第20話 報告




 後ろに倒れる体を両手で支え、天を見上げる姿勢でくつろぐ。

 その態勢のままこの世界でのことを振り返り、オレは未来をもう一度考える。


 マサキに協力する形でこの世界にやって来た。勿論興味もあってだが。

 来て早々に村人との戦闘が発生し、組織を発足させることに成功。


 文明がどのくらいか分からないが、現実世界より少し劣るくらいで先進的そうなため、それを目指して集落の改善を図った。


 だが、その後感情を優先し別行動を取った。

 裏の支配者というのが目的だが、そこへ至るまでのモチベーションがあるかと言われれば、既に微妙なところ。


 魔法は使える。食事に困らない。衣服も住居も魔法で解決できる。

 裏の支配者を目指すとしても、既に自由であるため何をしようが構わない。


 改めて考えれば、裏の支配者へなるのは手段であって、目的は自由に行動することだったのかもしれない。


 ならば、やりたいようにやろう。

 その上で、裏の支配者になっているかもしれないが、それならそれでいいじゃないか。


「奴隷解放でもやるか……?」

「?」


 やりたいことが希薄なオレは適当に慈善活動でもしようと考える。


 こんな漫画や小説のような世界だ。

 そういった階級制度で虐げられる者たちが多くいるならそれを助けるのを目的にしてもいい。


「……るんだ?」


 やることが多くあればその分飽きもしないだろう。

 ただ、そんなことをしていれば目をつけられる。

 個人では限界が来るかもしれない。

 ならば、組織を作りソイツらにも手伝ってもらうのが良いだろう。


「何するんだ?」


 何か決めれば次々に行動を決めることができる。


 自由と言っても、やりたいことが無い者がそれを手にしても面白くはない。

 オレの場合、何かしらやることを決めて動いた方がいいのかもしれないな。


「何するんだっ‼︎」

「うおっ⁉︎ びっくりしたぁ……」

「やっと聞こえたかっ」

「ずっと言ってたのか?」

「そうだ」

「それはすまなかったな」

「いい。それで何をするんだ?」

「ああ……」


 オレはカミ子の問いを聞き、先のことは言わずこれからやることを口にした。


「とりあえず、仲間を増やしながらこの先の洞窟っぽいところを探索する」

「仲間か……」

「何かあるのか?」

「……獣人でいいなら、数は見つけた」

「おお! それはさっきの探索で見つけた感じか?」

「うん」


 幸先の良いスタートに少しばかり気分を高揚させ、カミ子の頭を撫でる。


 その際は勿論手に清潔の魔法をかけて行った。

 土がついた手でやればどうなるか分からないからな。


「そういえばお前の報告を聞いてなかったな。さっきのも含めて教えてくれ」

「わかった」


 カミ子は返事をして雰囲気を変えると、探索の詳細を話し出す。


「ヒロトも分かったと思うけど、集落近くのような環境が続いていて、その先には環境がガラリと変わっていた」

「ああ、見たな」

「我はその奥には行かずに、周辺を探索することにした。すると、すぐに獣たちの縄張りを幾つか発見した」

「それがさっきの話だな」

「そうだ。その後も探索を続けたがそれ以上の情報は無かった」

「そうか、ありがとう」


 改めて報告を聞いてみたが獣が多くいること以外には何も得られなかったようだ。

 まあ、オレ自身も洞窟以外は何も無かったため人のことは言えない。


 とりあえず、話にあった獣たちの種類を聞いておこう。

 食べることのできる獣を獣人化しても食料不足になってしまうからな。


「それじゃあ、獣の種類を教えてくれ」

「我と同じ狼が二種。鹿も二種。猪は一種で数が多かった」

「そうか……狼は食べれないから鹿と猪を残すか」

「いや、鹿の一種は食えるような者ではない」

「なるほど。なら、狼とその鹿を獣人化させよう。案内してくれ」

「了解した」


 カミ子の話を聞きすぐに行動に移す。

 休息は十分取ったため体力に問題はない。


 カミ子を創造したことによってレベルも魔力量もかなり上がっている。

 それに、獣人化がスキルとしてステータスに表記されていたことが大きい。


 調べてみれば、スキルは魔力操作や難解な魔法を簡略化、体系化し、消費魔力を軽減する仕組みで成り立っていると判明した。


 魔力量が増えて、獣人化のスキル化で消費魔力の削減が起きた。

 数が居ようが関係なくなったのだ。


「あそこだ」


 カミ子が止まり、林の奥を指差し小声で呟く。

 オレはその動きを見て同じように足を止め、指が差し示す方向に目を向けた。


「……デカいなぁ、あの鹿」

「この森の主と言ってもいいからな」

「何故だ?」

「あの鹿には狼でも勝てないからだ」

「なるほど。それはいい仲間を手に出来そうだ」


 カミ子の話を聞いて、更に鹿を仲間にしたい。そう思った。

 ただ、そこでやるべきことを思い出した。


「殺さない程度に気絶させないとなぁ……」


 カミ子の時と同様に、命をこちらで握らなければ獣人化は発動できない。

 それを思い出して、オレは使うべき魔法を選択する。


「じゃあ、ここで待っててくれ」

「分かった」


 カミ子に指示を出し、オレは草の茂みを抜けて鹿の前に姿を見せる。

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