第53話 冤罪




 いつものように学院へ向かった俺は、何故か学院長室へ呼び出された。

 何を言われるのか分からず、多少の不安を抱きながら学院長室に向かう。


「失礼します」

「いきなりの呼び出し、すまないと思っている」


 学院長が口を開く。

 壁際には他の教師陣が並び、思いの外大きな問題であることが理解できた。


「いえ。それで、どんな用事でしょうか?」

「さて……」


 そこで学院長は口を閉ざし、ある扉の前に立つ教師に合図を送る。

 理解できない動きに困惑しつつ、話が再開されるのを待つ。


「こちらへ」

「どうも」


 扉を開く男の教師が誰かを招き入れる。

 すると奥の部屋から、一人の青年と騎士二人が現れた。

 先頭に立つ青年は、余裕の雰囲気が漂い、一般人ではないことだけ理解できた。


「呼び出したのは他でもない。彼らに要請されたからだ」

「なるほど。この方たちには、特殊な権限が?」

「その通り。彼らには、怪しい人物を取り調べする権利が与えられている」

「へぇ……」


 そこでその怪しい人物が俺自身であることを理解し、この後に起こることを想像する。

 何らかの罪に問われる。人違い。でっちあげ。このぐらいか。


「単刀直入に言わせてもらう」


 青年がこちらを向く。


「君には、チャヤナ第五王女。クルル・ド・チャヤナ様の拉致監禁の疑いが掛けられている」

「監禁?」

「ああ、そうだ」


 身に覚えがない。というか、でっち上げの可能性が高い。俺はそのことを知ってもらう為、いつ王女の拉致が起きたのか問い、その時自分が何をしていたのか話すことを試みる。


「拉致はいつ起きましたか?」

「答えられないな」

「では無実の証明ができませんが?」

「お達しだからな」


 青年は答える気がないようだ。

 公的機関であるため許される。そう思っているのだろう。常識的に考えればそうだが、今相手にしているのは別の世界を生きている人間。そう簡単に折れることはない。


「連れて行かれる場所で話は聞けるのか?」

「ああ。聞けるだろうな」

「そこで無実の場合。国に賠償金を払ってもらうぞ?」

「やってみるといい」


 さらさらその気が無いのが分かる。

 俺はそれを問いただそうと口を開きかける。するとそこで、学院長が割って入って来た。


「往生際が悪いぞ、マサキくん。何も言わずに従いなさい」

「マジかよ……」


 学院長の言い分に、思わず現代の言葉が出てしまう。

 国のルールが絶対。疑うことを放棄している。ルールに従って生きれば、行き着く果てはこんな人間になるのか。


「もういいだろ。捕えろ」

「はっ」


 騎士の二人が俺に手錠をかける。

 暴れても良かったが、商会のことを考えてそれはやめた。


(命令だ。商会、拠点の人間と俺の関係を全て無かったことにしろ。時期がくればまた連絡する)


 念話を一方的に飛ばして大人しくする。

 時間は必要。まだ暴れる時では無い。ただ、助けは必要だ。


(捕まった。チャヤナ。再度連絡。助けてくれ)


 ヒロトに断片的に念話し、すぐに通信を切る。

 商会メンバーに念話した瞬間、青年の目がこちらを向いた。魔力に反応したと考えられる為、最低限で済ませた。


 頭のキレるヒロトであれば問題ない。

 後はこのまま殺されないよう立ち回るだけ。


「それでは。お騒がせしました」

「いえいえ。助かりました」


 青年と学院長が言葉を交わし、部屋を出る。教師陣には白い目を向けられる。

 ただ学院の門までの道中、青年は正体を現す。


「いや〜、上手くいって良かったわ。何言ってるかわかんねーと思うけど、お前のおかげで俺の罪が一つ消えるわ。ありがとよ」


 でっち上げを自白した。

 分かりきっていたが、拉致監禁の犯人であることも自白した。そしてどうやら、この青年は俺をこの世界の住人として認識しているようだ。

 このまま悟られなければ、容易に脱出することも可能となる。


「いやほんと…………時期ずらして良かったわ」


 瞬間。俺の中でパズルがハマった。

 第五王女拉致監禁の犯人であり。チャヤナに現代の食べ物を広めた勇者であり。世界に侵入した犯人であることに。


「まあ、お前に残った時間を悔いなく生きてくれ」

「……」


 それを最後に青年は喋ることはなかった。

 馬車に乗り込み、しばらくして停まると牢屋へと入れられる。

 そして、朝日が昇ると――――。


「私のこの剣で悪を葬り、皆様の安寧をもたらしましょう」

「おおぉ……勇者の剣だ」

「素晴らしい」


 芝居に拍車がかかる。

 その間、俺はヒロトへ連絡する。


(ヒロト。転移して来い。侵入者が目の前だ)

(ああ)


 剣が振り下ろされる。魔力の反応。パンッ――――と、弾ける音。

 どうやら間に合ったようだ。


「アイツか」

「ああ」

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