第24話 本拠点




 暗い階段を昇り、地上一階の洞窟へと移動する。

 マップも完成しているため、迷うことなく洞窟の入り口へと到着する。


 周囲の景色は不気味であるが、地上に出ることができて清々しさを感じる。

 陽が差して、青い空を見上げることができたらより気持ちよかっただろう。


「はぁぁ……行こう」


 意味もなく伸びをして、カミ子の元へと歩き出す。

 探知がスキル化し、少量の魔力消費で居場所を特定できるようになり、より使い勝手が良くなった。

 カミ子の周りには多くの魔力反応があることから、他の獣人たちと一緒にいることがわかる。


「どれほど統率できてるかな」


 短時間であるがオレの知識もあるためある程度は様になっているだろう。

 そう予想して、期待しながらその場へと向かった。


 鬱蒼とする草木を掻き分け反応がある場所へ顔を出す。


「ヒロト……」

「どうだ?」


 少し不安を感じるカミ子の声を聞きながら成果を尋ねる。

 何か問題が起きたのは明白。

 それが何かは聞かないと対処出来そうになさそうだ。

 カミ子が居ればある程度のことなら対処できるが、今回は違うようだ。


「それが……カノがね……」

「カノがやったか」


 オレは分かっていたかのように振る舞う。

 疑ってはいたが、本当に何か起こすとは思っていなかった。

 程度によるが、罰を与えねばならないな。


「カノはどこだ?」

「来るよ……」

「?」


 一瞬意味が分からずカミ子の言葉を反芻はんすうする。

 来る? 確かにカミ子の周りには人が居なかった。

 洞窟では周りに魔力反応があったが―――そういうことか。


 オレは考える途中でカミ子の言葉を理解し、カノが起こしたことを把握した。


「どうも主よ。いや、ヒロトさん」

「理由を聞こうか」

「理由? そんなの簡単です。私が貴方に負けていないのに従わされてることが気に食わないからですよ」

「……」

「言葉も出ませんか。まあ、そうですよね。私が寝ている隙に獣から獣人に変え、勝手に契約して従者にしたのですから」


 カノはペラペラと言葉を放ち、自分が正しいことを告げる。

 少し事実とは違うが大体は合っている。

 後ろに控える狼種の獣人たちも賛同しているようで、オレに敵対心剥き出しで睨みつけてきている。


 全く。カノがここまで愚かだとは思わなかった。

 森の主として生きてきたプライドがそうさせているのかもしれない。

 この森は自分の物である。そう主張しているようだ。


「そうか。じゃあ、お前たちを元に戻せばいいか? 契約も破棄すればいいのか?」

「はぁ……その前にやるべきことがあるでしょう」

「無いな」

「謝罪ですよ! 謝罪っ‼︎」

「何に謝るんだよ。オレは何も間違ったことはしていない」

「この状況でその態度ですか……呆れますよ」


 オレの反論にカノは額に手をやり頭を振る。

 どうやら完全に自分が正しいと思い込み、都合の良い解釈だけを信じているようだ。


 これを説得するのは骨が折れる。いや、それは面倒だな。

 必要なのは優秀な一人の従者ではない。

 こうなっては仕方がないが、実行するしかない。


「で、お前たちはオレを裏切り敵対する。でいいのか?」

「ええ。それで間違ってませんよ」

「そうか。死ね」


 オレは言葉を吐き捨てカノにのみ氷魔法を放つ。

 しかし、カノはそれを間一髪で回避し、こちらを睨んでくる。


「いきなりとは……やはり貴方に従うのはごめんですね」

「こちらこそ、お前は要らない」

「っ……‼︎」


 カノは怒気を露わにして鋭くこちらを睨む。

 ただ、そんなものに怯える訳もなく、オレは他狼種たちを氷のドームで囲み逃げられなくする。


「くそっ……出せよ!」

「出して! 寒いわ!」


 声が響いてくるが無視を決め、オレはカノと一対一で対峙する。

 カミ子はそれを離れて眺めている。

 全力で戦えそうだ。


 結局獣の時のカノに全力を出すことはなかったため、今回は良い機会と割り切りオレの能力を把握するテストにしよう。


「多対一が怖かったのですか?」

「いや、アイツらは今後必要になるからな。お前と違って」

「なるほどなるほど。そういうことでしたら私も全力を出しましょう」

「ああ、そうしろ」


 カノも覚悟を決めたのか、全力で相手をすることを告げた。

 それが本音かブラフか判断つかないが、どっちにしろ命を奪うためどうでもいい。

 戦ってくれた方がマシという程度だ。


「舐めてるとすぐに死にますよ」

「いいから来い。ノロマ」

「……殺すっ‼︎」


 カノは目を血走らせて突っ込んでくる。

 そのスピードは速く、短時間で人体を使いこなせているようで感心する。

 しかし、それだけ。オレは簡単に回避し反撃を与える。


 拳を握り鳩尾へと打ち込む。

 メキッ―――と、カノの体から音が鳴り、突っ込んできた道をなぞるように後方へ吹き飛んでいった。


「こんなに弱いのに現実が見れないか?」

「かっ……はあっ……」

「さっきのお前の発言だと、この状態でもお前が強いということになるが……どうだ?」

「くっ……」


 カノは苦悶の表情を浮かべ、何とか体を起こす。

 それを見ながらカノが取るであろう行動の可能性を考える。


 ここから考えられるのは三つ。

 一つ目は、ここで謝罪し許しを乞うこと。

 二つ目は、無謀にもオレに向かってくること。

 三つ目は、逃走すること。


 どれを選んでもオレの回答は変わらないが、カノは何を選ぶだろうか。

 オレは狼種の周りに出現させた氷を消滅させ始める。


「おあ、氷が……カノ、さん」

「え、うそっ……」


 満身創痍のカノを視界に入れて獣人たちが嘆く。

 コイツらも教育が必要なようだ。

 まあ、カノの最後を見て改心すれば良しとするか。


 オレは氷魔法を空中に発動して、無数の氷の弾を展開する。

 逃げようが仕留めるための対策を取っている。カノにそう告げるように構えた。

 カノもそれを理解したのか、ゆらゆらと立ち上がるとオレだけを見据えて突撃してくる。


 逃げられないのなら一矢報いる。そう選択したのだろう。

 しかし、そんな甘いことはない。

 右手を挙げて氷弾を撃ち込む姿勢を作る。

 カノはその瞬間、強く地を踏み込み速度を上げた。


 ただ、次の瞬間。カノは地面から鋭く伸びる氷槍に体を貫かれた。

 一本が体を貫通すると、続けて近場から何本もの氷槍が飛んでいき、その全てが体を串刺しにした。


「お前の経験値は貰う」

「……」


 話しかけた時には既に、カノは息を引き取っていた。

 オレは討伐で得た経験値以外に、カノ自身が持っていた経験値を奪う。


 無属性魔法。強奪。

 カノの頭に触れ、光となった経験値が出現し、オレの体へと浸透していく。

 レベルはC2となった。


「さて、もう一度言うからちゃんと聞けよ」


 オレは呆然とする獣人たちに向き直り告げる。

 ビクッと体を震わせ全員がオレを注視する。


「オレに従え」


 返事は無かったが表情が緊張していたため、裏切ることはないだろう。

 今後は飴と鞭でオレについて来ればいろんなことを享受できると思わせていこう。


「カミ子。コイツらを洞窟前まで連れてきてくれ」

「わかった」


 すぐにオレはその場を後にし、拠点となる洞窟へと向かう。

 今後アイツらにやって貰うことはもう決まっている。

 必要な魔法、スキルを習得させる施設を作り、それを説明しなければならない。


 オレは洞窟へ着くなりすぐに地下へ降り、隔離したダンジョン階層を一つ作って居住スペースの下に設置した。

 ダンジョンへ繋がるドアとは別で、右手に階層を降りる階段も設置した。


 ダンジョンへ繋がるドアを正面から見て、左手にオレのダンジョン管理室兼私室。右手に階層を降りる階段、という設計にした。

 後の殆どの空間は、黒狼種と灰狼種の獣人たちの居住スペースとする予定だ。


 オレは階段を昇り、カミ子たちの到着を待つ。

 これから獣人の男たちには「探知」と「マップ作成」を覚えて貰う。

 女には子を産む準備をしてもらいつつ、生活魔法と創造魔法を習得して貰う。


 建築や食料に関しては別の案を考えているため、それも加えて説明しなければならない。

 やっと始まる感じだ。

 そんな充実感を得ながら、その後もカミ子たちを待った。


 待つこと約十分。

 ようやくカミ子が姿を見せ、その後ろに獣人たちが続く。


「遅くなった」

「理由は後で聞く。黒と灰の長を連れて来てくれ」

「分かった」


 オレはすぐに洞窟内へ戻り、居住スペースとなる階層へ移動した。


「ここは……」

「来たか」

「な、なんだ、ここは……⁈」

「広すぎる。地下にこんなところがあったとは……」


 二人の長が驚き階層を見回している。

 カミ子はすぐにオレの隣に来て待機していた。

 そこで口を開く。


「お前たちが各種族の長でいいんだな?」

「如何にも」

「その通りだ」


 二人はオレの声を聞き階層の観察をやめた。

 正直トップが使い物にならなかったら、なんて考えてたからマトモな奴らで助かった。


「今後はオレ、もしくはカミ子がお前たちに指示を出す。それを各種族に共有する役目をお前たちには担ってほしい」

「そうですな。その方が効率が良さそうですな」

「異論はない」


 その答えに一つ頷き、話を続ける。


「では、今から言うことをそれぞれ共有し行動せよ」


 オレはそこから考えていた案を二人に伝え、早速行動に移させた。

 二人は始めいぶかしげだったが、後々説明を聞いていくことで納得して階段を登って行った。


「ついて来い。カミ子」

「うん」


 二人の姿が見えなくなると、オレは歩き出しカミ子を呼んで私室に向かった。


「何だ? ここは」

「オレたちの家みたいなもんだ。だがまずはこっちだ。ここに座れ」

「……うん」


 オレはダンジョン運営をするために水晶の前に座る。

 カミ子にも操作して貰うため、オレの股の間に座るように指示して説明を聞かせる。


 これから行うダンジョン運営は次の二つ。

 一つ目は、ゴブリンの生成。

 二つ目は、そのゴブリンたちで永久に回せるようなシステムの構築だ。


 労力としては、最初のゴブリン生成と生み出されたオスとメスにそれぞれ指示を出すことだ。

 オスには外界へ出て獲物を取ってくること。

 メスにはオスを誘惑して子を作れと指示した。


 獲物は生け捕りが好ましいと伝え、その獲物を捕らえた者たちだけと行為に及べと加えた。

 始めは腕っぷしの強い奴らだけが交配を行うが、後々工夫をする者たちがそれに加わると見込んでそういう指示にした。


 自分たちの寝床や棲家も後々工夫を凝らし始めると思うし、最終的には人間のようになってもらいたい。

 そこまで行けば、このダンジョンのゴブリンはそうそう殺されることもないだろう。


「これで終わりか……?」

「ああ。後は日々改善してより良くするだけだな」

「そうか……」

「ん? どうした?」

「いや、何でもない」

「そうか」


 カミ子との会話を終え、その日の活動を終える。

 カミ子に少し引っ掛かりは残るが、対処できなくなったら頼ってくれるだろう。

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