第35話 再会した日常




 森の浄化を終わらせると、離れた所に待機する獣人の元へと向かった。


「浄化」


 異質な魔力に当てられた者たち三人に、魔法を使い治癒を行う。

 三人はたちまち意識を取り戻し、力強く立ち上がった。


「すごい……」

「あと一人が戻って来たら帰還する」

「「はい」」


 揃った返事を聞き、残して来た男を待つ。

 数分。男が近づいて来て全員が揃う。


「これより帰還する。拠点にて点呼を行い報告に来い」

「了解です」


 そこでオレは一人早く拠点へと走り向かう。

 それに続いて他の者たちが移動を開始する。


 その後、何事もなく拠点まで辿り着き、洞窟へと進入して部屋へと向かう。


「ただいま」

「おかえり」


 オレの帰還にカミ子が言葉を返す。

 どうやらまだ回復していないようだ。

 もしかしたらこのまま引きこもりコースかもしれない。


 そうならないように努めたいが、どうするべきかわからない。

 ただこういった時は、動かないことがよくないと思う。


「カミ子、ダンジョンの領域拡大計画を手伝ってくれ」

「いい……」

「いいから来い」

「……」


 カミ子は、誘いを一度断る。

 しかし、断っても折れないことを理解して、仕方ない感じで体を起こして横に来る。


「これから拠点を空けることが多くなるかもしれない」

「……」

「いいか。オレがいない間はカミ子、お前にここを任せる。一人執事的な奴も用意する。頼むぞ」

「分かった……」


 カミ子は何か言いたげだったが、何も言わずに了承した。

 一人で全てやりたかったが、正直手が回らない。

 裏切った奴らの所に襲撃しなければならないし、領域を拡大し、都市を牛耳ることもする。


 気のおける仲間、奴隷。そんな奴らを引き入れる必要がある。それは自分の目で確かめたい。今行なっている簡単なものは、引き継ぎに口を出すだけにする。


 カミ子以外にも、オレ自身の血と知識を分け与え、従順に動かせる手足を増やす。

 どうやって世界を支配するか、どうやって影響力を拡大させていくか。そこに注力出来れば、すぐにでもこの世界を支配できるようになるだろう。


 そのように、ダンジョン、領域の確認をしながら考えを進めていると、ある変化に気づいた。


「広がり方が異常だぞ……」


 ゴブリンと思われる魔力反応が地図上で所狭しと広がり、記しておいた領域図を遥かに越えていた。

 ゴブリンの脅威を感じる。


 繁殖力が高く成長速度も速い。

 この特性は馬鹿にできない。

 むしろ最強へと至れるものかもしれない。


⦅領域を更に広げろ。人間の住む都市が確認できる所まで進め⦆

⦅了解しました⦆


 すぐにゴブリンリーダーに指示を出し、領域の拡大と棲家の構築を進ませる。

 しかし、ここで一つ不安要素が生まれる。


 このまま数が増えると、人間にバレる可能性がある。


 そう思い、起きる可能性のある状況を考える。

 数が増えると人に見られる可能性が高くなる。

 そうなると討伐対象になり、ゴブリンの数の多さに人間に標的にされてしまう。

 そうなれば、ダンジョン含め領域に侵攻されてしまい計画が破綻してしまう。


 解決するには、数の現状維持、もしくは減少が必要になる。しかしそうなれば戦力が落ち、緊急時に不利になる。

 この二つを満たす考えが必要になる。


 オレはテーブルの角一点を見つめ続けながら、脳内で様々なことを考えは捨て、考えは捨てて策を生み出す。


⦅追加で命令しろ。一つ上のレベルになるまで繁殖を止めさせろ⦆

⦅了解しました⦆


 反発の可能性も考えたが、産み出したのがオレである為そこは絶対服従ですんなりと話が進む。


 目をつけたのは、レベルの高いゴブリンから産まれるゴブリンの先天的な特徴。

 レベルの高さと強さだ。


 どうせなら強い個体を集めて集団を形成したほうがいい。

 それにこれは実験でもある。


 これまでは、自由な繁殖で制限が無かった。

 ゴブリンはほぼ毎日行為を行う程に盛んであるため、ストレスがほとんど無い状態だ。


 ただその状態で強い個体が産まれるのなら、適度にストレスをかけ、より意欲的に繁殖を行えば何か起こるのではないか。そう考えた。


 結果は後日わかるため、ひと段落つけてカミ子に尋ねる。


「今みたいにゴブリンリーダーに指示を出す。先を予測することも大事だ。出来るだろ?」

「まあ、そんなに難しく無さそうだし……」

「とりあえず、一体ここにゴブリンを召喚するといい。権限は渡しておいた」

「わかった」


 もうそろそろ獣人たちが訪ねてくると思い、後はカミ子に任せる。

 余程のことがない限りカミ子がミスを犯すことはないだろう。


 オレはソファから立ち上がるとそのまま部屋を出た。


「丁度良かったな」

「……はい」

「全員いるか?」

「はい、問題ないです」

「そうか。では、これから休養を取り、各々鍛練に励むように」

「「はい」」

「何かあればまた念話で伝える」


 息を切らせて来た獣人たちを帰らせ、無事調査を終える。

 その日はそれ以上何かをする気が起きず、ボーッとして過ごした。


 調査が終わり三日が過ぎると、獣人たちは元気を取り戻し、仕事や鍛練に励んでいた。

 子どもたちは笑顔を取り戻し遊んでいる。


 ただ問題はまだ残っている。

 裏切った獣人たちの始末をしなくてはならない。

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