第五章

第37話 領域外




 遠征の準備が整い、獣人との契約が破棄された場所に向けて出発する。領域の端。目印の大樹までのんびりと向かう。


「しかしあれだな。一度裏切った奴らは高確率でもう一度裏切るな」


 短い期間で起きた裏切りの連続。

 始めはカノ。次にそれに与していた獣人たち。

 全員とは言わないが、九割ほどがそんな感じだ。


「目的言ったのもダメだったな」


 狼族の長二人に伝えた時のことを思い出して反省する。

 あの時伝えたことで、自分たちにも出来るのではないかと希望を持たせてしまった。


 今後は目的を話さず、人選を慎重に行う。

 少し緩くやり過ぎだったのかもしれない。

 ゲーム感覚を抜いて、この世界に没入しよう。


(カミ子、留守を頼むぞ)

(わかった)


 大樹に到着し、いよいよ領域外へと足を踏み入れる。

 カミ子に頼むと言ったが、極論オレ自身が生きていればやり直しは効く。


 冷徹な考えかもしれないが、その方が気が楽になれる。

 契約が破棄された場所を共有地図を開いて改めて確認する。


「北西か……」


 果ては判明していないが、拠点からその位置に目的地がある。

 マサキたちと居た場所も近いため、道中寄ってみるのもいいだろう。


 共有地図を閉じ、前へ踏み出す。

 しばらく周囲を観察しながら進み、領域との違いを把握していく。


 自由に生え伸びる木々。以前見た猪の魔物が印象深い。

 より生命を感じる雰囲気をしている。

 ただそれぐらいの違いしかなく、改めての驚きはない。


 始めの数分でそれを感じ取ったため、旧拠点のマサキたちといた場所に向けて走る。


「ふぅぅ……」


 近づくにつれて簡素な建物が見え、旧拠点に到着したことを理解する。

 どうやらマサキは建物を壊すことなく旅に出たようだ。


「ま、誰も居ないな」


 魔力探知を使い反応を見るが、反応は小動物のみ。獣人たちの痕跡は無い。

 それが判明すると、何も漁ることなくその場を後にする。


 その後、道中でマサキや獣人たちが居た痕跡を見つけ、それを辿りながら進み続けた。

 テントらしきものや獣の革、マサキの魔力に獣人たちの魔力反応もあった。


 それを繰り返して行くと、一つの村に辿り着いた。

 遠目から見ても数十人が暮らしているのがわかる。

 マサキや獣人たちも村を通ったのだろうか。

 ふと、そんな疑問が浮かぶ。


 ただ考えても仕方ないことだと即座に答えを出し、村に向かって歩き出す。

 マサキと獣人たちが来ていないにしろ、近辺で何か起きた等の情報は聞けるはずだ。


「すいませーん」


 村近くまで行き声を掛ける。

 少しだけ聞こえていた話し声も一瞬にして無くなり、そこには自分の息遣いと掛けた声の余韻が残っていた。


「すいま」

「どうしました?」

「うおっ!?」


 いつの間にか近くに来ていた人に驚く。

 視界に入らない動きに警戒せざるを得ない。しかし、それを出せば相手も警戒してしまう恐れがある。

 一息つこう。


「ふぅぅ……」

「申し訳ない。すんっ。驚かせたようだ」

「いえいえ。こちらこそ、突然の訪問申し訳ない」

「構いませんよ。すんっ。それで、何用ですか?」


 軽く挨拶を交わし本題に入る。

 相手が尋ねて来たため聞きやすい。


「お聞きしたいことがありまして。この村に獣人の集団が来ませんでしたか?」


 マサキたちは今回の事に関係ない為、それを省き尋ねる。

 すると一瞬、張り詰めた空気を感じた。


「獣人の集団……すんっ、来ましたよ」


 含みのある言い方。

 掛ける言葉によっては……よし。


「私は奴らを追ってまして、何か知っていることがあれば教えて頂きたい」

「ええ、いいですよ。すんっ、奴らは一瞬ではありましたが襲撃して来ました」

「そんな事が……」

「はい。すんっ、しかし戦える者たちがいたためなんとか撃退に成功しました」

「それは幸いでしたね。奴らはどこに向かいましたか?」

「すんっ、向こうへ」


 そう言葉を告げ、村人はある方角を指差す。


「分かりました。協力ありがとうございます」

「いえ、力になれたのならそれで」

「では、私は行きます」

「お気をつけて」


 村人は止めることもなく見送った。

 見知らぬ人間にそこまで深くは接しないか。


「しかし妙な話し方だったなぁ……」


 村からある程度離れて言葉を溢す。

 口に出して改めて思い出すと、やはり妙な話し方だ。


「鼻を啜る感じかな。すんっ」


 一度だけ真似して考察を開始する。

 鼻を啜る行為はあまり自然なことでは無いはず。鼻炎持ちとか、アレルギー的な反応、風邪という場合もあるが、この森であった人間にそんな人間はいなかった。


 ただ会っていなかっただけで、この世界にはそういう人が普通に暮らしているのかもしれない。

 それは否定できない。


「ただなぁ……雰囲気というか何ていうか。一瞬の緊張感も妙だしなぁ……」


 不自然な所が気になって可能性を否定し、見つけた答えを正解にしたくなっている。

 契約が破棄された場所は少し先。普通ならさらに奥へ進んだと考える。

 しかし、オレが獣人に抱いている印象を考えれば、頭のキレる奴が統率して行動している。となれば……。

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