第38話 獣人の村




 ザザッ――――と、微かに聞こえた音を拾い、刺客が来たことを知る。

 警戒心を高め、いつ来てもおかしくないよう神経を尖らせる。しかし、先程までと変わらない様相を保つ。

 タンッ――――。


「クッ……!!」

「ダメダメだよ」


 背後から迫る拳を余裕で回避し、自らの拳に魔力を込める。空中を舞う村人の慣性を考え、少しの反動だけで済むよう調節したパンチを腹に打ち込む。


「ハッ……」


 続けて指を開き真っ直ぐ伸ばす。指に力を込め、先と同様に魔力を込めて喉目掛けて手刀を振る。

 しかし、村人は咄嗟に顔を上げることで重心を後ろに下げて回避する。


 村人はまだ地面に足をついていない。そこを狙い、オレは足を破壊することを決め行動に移す。

 拳を放ちながら、地面に様々な大きさの氷を出現させ、不安定な足場を作る。


 村人は拳を避けることに必死で下を見ていない。それに、丁度着地する瞬間に完成するよう調整する。

 その結果――――村人はバランスを崩す。


 オレはそこを逃さず攻撃を仕掛ける。喉をつぶすため首に拳を、足を破壊するため膝と足首に魔法を放つ。


 一瞬の隙を見せてしまった村人はなす術なく全ての攻撃を受ける。拳からは適度な打ち心地の良い感触が伝わる。

 チラッと下を見れば、無数の氷槍に貫かれた足から血が止まることなく流れ続けており、地面の色は見えなくなっていた。


 魔法を解いて氷槍を消滅させる。すると村人は前傾に倒れ掛ける。氷槍によってギリギリ姿勢を保っていたみたいだ。


 落ちてくる顔面に拳を合わせ、背後の木にぶつける。ドンッ――――。

 木は折れることなく村人をしっかりと受け止める。


 村人はそのまま滑り落ち、力無く木に寄りかかるようにして地面に座る形となった。


「さてと、一旦ここを離れるか」


 獣人に姿を変えた村人を見て、すぐに仲間が来ると予想したオレは、距離を取り次の展開に態勢を整える。


 すんっすんっと鼻を鳴らしていたことからも獣人は鼻が効く。アレは恐らく獣の時の癖。

 獣人は獣と人間のいいとこ取りみたいな所があるため、可能性を否定してはやられてしまう。警戒して損は無いはずだ。


「どうしたっ……!?」

「ひゅ……ひゅ〜」

「おい! 急げっ、村に運ぶぞ!」

「わかった!」


 三人の村人が獣人を見て慌てている。

 さて、どう行動したものか。

 物音がしてと嘘を吐き近寄ってみるか。高速で駆け寄り村人を殺すか。このまま成り行きを見守るか。


 一瞬のうちに幾つかの案を思い描き、それを全て却下する。

 近くに落ちた石ころを三粒拾い、それぞれに魔力を込め圧縮していく。


「丁寧に運べよ」

「ああ、わかってる」

「よし、いくぞ。せーのっ……」


 瞬間。運ぶ様子を見守る村人の頭が爆散する。

 勿論、オレの仕業。


「は?」

「え?」


 獣人を運ぶ村人二人は何が起きたか理解不能。ただその一瞬の隙。残り二つの石の弾丸はそれぞれの頭を吹き飛ばした。


 ベチャ――――。

 血濡れの獣人は落下して嫌な音を立てる。

 魔力反応が無くなり、それで死んだことを確認した。


「待つのは面倒だな。襲撃しよう」


 村人を待つことが面倒になり、死体を持って村に襲撃する。オレはそう決めると、死体を魔力で纏めて持ち上げる。


 四人の人間を持って行くにはかなりの力が必要。そのため実際には持たず、自身の魔力と空気中の魔力をコントロールして運ぶ。


 村の出入り口に死体を放り投げる。ドサッビチャッ――――と音を立てる中、オレは村の反対方向まで迂回して向かった。


 作戦としては、村人が死体に気づき騒いでいる隙に、後ろ側から村ごと氷漬けにすること。一瞬の出来事に誰も理解できずに死ぬ。証拠も残さない。


「警戒しろ!」

「男どもは出てこい!!」


 早速死体に気付いたようだ。

 森に身を潜めていたオレは、作戦通り騒ぎの裏から村へと侵入する。誰もが目を騒ぎの方へ向けている。


 それを確認し、村全体を覆う氷魔法を放つ。

 ザッ――――と一瞬音が鳴り、沈黙が訪れる。どうやら端まで凍ったようだ。


 村の中へ進入しながら氷を粉々に砕いていく。その中で二人。カップルらしき男女の氷を解いて他獣人の居場所を聞く。


「獣人はこれだけじゃないだろ? 他の奴らはどこにいる」

「ち、散り散りに……」

「そうか」

「た、助け、て」


 男が答え、女は助けを乞う。

 目障りで耳障りなため、もう一度凍らせ村全域の氷を粉々に砕いた。


 建物すらも衝撃で粉々になり、村として機能していた場所には何一つ残らず更地となった。

 一集団の粛清は済んだが、他にも獣人が逃げ延びているため、それを探すところから再スタート。


 まとまって暮らしていると思っていた部分もあり一人で来たが、この現状では捜索に時間を取られてしまう。


「召喚」


 それを補うため魔物を召喚し、そいつらに探させる。呼び出したのは狼と鳥型の魔物。この世界で見た生物で機動力のある者が狼と鳥型の魔物しかいないため仕方ない。


 血の残り香だったり生活臭が森にも少しは残っているはずだ。狼にはそれを頼りに探してもらい、鳥型には目の共有で知らせてもらう。

 まだ長二人を見ていないため警戒を続けなくてはな。

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