるほどな」


 ゴブリンを討伐する依頼であるならば、冒険者も弱った獲物は取り逃したくないだろう。

 あと少しという状況が行動を駆り立て、冒険者たちを誘い込んだという訳だ。


「気づいたか」

「どうする?」

「森と草原の境目付近に居るゴブリンたちに中心に向かうように伝えてくれ。オレも向かう」

「分かった。状況は念話で伝える」


 冒険者たちが引き返し始めたところで次の行動へと移る。

 オレはすぐに部屋を出てダンジョンへと向かう。

 そこからダンジョン入り口までノンストップで走り続ける。


(まだ冒険者たちは歩いて引き返してる)

(了解。中心に向かって来るゴブリンたちとの接触はどれくらいだ?)

(うーーん、後少しで視認できるかも)

(了解)


 オレはそこで、全身に流れる魔力の割合を意識的に変えた。

 上半身に三割、下半身に七割。

 ギリギリ姿勢を保つために上半身に三割回した。


 地面を蹴ると、通常の五倍以上の距離を跳び逆足が地面に着く。

 しかも放物線を描くのではなく直線的に前進するため、高速で移動が可能となる。


(もう視界に入ると思う)

(了解。ゴブリンたちには囲むだけで攻撃しないよう言ってくれ)

(分かった)


 カミ子との念話を終え、冒険者たちを捕えることに意識を向ける。

 ゴブリンたちが足止めしてオレが気絶させる。

 そう作戦を立て、視界に冒険者が見えるのを待つ。


「何なんだよ! これ!!」


 男の声が聞こえる。

 すぐそこに居ることがわかり、オレは更にスピードを上げる。


「冷静に! この数と動きから見ても統率者が――――」


 ドサッ――――。


「統率者が居る。大正解」

「何だ!? どこから現れたっ、お前!」

「話はあとだ」

「ちょ、ま――――」


 ドサッ、ドサッ――――。

 冒険者五人を気絶させる。


(持ち場に戻るよう伝えてくれ)

(分かった)


 カミ子に念話をしてオレは五人を魔力で覆い、共に瞬間転移する。

 その際、はじめからこの方法が良かったんじゃないかと反省した。


 ダンジョン内に戻ると、カミ子にフロアを三つほど増設させ、女二人、男二人、男一人で隔離した。


 気絶している間に五人の記憶を覗き見て、常識や価値観、流行などの情報を得る。

 その後、五人の体から血を少し抽出し、魔力と合わせてクローン体の生成を始めた。


 ただ、フロアが足りなかったため、クローン生成フロア、実験フロアの二つを増設し、計五つのフロアを使うことになった。


 記憶の閲覧が終わると、男一人のフロアを改造フロアとし、実験フロアに女二人を移動させ、残り二つのフロアを人間生産フロアとして男を一人ずつ配置した。


 クローンができ次第計画が進む為、それまでは最強格のゴブリンに食事の運搬をさせ、脱出を諦めさせる策を実行した。


 ただ改造フロアに関しては、少し上のレベルのゴブリンと戦闘させ、一人の男を狂戦士にする計画を始めた。


 五人の冒険者には奴隷契約も結んである為、見落としがない限り逆らうこともないし、困ることはないだろう。


 後は獣人たちの討伐。

 そこに向けてオレは襲撃の準備を淡々と続けた。

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