第23話 攻略
呼吸を整え、掌を装置へと重ねる。
ひんやりとした感覚が広がり、次の瞬間には目の前の壁が横にスライドし始める。
音に反応して何かが飛び出してくるのではないか。そう考えてしまい、剣に手をかけ迎撃の態勢を取る。
しかし、壁のスライドが終えても、目の前には何も現れなかった。
オレはそれを確認すると、何事も無かったように開けた道を進んで行く。
魔力の反応はもっと先。
腰の鞘から剣を引き抜きいつでも戦闘になってもいいようにしておく。
光源を前に移動させようとして、先に光があることを確認すると、オレは魔力消費も考えて光源を消す。
ダンジョンに元々ある光は薄暗く感じるが、別に光源を用意するほどでもないため、活動に影響はないだろう。
「来たか……」
マップに反応する魔力反応を見て戦闘の準備をする。
いつの間にかマップ作成に加え、探知らしき能力も発動していることに気づく。
ステータスのスキル欄を見れば、探知、マップ作成が追加されていた。
直線の道を歩き、突き当たりを注視してやって来る魔力反応を警戒する。
人であれば話しかけ、魔物であれば命を奪う。
もう道の分岐に差し掛かる。
瞬間。
見えたのは緑の肌に長い指、指先の爪は茶色く汚れ不潔さを感じさせる。
オレはそれが見えた一瞬、地を蹴りそのまま突き当たりの壁に突撃し、壁に足で着地して目の前の生物に目を向ける。
「ギギ?」
毛のない全身緑の小鬼。ゴブリン。
人の倍はある目玉を突出させ、ギョロッとこちらを見るそれは不気味さを与えてくる。
ただ、恐怖は感じない。
レベルが違い過ぎることや事前にそんな生物が存在すると知っているからだろう。
ただ、この世界で誕生し、初めて見るのであれば話は変わっただろう。
オレは手に持つ剣に力を込め魔力を流す。
壁を強く踏み、勢いそのまま小鬼の首を剣で撫でる。
肉を割く感覚が手に伝わり、硬い感触がして骨に到達したことを知る。
更にそこで力を込め、腕を振り抜き再び肉を割く感覚が伝わる。
小鬼の叫び声は聞こえる間もなく、ただ手に伝わる感覚だけが残った。
「これはハマりそうだなぁ……」
現実世界では味わえない完全悪を葬る快感がオレの全身をめぐる。
気にすることもなく、思いっきり力をぶつけることのできる生物を見つけ、オレはすぐに次の個体を探した。
さっき見たマップにはかなりの数の魔力反応があった。
経験値を貯めてレベルを上げつつ虐殺を行える。
その考えが過り、オレはいつの間にか足を動かし走っていた。
曲がり角の先に魔力反応があり、魔力量から小鬼であることは理解した。
先程同様に地を蹴り一瞬で壁に到達し、それに目を向ける。
目の前には予想通りの小鬼が一体。
ただ、その小鬼の後ろに別の三体が列をなしていた。
魔力反応を見逃していたことを反省するが、少しの恐れもなく目の前の一体の首を刎ねる。
その勢いのまま二体目の胴を両断し、三体目を縦に切り裂く。
そして最後に、四体目の胸に剣を突き刺し頭部に向かって振り上げる。
ボトッ―――と、胸から頭部にかけて二股に分かれた小鬼が倒れ、戦闘の終わりを告げた。
「足りないなぁ……」
脳内物質が出ているせいか、この快楽を途切れさせたくない思いが強く、オレは次の相手を探す。
このまま攻略してしまうか……?
そんな思考が過ぎる。
それに対してオレは無意識に肯定し、ダンジョンをどう攻略するのか魔物を探しつつ考え始めた。
出てくるのは小鬼ばかり。
階層が幾つかあるのなら、まだ現階層は小鬼のレベルということになる。
とにかく下に繋がる道を探そう。
オレはダンジョンに出現すると思われる財宝を無視して攻略のみに重きを置いた。
そのため、マップ作成を行いつつ下への道が無いと、目の前に宝箱があろうと目もくれず別ルートへと向かった。
その結果、すぐに下へと繋がる階段を発見。
それをすぐに降りて行き、更に下へと移動していった。
「結局
計五回階段を降りてそれぞれの階層を探索した。
地下一階からだったため、地下六階層までを探索した。
地上を合わせると七階層からなるダンジョンとなる。
現れる魔物が全て小鬼であったことが少し残念であったが、それなりに経験値を得てレベルアップした。
その点に関しては良い結果と言えるだろう。
オレの今のレベルはD4。
ダンジョンを一つ攻略したが、難易度が低くそこまでの経験値は得られないみたいだ。
より強力な魔物のダンジョンであれば、その数値も上がる。
オレはそう考察して脱出の道を探し始めた。
大体こういうのには、瞬間転移みたいな移動手段が発生するはずだ。
まあ、無ければ自分でやるまでだが。
「ん? あれは……」
最後の部屋から少し先に一つだけ小さな部屋を見つける。
この部屋に到着した時には無かったはずのエリアがマップにも記され、今やっと攻略したのだと理解する。
後は帰るだけ。その部屋へと歩みを進める。
扉の前には掌を模った装置。
ダンジョンに入る前に見たものと全く同じそれは、誰かの意図によって設置されたものだと推測できた。
地下一階にある部屋とこの部屋を作った者は同一人物。冒険者が逃げ延びた時には既に死んでいたのだろう。
その物語がどうなっていたか詳細は分からないが、大体の流れは掴めた。
装置に触れて扉を開ける。
向こうの部屋で何も無かったということは、この部屋には……。
「やっぱりな」
そこには、椅子とテーブル、片手で持てるほどの水晶が置かれていた。
ダンジョンマスター。
この役割を持つ人物が居たことが今証明された。
これも小説や漫画で読んだことがある。
恐らく水晶に触れると、この小鬼ダンジョンがオレの物になり、運営していかなければならないはずだ。
触れればここから支配をスタートさせることになる。
そこでオレは水晶に触れるべきか考える。
最も簡単と思われるこのダンジョンを、マスター存命時に攻略、クリアされていない。
そうなると、現在生存する人間ではオレだけがこのことを知っていることになる。
この世界にダンジョンがどれだけあるか分からないが、その全てを手中に収めることも可能性としてはある訳だ。
それを達成したならば、受けることのできる恩恵は莫大。
ダンジョンの魔物は、魔石や有用な部位を落とす。
これは今さっき経験したため理解している。
小鬼ではそこまで使い道が無くとも、他の魔物であれば人間社会で利益を上げるものがあってもおかしくない。
ダンジョンを手に入れることは、この世界の経済を牛耳れる一助となる訳だ。
裏の支配者ではなく世界の王になれるチャンスが目の前にある。
「掴まない訳ないよな」
オレはテーブルに置かれた水晶に触れる。
水晶はその瞬間に光を放ち、オレの手元にホログラムの操作パネルを、正面の壁に画面を映し出した。
そこには、『秘境ダンジョンの管理者に登録されました』と表示され、予想通りの展開を迎えた。
ただ、様々な説明を読む前に、この部屋を地下一階の地上へ繋がる部屋に転移させた。
「上手くできたみたいだな」
感覚的に出来ると感じてやってみたが成功したようだ。
マサキには悪いがここは秘密にし、オレもやりたいように生きようと思う。
もしかしたらアイツと敵対することになるかもしれないが、その時はその時だ。
アイツはこの世界を謳歌したい。
オレはこの世界を支配したい。
後で連絡手段と移動手段を開発して挨拶にでも行こう。
オレたちにとってはゲームみたいな物だし、この世界を遊び尽くして悪い訳がない。
ただ、流石にオレの目的は隠して接した方がいいだろう。
アイツにはオレをダイブさせないようにする権利があるからな。
当初のアイツの目的を達成しつつ、オレの目的も秘密裏に達成させる。
優先順位はあくまでもあっちが先であることは忘れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます