第54話 襲撃




 間一髪のところで転移に成功した。

 少しでも遅れていたら、マサキの首が飛ぶところを目撃することになっていただろう。


「同い年くらいか?」

「いや、わかんねー」

「そうか。痛めつけるけどいいよな?」

「ああ。任せるよ」


 侵入者が飛んでいった方を見ながらマサキと会話する。この世界出身ではないため、侵入者も変に頭が回る。それを警戒して注視する。


「き、貴様らっ!! 何をしたかわかっているのか!?」


 中年の男が突然叫ぶ。オレとマサキに対してだろう。耳を傾ける必要はないが、聞こえてくるため仕方がない。そっちはマサキに対応してもらおう。


 動き出した侵入者の青年を見てこちらも動く。

 立つため前屈みになったところを狙い、青年の肩を斬りつける。

 どこの筋を切れば力が入らなくなるか分からなかったため、無数の切り傷をつけることになった。


「ッ――――!!」


 苦悶の表情を浮かべ、力の入らない両手を見つめる侵入者。哀れで仕方がない。

 今後一切、同じことを行わせないためにも恐怖体験は必要。それをオレが教えるだけのこと。


 次々と体の関節の筋を切りつけ、ついでに指先にも無数の傷をつける。繊細な指は、鋭い痛みを感じさせる。


「クッ――――」


 青年は目玉を飛び出させる勢いで痛みに耐えていた。


「貴様らは決して許されない」

「勇者を敵に回したことを後悔するんだな」

「指名手配だ。逃げられない」

「どうでもいいよ。そんなこと」


 後ろではマサキと王族が対立中。

 少しヒートアップしている。

 会話の流れから、オレたちは指名手配を受けることになりそうだ。


「じゃあ、仕上げだ」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ――――」

「何事だ!?」


 マサキと対立する王族も、今の叫びには気を向ける他ない。

 青年は目玉をくり抜かれて叫んだ。これが真相。

 この世界はもう一つの現実。体験している訳だ。後は死ぬだけで、コイツには恐怖体験が心に刻まれる。


「さて……終わりだな」


 瞬間。

 背後から強烈な覇気を感じる。

 オレは一瞬にしてその場を転移し、元いた場所を確認する。すると。


「勇者よ。こっぴどくやられたな」


 そこには青年を見下す男が居た。

 さっき感じた覇気は、間違いなく急に現れた男のもの。

 横を見ればいつの間にかマサキも飛んで来ており、その人物を警戒せざるを得ない。

 王族の奴らの自信はここから来ていたのかもしれない。


「犯罪者であってるかな?」

「半々だな」

「どういうことだ?」

「オレたちとその青年。どちらも加害者でどちらも被害者ということだ」


 具体的なことは言わず、事実を告げる。

 この世界へ侵入者されたこともそうだが、マサキに冤罪を仕掛けたこと。その発端が第五王女の拉致監禁の隠蔽。こちらからすれば完全悪は青年の方。

 ただ現状を見れば、コチラが加害者と考えられる可能性もある。フラットに見て答えを口にした。


「そうか。ではここでお前たちを始末すれば、大体の事が収まるな」


 一瞬の殺気。


(転移だ!!)

(逃げろ!!)


 オレとマサキはそれを感じて転移する。

 確実な死がそこまで来ていた。

 逃げることで精一杯。

 結局、侵入者の青年を始末することは失敗に終わってしまった。

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